九話
「成人おめでと、ビー」
「ありがとう、ニア」
今日は、僕の15歳の誕生日。
いつもなら、幼馴染三人に家族を含めて、机を囲んで食事をするんだけど。今日は僕とニア、ブリッツの三人で、僕の部屋で過ごしている。
明日、僕たちは冒険者になる為に、街へ向かう。その前祝いということで、両親が気を使ってくれた。
「やっとビーも、大人の仲間入りか! この俺が、大人とはなにかを教えてやろう!」
「うーん。また今度でいいかな」
「お? そうか……?」
「ビー。素直に、バカッツが一番の子供だって言っていい」
「なんだと、てめぇ!」
二人とも、なにもこんな日まで睨みあわなくても……。
「……いい機会だから、コレで決着をつけましょう」
「ニ、ニアッ!?」
「てめぇ、それは……!」
ニアが持参してきた袋から、一本の瓶を取り出した。これは、よく父さんが呑んでいるお酒だ……!
「ビーのお父様から、成人したから呑めって渡された」
「い、いや。僕たちには、まだ早いと思うんだけど……」
「いいじゃねぇか! たとえ酒だろうと、俺がニアに負けるなんてありえねぇ!」
「……そう。じゃあ、二人ともコップを出して」
どうしよう。興味はあるけど、まだ怖い気がする……。ここは、二人の決着の為のお酒ということで、僕は遠慮させてもらおう……。
「ビー……。コップ……」
「……ぼ、僕は――」
「ビー……。コップ……。出して……?」
「はい……」
こういう時のニアは、絶対に引いてくれない。僕はこのやり取りで、これから先も勝てることはないのだろう……。
「ほら、俺にもくれよ」
「あんたは自分で入れて」
「……まぁ、いいけどよ」
「はい、ビー。かんぱい」
「あ、うん。か、かんぱい」
少し口をつけて誤魔化すつもりが、完全に狙いをつけられている。なんでニアは、そんなに僕に呑ませたがるんだろう……?
「……まずいね、これ」
「初めてはそんなもの。すぐに美味しく感じるようになるから、ほら。もっと呑んで、ビー」
「う、うん……」
「……ビー、酒ってあんまり美味しくねぇな」
「ブリッツは黙ってて。さぁ、どんどん呑みましょう。ほら、入れてあげるから、ビー。もっと呑んでいいの、ビー」
なんだか今日のニアは、少し怖い気がする……。これ以上は呑んではいけない、僕のなにかが危ない。そんな予感がする……。
「そ、それよりさ! ほら、料理に手をつけてよ二人とも!」
「おぉ。今日の料理は、ビーが作ってくれたんだろ?」
「うん。ブリッツには、森魚の辛草焼き。それと果実米の辛草炊き。ほんとは、辛草を多用するのは嫌なんだけど、ブリッツが好きだからね」
「そうなんだよ! ウチのクソババア、風味が飛ぶとか言いやがって、辛草を使わねぇんだ!」
「そうだねー。分量を考えないと、簡単に風味は飛んじゃうね」
辛草を使った料理は、作った人間の腕前がはっきりと現れてしまうから、調理中は一瞬たりとも気が抜けない。
「……ビー、私のは?」
「お寿司だよ。森魚の切り身を、甘木蜜をベースにした少し甘めのタレに漬けて、果実米と握ってる」
「それは、とってもお酒に合いそう。ビーも一口どう? もっと、お酒が呑みたくなるかも」
「ニア、なんでそんなに呑ませたいのさ……」
僕のその問いかけに、ニアはニッコリと微笑むだけで、なにも言ってはくれない。ただ、その手にはお酒の瓶が握られている……。
「なんか、暑くなってきたな……」
「ブリッツの料理には、辛草がかなり使われてるからね」
「いや、そうじゃねぇんだよなぁ……。よし、脱ごう……!」
「えっ!? ちょっと、やめてよブリッツ!」
どうやら、僕の声も聞こえてないみたいで、ブリッツは上着を脱ぎだしてしまった。いや、いつも上半身を晒してるような服装だけどさ。
「あぢぃ……。よし、下も脱ごふっ……!」
「そんなに暑いなら、氷の鎖で涼ませてあげる……」
ズボンにまで手をかけたブリッツを、ニアは氷の鎖で拘束して止めてくれた。
「いや、危なかったよ。食事の席で、ブリッツの下着姿なんて見たくもないし。ニア、ありがとう」
「……ビー。あれはきっとお酒のせいで暑くなったんだと思う」
「あ、そうなんだ。そういえば、父さんもそんな感じだったな」
「……つまり、お酒を呑んでいる私もビーも、暑くなっているということ。それすなわち、脱いでも、脱がせても良いということ……!」
「あの……ニア……?」
ダメだ……。ニアの眼が、森釣りをする時のようになっている。獲物を捕らえるような、そんな眼になっている……!
「さぁ……ビー。私が脱がせてあげる……。大丈夫、お互いに初めてでもなんとかなるって、お母さんが言ってた」
「ごめんニア! なにを言ってるのか、さっぱりわかんないよ!」
「ビーは分からなくても良い。すぐに終わるから」
「ブ、ブリッツ! 助けてブリッツ!」
「ん……んぅ……。あー……メリーナ……。お兄ちゃんはここだぞー」
もう寝てるよこのバカッツ!
「はぁ……はぁ……。大丈夫、ビー。怖がらないで……」
「凄く怖いからニア! 落ち着いてよ!」
「うるせぇええええっ! 寝るときは静かにしろって、いつも言ってんだろうがクソ親どもっ……!」
急に起きたブリッツのその叫びで、僕とニアの間に静寂が訪れる。
なんだか、ブリッツの家の聞いてはいけない事情を知ってしまったような。そんな気持ちになった……。ニアも同じなのか、少し落ち着いてくれたみたいだ。
「ビー、ごめん……」
「ううん。……ご飯、食べよっか。ブリッツはまた寝ちゃったけど」
そのあとは、二人で静かにご飯を食べた。