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僕に救いはないの?

まず、医師は名前を尋ねてきた。

なんでそんなことを把握していないのだろうと思ったのだが、実は玄森は戸籍登録をされていなかったらしい。

両親への聴取によれば自宅で玄森を産み、乳児期は可愛がっていたという(実際はその頃から煙草の火を押し付けて遊んでいたようだが)。

ある程度成長した頃、玄森の顔つきが整っていたのを知った二人は、玄森を闇商人に売り払うことを思いつき実際に連れて行ったのだが、教養のない両親から生まれたということで買い手がつかなかった。

逆恨みした両親は本格的に玄森をサンドバッグ代わりにするようになったという経緯があるらしい。

漆という名前は父親が適当に付けた名前で意味もないとのことだった。

それだけ過酷な状況にいても、生来極端に大人しく優しい性根だった玄森はただ泣くことしかできなかった。

「僕は…クロモリ・ウルシです」

「ウルシ君だね。これからよろしく。漆君は、体調が万全になるまでここにいることになる。回復したら、君の親戚が引き取ることになっているよ。それまでゆっくり休みなさい」

親戚?そんな存在がいたのだろうか。

「確かお父さんの叔父にあたる玄森頼人(くろもり よりひと)という人だったよ。君を是非引き取りたいと申し出た」

「どんな人なのか、僕は分からないけど…」

気のせいだろうか?タジタジになる玄森に、医師はほんの一瞬きつい目をしたような気がする。

「何も心配しなくていい。その人に引き取られなければ、君はモルモットになってしまう」

「モルモット?」

「君の御両親の業は、それだけ深い。本来なら二ホンエリアの規定により、漆君も廃棄されてしまうんだよ」

髭を撫でながら、医師は淡々と告げる。

「僕…生きたいです…」

火傷を負っている左頬に、玄森は大粒の涙を一筋流した。

「なら、大人しくしていなさい。それが一番のルートだ」


玄森は入院中、何度か採血をされた。

サンプルを取る為、と説明される。

それ以外は特に変わったことはなく、無事退院の日を迎えた。

「迎えが来たね」

医師に手を引かれ、玄森は玄関に初めて降りた。

窓から見えるのは一面の砂利道。迷彩柄の大型車やバイクが多く止まっていて殺伐とした風景だった。本当にここは病院なのだろうか?

「…初めましてだな、漆」

病院の前に真っ白なスポーツカーが止まる。

左側の運転席から出てきたのは、黒いサングラスをかけた体格のいい強面の男だった。年齢は50代初めくらいだろうか。右頬には大きな切り傷跡がある。堅気ではなさそうだ。

「待っていましたよ」

医師は何かアイコンタクトをして、戸惑う玄森をスッと押して頼人に近づけたのだが、その際に頼人は何か白い封筒を医師に渡した。

「では、失礼。おい漆、行くぞ」

「あ、あの」

「いいから乗れ」

頼人は戸惑う玄森を強引に引きずり、車の助手席に放り込んだ。

そしてすぐに車を爆速で走らせる。

「こ、これからお家にいくの?」

クロモリが問いかけると、頼人は顔色こそ変えないもののドスの利いた声で答える。

「お前、なんにも知らないんだな。お前は売られたんだよ。あの院長にな」


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