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サオリさんの隔離場所

「…本当にサオリさんを守るため、でしょうか」

「詠斗君がそう思うのも、無理はない。そして、事態が良いとはお世辞でも言えない」

黄瀬は一度ピタッと立ちどまり、白銀の世界を映す廊下の窓を物憂げに眺めた。

「芹馬高官がサオリさんの存在に気付きかけている。桜井司令官が時間稼ぎをしてくれているようだが…。遅かれ早かれ、サオリさんは兵器化されるのが現実なんだ」

淡々と語る黄瀬の襟首を、詠斗は仏頂面でガッシリと掴んでいた。

「…黄瀬さん、見損ないましたよ」

「私も君も、一介の研究員でしかない。職を解かれれば、ただの市民となんら変わりない。そんな私たちの丸腰ではサオリさんを守れないことは、君も分かっているだろう」

「父の遺言なんです。『政府にサオリさんを渡すな』と。それだけは守らなければいけないものだった」

少し心を吐き出して冷静になった詠斗は、ゆっくりと力を落とすように両手を黄瀬から離した。

「君にできることは、まだある。彼女の側にいることだ」

「サオリさんの、側に…?」

黄瀬は右手を詠斗の右胸にコツンとあて、俯いたまま微笑する。

「能力者を繋ぎとめるのは、その人生で親しかった者だけなんだよ、詠斗君。仮に彼女が心を失っても、きっと君のことだけは覚えていてくれる。0になった心も、君の呼びかけになら答えてくれる」

「…?」

黄瀬の言葉の真意がよく分からない。0になったサオリが、自分の呼びかけに答えてくれる?

「さて、行こうか。立ちどまってしまった」

再び黄瀬が歩きだすと、その後は何も喋ることなくエレベーターに乗る。

「地下23階全てが、サオリさんを隔離しているスペースになる」

「…」

「通称、『ドリームスペース』。()()()()()()()()()()()()()()だ」

そう黄瀬が告げるころ、エレベーターの扉が開く。


「真っ白ですね」

エレベーターから降りるなり、真っ白な世界---。床や天井、壁の概念などが一切ない空間が無限にあるようだった。

「到着して間もなく、鎮静剤を打たれて眠ってしまったようでね。まだ目が開いていないんだろう」

「サオリさんは、どこに?」

「ああ、視覚制限をかけているからね。高官が抜き打ちで来ても見つけられないようにするためだろう。少し待ってくれ」

黄瀬がストレスカウンターでなにやら操作をすると、目の前にサオリが横向きになって眠っていた。

「サオリさん」

小さく詠斗がサオリの身体を揺らすと、眠たそうにサオリが眼を擦る。

「…エイト?と、おじさん?」

起き上がってペタンと座り込んでいるサオリは、まだ状況が把握できていないようだ。

「あれ?水族館にいたはずなのに。ここ、どこ?真っ白」

「この前はありがとう、サオリさん。お蔭で退院できたんですよ」

「??でも、あの時悪いもの、全部とれなかった。なんでか分からないけど、今のおじさん、わるいものほとんどいないね」

鋭いなあと黄瀬は苦笑いする。

「赦してもらえたんだろうね、きっと。さて、サオリさんと詠斗君は、しばらくここで過ごしてもらうことになったんだ」

自分もこの世界に居る?どういうことなのだろうか。

「ここはね、サオリさんがイメージすればなんでも形にできる場所なんだ。水族館で会った怖いおじさんがいただろう?その人からちょっと隠れる為にここに連れてきたんだ」

「スイ・リィエンて言われてた人?」

「そう、その人。その人が、サオリさんを遠くに連れて行こうとしているんだ。サオリさんは、嫌でしょう?」

「うん。あの人、キライ。なんでも吸い込みそうな…ブラックホール?みたいな力を感じるの」

「うんうん。しばらくここにいてくれれば、その人をやっつけられるから、ここで詠斗君と待っていてくれるかい?」

「エイトが一緒なら、いいよ。エイト、いい?」

「…いいですよ」

口がうまいな、と黄瀬のことを冷ややかに見ながらも詠斗はいつもの表情を崩さない。

黄瀬はサオリを一撫ですると、また穏やかな笑みを浮かべるのだった。

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