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学校にて

詠斗は学校というものに通ったことがない。

崎下に引き取られてから一度、中学校という所に行かされそうになったことがあるが、地頭が良すぎて施設で触れ合った同年代と思われる人間と一切噛み合わなかった経験から集団生活が苦痛であり、また時間の無駄だという理由をつけて通学を拒否した。

本当なら学校に意地でも通わせるのが世の親なのだろうが、崎下は詠斗の言葉を聞いてすぐに自宅学習にしようと提案した。感情の起伏を全く表さず『人には向き不向きがあるからね』と穏やかに詠斗に言うだけだった。

結論から言えば、詠斗は通学を拒否したことは正解だったのかもしれない。施設での二の舞になる可能性が濃厚だった。

常に無表情・無感動である詠斗は施設でさえ気味悪がられていた。

知能が高いことは測定で分かっているものの、それを一切表現しようとせずただ虚空を眺めボヤッとしているのが詠斗だった。

何かを問いかけても無言でそっぽを向き、しつこく聞くとパタパタと歩いて逃げてしまう。

拘束して『答えるまで出られない』と脅してもどこ吹く風だ。ただ足をパタパタさせて、どこか一点を見ている。

詠斗がそのような態度を取っていたのは、観察能力が異常に優れていたのが一因としてある。

人の表情の僅かな機微で、その人が何を本心にしているのかが手に取るように分かったのだ。

不幸なのは、詠斗は他人の感情など知りたくもない(基本的に個人の自由な考えに興味がない)のに情報として入ってきてしまうことだった。

始めの頃はごく稀に反応を示すこともあったが、目から入ってくる情報が詠斗のキャパを超えていた。

早いうちに詠斗は全てに無関心を貫くようになっていった。その方が、気が楽だったのだ。

詠斗が反応するのは、自分と同じレベルの才能を持つ人間だけだった。

崎下の事は出会ったときから親近感をもった。

説明されなくても、崎下がごちゃ混ぜであることを直感した。

崎下の正体を知った時には、全てが腑に落ちた。

学校というものをあの時は拒絶したが、想像の世界とはいえ目の前で見ていると圧巻である。

平木高校は俗にいうマンモス校だった。5階建ての校舎は巨大で、政府直轄の小規模な研究所くらいの面積は使っているだろう。

中央の校舎の左横には広いグラウンドと体育館。右手には『課外棟』と壁に彫られている建物があった。

サオリは詠斗を中央の校舎に案内する。

「確か…3階だったかなあ?」

キョロキョロと見まわしながら、サオリは階段を上がっていく。

「えっと、3年1組…ここ!」

プラスチックの表札に『3年1組』と書かれた教室に入ると、既に教室ではほぼ全員が着席している。まだ授業時間まで時間があるのか、殆どの生徒が談笑している中で、一人の生徒に目が行った。

収拾のつかない黒い天然パーマの男子生徒が、誰とも会話せず突っ伏して眠っている。

その特徴的なパーマ、どこかで見たことがある。

「ユカミ…シン?」


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