危険な能力を、貴様はどうする?
「ついに芹馬は隠さなくなりましたね」
永瀬が執務室の扉を閉め、静かに呟いた。
普段ならすぐに口調も体勢も崩す桜井が、未だ険しい表情のままだった。
「ああ。一族の出自からして、彼の真の狙いは能力者の兵器化が完了した暁に私物化することだろうな」
上戸と梵が共同研究を始めるころ、高官全員を賛同させるという目的で当時の芹馬高官に能力者研究の真の目的(兵器化)を事前に教えた経緯があった。
兵器の開発に執心していた芹真家当主はすぐに食いつき、高官全員を口車に乗せて(兵器開発に消極的な高官が殆どだった)全員に賛同させた。
50年前に白藤の能力開花で計画が瓦解しても先代司令官の赤晴は諦められず、芹馬家だけに柳と玄森の復元をしていることは伝えていた。
だが、次代の芹真高官(宗二の父)は人間兵器という存在に難色を示す人物だった。
実験を秘密裏に行うことは認めたが、口出しや直接関与することはしてこなかった。
宗二が野心に満ちていたことを危惧し、能力者計画が未だ生きていることは引き継がなかったようだ。
宗二は就任するや否や、どこから情報を掴んだのかは分からないが既に能力者に関する情報を認知しており、今代の高官を昔と同じように巻き込んで能力者研究を大々的に行うことを桜井に命じさせた。
「芹馬家は確かに、この二ホンエリアを守ってきた一族ではある。二枚舌と、財力で」
「今代の芹馬高官は非常に危険な存在とお考えで?」
「ああ。だが、高官を排除する権限は誰にもない。高官という家柄で確定する地位は揺るがせられないことになっている」
眉間に大きな皺を作り、桜井は目を瞑る。
「…実験途中で、彼女を廃棄しなければならないかもしれないな」
『廃棄』。それは桜井直々に処刑するということを意味する。
他の痕跡を復元した能力者たちは既に意思を無くしているため、指示がなければ自発的に動くこともできない(しない)。
だが柳と玄森、例外として白藤、サオリは明確な自我を持っている。
意識ある能力者を殺すのは容易ではない。
下手に刺激すれば能力を発現し、甚大な被害が出かねないからだ。
だが桜井なら、雷の速さで相手が反応する前に殺すことが可能である。
故に桜井は暴走した能力者の『処刑人』の役割も負っているのだ。
「今回の事で発生した能力波の測定値を確認したが…本来の柳祥子はこんなものじゃない」
「これでまだ本領発揮していないのですか?」
「彼女の本来の能力なら、気合で瘴気を振り払えるなんて事態にはならない。食らった瞬間、対象は心身をズタボロにして再起不能にする。そんな危険な能力を芹馬高官が手中に入れ、解き放たせたがっているのなら、阻止しなければならないだろう。個人で管理できる代物ではない」
少々遊びすぎた、と桜井は心中を吐露したのを、永瀬は横にゆっくりと首を左右に二回振って答える。
「心中、お察しいたします」
永瀬が低い声でそう呟くと、桜井のストレスカウンターに緊急連絡が入った。
「高官会議が行われるそうだ。行くぞ」
「まさか」
「おそらく、芹馬が集めたのだろう。永瀬、君はすぐに動けるように会議室前で待機だ」
桜井は軍服の襟を正し、カツカツと執務室を後にして早急に会議室に向かった。