桜井拓の真相
黄瀬は周囲に誰もいないことを確認してから、再びあの学校の映像を流した。
「この映像に映る青年…桜井司令官と瓜二つだったろう?」
「ええ。本当に同じ姿をしていましたね」
「あの人は桜井拓。現司令官の叔父にあたる人だというのは、君もメモリーキューブの情報をみているからすぐに気づいたと思う」
「クローン並みにそっくりですよね。桜井司令官も、もしや複製された人物なんですか?」
そう、一馬と拓は瓜二つというより、全く同じ姿なのだ。
「桜井司令官はオリジナルだ。だが、失われたはずの能力者因子を持つ人なんだよ。しかも<賽>の因子を持つ、ね」
「<賽>の因子…?そもそも50年前の白藤さんの能力で能力者因子は無くなっているはずですし、その因子自体あの当時ですら3人しかいなかったのでしょう?」
原初の因子は、<審>と<賽>という兄弟が発現したものだと言われている。
<審>が攻撃型、<賽>が特殊型だった。
50年前の能力者、そして痕跡を持つ者は先に言った三人以外全て<審>の因子だった。
「何故なのかは誰も分かっていない。勿論私も分からない。桜井司令官出生時に採取した血液からその因子が検出された時に全国民の血液採取を急遽行ったが、因子の痕跡持ちも因子持ちも発見されなかった。新生児に血液採取を義務化したのもこの頃だけど、現在に至るまでに僅かに痕跡持ちが発見されただけで、因子持ちは出ていない」
とにかく、桜井司令官が因子持ちである理由は不明だと言う。
「ですが、桜井司令官の今の能力は<雷>ですよね。本来は違ったということですか?」
そうだ、と黄瀬は答える。
「私も伝聞でしか分からないが、桜井司令官の本来の能力は<擬態>らしい」
「擬態…ですか?」
「理想とする姿に、完璧に変化することができるというものだったそうだ。そしてそれに気づいた祖父・赤晴前司令官は、それを利用した」
自我を持った辺りから拓の写真を見せ続け、良いエピソードを語り続けたところ、ある時から姿が幼少期の拓と同じになったのだ。
「桜井司令官にとってもずば抜けて印象強い存在として刷り込まれたのだろう。桜井司令官の姿は叔父の姿と同じになり、そのイメージで容姿が固定化された。それが、姿がクローン並みにそっくりな理由だ」
祖父の勧めで軍に入隊し、その際に受けた人為的に能力者に変える実験を受けたときに打った注射は、桜井司令官の因子をどういう訳か<賽>の因子から<審>の因子に変質させた。
「…で、本人が自覚して発言した能力が、今の能力なんですね」
「そういうことだよ、詠斗君」
映像を切り、黄瀬は静かに物思いに耽るように一度目を瞑った。
数十秒後、ゆっくり目を開けると黄瀬は話題を変える。
「この後、サオリさんの血液検査をする予定だ。暴発防止のため、これから検査や実験をするときには必ず詠斗君が随行するようになっているからね」