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柳さんが無事ならそれでいい

柳の手は、ほんのり温かい。

悪夢から抜け出した柳は、またいつものように柔和な笑顔で礎の心を捉える。

「礎さんのせいじゃないでしょう。私が()()()()悪夢を見ただけです」

たまたまのことだ、と柳は言うが実際は違うのだ。だが本心からそう思い込んでいる彼女の言葉を否定することは、礎にはできそうもなかった。

柳の手を同じように握り返せても、まだまっすぐ彼女の顔を見ることもできない。

「悪夢って…何を見ていたんですか?柳さん、過去の記憶がないのでは…」

思い出させるようで申し訳ない、と前置きしたうえで礎が問いかけると、柳はそっと目を瞑って回想する。

「男の子が、親?に殴られて血みどろの床に叩きつけられている夢でした。夢の中の私は…7~8歳くらい。男の子も同い年くらい。私がその男の子の家に行ったら、玄関で彼が何発も力いっぱい殴られていて…。止めに入っても、私も吹っ飛ばされて。私、泣き叫んでいました」

「その男の子の名前…憶えていますか?」

現実でははハッキリと『ウルシ』と言っていた。

「何か名前を呼んだのは分かっているんですけど…何故か私には聞こえませんでした。夢だったからですかね」

記憶消去が効いているのか、柳本人は少年時代の玄森を思い出せないようだ。

「夢は不鮮明なこともありますからね。現実と妄想が合わさって、不思議なものになるときもあるでしょう。…とにかく、悪夢から覚めてくれてよかったです」

安堵してようやくいつもの意味ありげな表情に戻った礎を見て、柳も『礎さん、ありがとう』と微笑むのだった。

翌日以降の検査はとりあえず未定になり、柳は個室で一日安静にする判断を礎が下した。

「なんだかまだ眠たくて。今日は外出しないで一日この部屋にいます。本当なら、礎さんとまた図書館にいきたかったんですけど」

まだ疲れがあるのか、柳は話している間も瞼が閉じかかるくらい眠たそうだった。

「分かりました。検査もしばらく未定ですし、ゆっくり今日は休んでください」

ペコリと頭を下げ、礎は柳の部屋を出る。

検査が未定なのは事実だが、若干意味合いは異なる。

今日、桜井から今後の方針が提示されたのだ。

『柳祥子の兵器化を推進する』と銘打たれ、記憶操作は前回のように施設に被害をもたらす可能性が高いため、玄森との接触を重ねて過去を自然に思い出させるとのことだった。

この案が出たとき、礎は高官会議があったことを理解した。これは桜井本人の考えではない。芹馬の考えだと。

そして桜井からのメッセージには、最後にこう付け加えられていた。

『君には選択する権利がある』と。

何をだ、と考えたが、今はまだ桜井のその言葉の真意は分からなかった。

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