礎に問う
あの一件で、柳の部屋には隠しカメラが付けられた。
すぐに異常事態に対応するためだ。
監視カメラの映像は政府の中枢パソコンに保存され、その情報は付き人的立ち位置である礎のストレスカウンターの画面でリアルタイムで転送される。気がかりなことがあれば記録を遡ることも可能だ。
廊下に出た礎は試運転でストレスカウンターから監視カメラのデータにアクセスする。
粒子画面に鮮明に、柳が静かに眠っている姿が映る。
画面下には日付と時間が表記され、機能を切り替えればサーモグラフィーにも切り替えられた。
(今のところは、大丈夫か…)
画面を閉じ、礎は研究棟の屋上に足を運んだ。
これからは、細心の注意を払わなければいけないといった矢先の柳の兵器化命令。
当然、礎は反対だ。
だからこそ、桜井からの『選択する権利』とは何かを考えていた。
屋上の気温は温室のようになっており、夏の植物がよく咲いている。
高層階なだけあって、景色は中枢エリアを一望できる。
シガレットと名付けられている棒状の砂糖菓子を加えると、礎は柵に身体を立てかけて、出もしない煙を吐くようにシガレットをくわえながらフーッと鼻から息を漏らす。
本物のタバコは憧れではあったが、吸えば咽てしまって体が受け付けなかったため、子供の頃に好きだったこの菓子をタバコに見立てて加える習慣がついていた。
ほぼ砂糖の塊のこれを加えると、心が落ち着く。
「やっぱり、ここに居ましたね。礎救護隊員」
「高橋研究員と…玄森特殊隊員。私に何か用ですか?」
屋上のエレベーターが動きそこから現れたのは、いつもの凍り付いたような顔の高橋と無表情な玄森だった。
「桜井司令官からの指令、届いていますよね」
「ああ。通知が来ていたよ」
「玄森隊員が、少し貴方とお話ししたいことがあるそうなので…。私は離れていますから、少々お時間いただきたいです」
「…頼む」
「おやおや、私は玄森隊員に話せることなんてありませんよ?」
加えていたシガレットをかみ砕き、礎は馬鹿にしたような顔で玄森を挑発した。
「それでも、いい。聞きたい事案だけ伝える。答えようが答えまいが、それはアンタに任せる」
「フン。いいでしょう」
玄森は挑発に乗らなかった。事件の時もそうだった。本当の玄森なら、笑顔で斬りつけてきただろう。
「で、なんですか。聞きたいこととは」
「気づいているとは思うが…柳祥子のことだ」
「柳さんのことを知ってどうするんです」
「どうもしない。ただ、何か引っかかるものがあるからだ」
「…手短に」
「俺と柳は過去に関係があったのか。それだけだ」