桜井の制約、そして計画は動き出す
桜井がどう思おうと、高官たちには何の関係もない。
高官の一族には出生した瞬間、強固なバリアを纏わせる義務がある。
このバリアは大型の爆弾を食らってもビクともせず、並大抵のことでは破壊できない。
それこそ核兵器が本人の頭上に直撃しない限り壊れないような代物だ。
加えて桜井は能力者になった時に『高官に攻撃できない』ように設定されている。
危害を与えようとすれば即座に桜井の心臓が握りつぶされるのだ。
「…恐れながら申し上げます。柳祥子の兵器化は、推奨できないことをお伝えします」
桜井は無駄な抵抗と分かってはいたが、忠告をすることを選んだ。
案の定、高官たちは乳歯で噛みついた桜井を不快そうに見下ろす。
「50年前のことを言っているのか、桜井司令官」
高官の12番席、猪頭が腕組をし、机に両足をドカッと乗せた。
「当時の柳祥子が、上戸…死ぬ前は崎下だったか。あの男の命令で我々の祖父世代を能力で惨殺した事件があったことを、先代から聞いている。だが、あの時の柳祥子は既に復元は不可。私たちに従順な存在に切り替えているはずだ。なにを心配することがある?いざとなれば貴様が廃棄すればいい、それだけの話だ」
その廃棄をするまでに、甚大な被害が出る。自分の命が保障されている人間は暢気なものだ。
「さて、閉会だ。桜井司令官、貴様の働きに期待する」
高官たちはパラパラと纏まりのない拍手をし、ワープ機能で退席していった。
…芹馬が、一人残っていた。
「芹馬高官。貴方が、今回のトラブルの首謀者だとお聞きしていますが」
ストレートに桜井は問いかけるが、芹馬はどこ吹く風である。
「だったらなんだね。私はこの国の軍備を整えてきた存在だ。表には公表していないが、この二ホンエリアの兵器に干渉が許されているのだよ」
くぐもった嫌味な笑い声をだす芹馬に、桜井も憐れむような目線を向ける。
「なんだ、その顔は」
桜井の顔が不快だったのか、露骨に見下すような表情になる芹馬を桜井は真っすぐ見据える。
「…彼女はある種、私よりも危険な存在であることは、過去の記録を見た貴方様ならお判りになると思っておりましたが」
「自我を奪えばいいだけの話だ。そのために痕跡持ちへの実験を繰り返していただろう」
「記憶の因果は、原種の能力者は並みのものではありません。そのことを、お忘れなきよう…」
芹馬にそう言い残し、桜井は会議室を去った。
「ふん、いっぱしの下級民がよく言う。いずれこのエリアの軍のシステムは私の一族が全権限を持つのだ。桜井拓、貴様などただの傀儡でしかないことを知るだろう」