ヤンガジ地区の祠
二ホンエリア屈指のミステリースポットと呼ばれるヤンガジ地区。
古来から妖怪(精霊?)が息づくと言われ、また訪れた者から人魂というような幽霊を見たという報告(ヤンガジ地区は自然保護区であるため、最低でも100年以上無人区)が頻繁に寄せられる。
ヤンガジ地区の奥地には大昔誰かが作った祠があるという伝承が地元に残されているが、衛星を使ってもその祠が発見されたことはない。
祠の周りには今も精霊が生息し、もし見つけることができれば未知の力を授けてくれると伝えられているようだ。
------間の世界-------
桜井拓は自身のいる間の世界に、来客の気配を感じた。
拓の居る世界は、生前の記憶を元に作られている『時間が止まった』世界である。
記憶以上の事は起きず、霊魂となっている拓がその記憶に話しかけ会話を成立させることはできない。
この世界に明確な意識を持って動いているのは拓だけで、それは拓にとって虚無そのものだった。
それでもごく稀に、授業をしている教室のスクリーンが暗転し現世を見ることが出来ることがあった。
この世界に来てから数回、スクリーンの暗転は起きた。
それは全て、『何かが大きく変わるとき』。
父・赤晴の暗躍や、親友・湯神の死。
拓に関係のあったことが、映されるのだ。
この世界に意図的に踏み込んでこれるのは、ただ一人。
白藤だけである。
「…やあ、さおり。久しぶりだね」
「…」
拓が居た学校の廊下を、白藤は学生時代よく着ていた服装でヒタヒタと歩いていた。
学生時代の明るさはなく、なにやら考え込んでいるような、或いはひどく哀れんでいる表情をして拓のことを見る。
「この世界に来るなんて、あの子を連れてきたとき以来じゃないか。…何か、思う事でも?」
白藤がこの世界に来るときは、決まって何かを抱え込んでいるときだと拓は知っている。
「私がこんな存在になって…50年以上経ったかな。色んな物事を見たよ」
「座って。話を、聞かせてよ」
拓は優しい表情で廊下の壁にしゃがみ、白藤に手招きをした。一度拓をじっと見つめ、白藤はストンと横に体育すわりをした。
「拓君のお父さんのことも、シン君が私を思い出せなかったことも。世界がどう変わっていくかも、私は知ってしまった。そして今、私が世界の鍵になっていることも」
白藤は膝に顔を埋め、心境を吐露する。
『不死の傍観者になど、なりたくなかった』とため息を詰まらせるように呟いた。
「スイ・リィエン、芹馬宗二。この二人が、ヤンガジ地区にある祠を探してる」
「ヤンガジ地区って、このエリア唯一の自然保護区だったか?確か昔話で有名な場所にある祠」
「そう。その祠は…『全ての始まりと終わりの場所』なの」
「全ての始まりと…終わり?」