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始まり

初めまして、渡 蓮斗と申します。

趣味で小説を書いているのを誰かに見ていただきたく、投稿してみました。

少しずつ連載していくので、宜しければ閲覧していただけると嬉しいです。

育ての親である崎下灰理(さきした はいり)が死んだのは、詠斗(えいと)が23歳になり研究員になってまもない頃だった。

詠斗は幼少期に、崎下に引き取られた。詠斗に幼少期の記憶はなく、本当の父母の顔も覚えていない。唯一覚えているのは、病院のようなところに自身がいて、崎下が迎えに来たことだけだった。

今思い返せば、崎下は奇妙な男だった。

詠斗が幼少期の記憶を持たないのと同じように、崎下も若い頃の記憶がないのだと苦笑いしていた。

だが並ではない知識や頭の良さを持ち、働くことがなくても金銭に困る様子は一切なかった。

詠斗とコミュニケーションをとる以外は、いつも家の書斎に籠り、ぼうっとしながら分厚い本を眺めている。

そして深夜3時になると、書斎の壁に向かい合っているロッキングチェアに座り、数分間目を瞑ってなにやら考え事をしてから眠りにつく。

教育には熱心で、詠斗の勉学は全て崎下が教えてくれた。詠斗が学校に行くことを拒否した時には、すぐに家庭学習に賛同し、分からないことは全て崎下が答えた。

一度間違ったことを言っていないかと思い、パソコンで調べたが、結局崎下が学問で間違いを教えることは一度もなかった。

外で遊ぶことも、崎下は否定しなかった。むしろ色々なことを見るといい、と快く外に送り出してくれた。

父親として、崎下は世の中から見ればある意味理想の父親だっただろう。

問題は詠斗の方にあった。

詠斗は人間に関心を全く示さなかった。認識していたのは崎下と、職場の指導係だけだった。彼の脳が覚えようとするのは、自分を超える力を持つものだけだった。他の人間は詠斗にとっては背景でしかなく、覚えるどころか存在の認識もしなかった。


崎下が死んだと聞かされても、詠斗の心には何も響かなかったのだが、後日郵送された崎下の遺言に興味深い言葉が記されていた。

「地下室に残っている()()を守ってほしい。私の罪をそこに残してきている。君がどう思うかは分からないが、私にとってはとても大切なものなのだ。間違っても、政府の人間には渡すな』


地下室は唯一、崎下が詠斗を立ち入らせない場所だった。

そもそも大事に本棚の裏に扉は隠されており、暗証番号は何重にもかけられているその部屋のことはきつく口止めされていた。

家の中に崎下がいなくなっている時は、必ず地下室に行っているようだった。


そんな場所に、一体なにを残したというのだろうか。更に、崎下が言うにはそれは<守らなければならないもの>であるとのことだ。

()が遺したものを見てみたい、と詠斗は初めて思ったのだった。



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