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七話

「すみませんでした……」


 僕の家の居間で、床に頭をつけて土下座している父さん。


 そんな父さんの前には、鬼のような顔で怒っている母さんがいて、僕も母さんに正座を命じられている。


「ブリッツくんにあんなケガさせて、どう責任とるつもりだったのよ!」


「いや……。ブリッツの両親なら、話せば分かるかと……」


「ブリッツくんの両親だから、笑って許してくれたのよ! 普通なら、絶縁されるところよ!」


「はい……すみませんでした……」


 ブリッツは今、自分の家で安静にしている。ブリッツの両親は、詳しい話を父さんから聞いていたみたいで、笑って許してくれた。


 ニアも、今は家に帰っている。ニアのお父さんから拳骨をもらって、涙目で帰っていった。


「ビーも! お母さんに相談しないで、勝手な行動をしたことを反省しなさい!」


「はい……ごめんなさい」


「ビーは悪くない。今回のことは、俺が誘導したことだ」


「分かってます! 二人揃って、しばらくそこで正座してなさい!」


 そう言って、母さんは居間から出ていった。僕と父さんは、居間で二人きりになった……。


「父さん……。どうして、僕とブリッツを試すようなことしたの?」


「……ブリッツは、赤ん坊の頃から見てきた。俺にとって、自分の子供のように可愛い奴だ」


「なら、なんで……」


「おまえの魔法では、おまえ自身を守れない。それなのに、冒険者になるなど不安でしかない。ブリッツが、どこまで本気でおまえを守れるのか。それを知っておきたかった」


 父さんの言いたいことは分かる。でも、ブリッツはあんなにボロボロになったし、ニアも苦しい思いをした……。


「俺を恨んでくれてもいい。だがな、ビー。俺の子供は、おまえなんだ。俺はおまえの為なら、鬼にだってなる」


「父さん……」


「ニアは、おまえを守る為なら、なんだってしてくれるだろう。だが、ブリッツは真っ直ぐ過ぎる。大人の世界は、それじゃ生きていけない」


「大人の世界……?」


「あぁ。冒険者になれば、街へ出るだろう。もしかしたら、王都へ行くかもしれない。そこの大人たちは、今日の俺みたいに、ビーたちをいいように動かそうとするだろう。それを、分かってもらいたかった」


 僕たちは、魔法に浮かれて良い面しか考えてなかった。だから、父さんは外へ出ることの悪い面を教えてくれたんだ……。


「悪いな。俺には、こんな教え方しかできない」


「……そういえば僕に、料理を教えてくれる時も、見て覚えろだもんね」


「そういえばそうだな……。まったく、我ながら不器用なことだ」


「父さん……。僕、冒険者になるよ。15になったら、三人で村を出る」


「そうか。なら、それまでにもっと、いろんなことを教えてやる」


「うん……。ところで、僕たち。いつまでこうしてれば良いんだろう?」


 母さん、そろそろ帰ってきてくれないかな……。





「よぉ! ビー、元気してたか!」


「うん、僕は元気だけど……。ブリッツこそ、大丈夫……?」


 数日ぶりに会ったブリッツは、包帯だらけだった。


 本当はお見舞いに行きたかったんだけど、僕たち三人は、しばらく会うことを禁止されていた。まぁ、勝手なことをした罰だから、仕方ない。


「……ビー、なんでニアまでいんだよ」


「なんか、朝起きたら隣に寝てた……」


「今日から、ビー解禁……。久しぶりのビーを堪能しなきゃいけない」


「だってさ。ごめんニア、恥ずかしいから離れてくれない?」


「いや」


 朝からずっと、僕に張り付いているニア。このやり取りも、今で6回目で絶対に離れてくれない……。


「おい、ニア。よくも騙してくれたな……。てめぇ、ビーの親父さんが認めてくれてたって知ってたんだろ……?」


「だから? 私は、バカッツがどこまで本気かを試しただけ。ビーのお父様に言われてね」


「もっと手加減しろよ、だったら!」


「男が終わったことをいつまでも……。カッコ悪いよねー? ビー?」


「う、うーん……」


 手加減してあげた方が良かったんじゃないかな……。今のブリッツを見る限り、僕はそう思いはするんだけど……。


「ビー……?」


「う、うん。そうだね。ニアの言う通り」


「あ! ビー、おまえ、相棒を裏切りやがったな!」


「裏切るもなにも、ビーの相棒は私。バカッツはおまけ」


「てめぇ……。もう一回やるか!?」


「やめなよ、ブリッツ! まだ完治してないんでしょ?」


 元気そうに見えるブリッツだけど、二週間は安静にしろって言われたみたいだし。まだ傷は治りきってないはず。


「へっ! ニアのショボい攻撃なんざ、とっくに治ってるぜ!」


「ふーん。じゃあ、触ってみてもいい?」


「あ、ばか! やめろ! 近づくな、バカニア!」


「誰がバカニアだって! 待ちなさい、バカバカバカッツ!」


 あの、あんまり暴れない方がいいと思うけど……。あ、ブリッツがニアにやられた。


「……さぁ、ビー。これからについて、詳しく話をしましょうか」


「あ、うん。でも、ブリッツが……」


「大丈夫、どうせアレは話を聞いても理解できないから」


 そ、そうですか……。





「そんじゃ、村を出るのは、ビーの誕生日の次の日か……」


「そうなるね。今から準備をしとかないと、一ヶ月ちょっとしかないね」


「よゆー、よゆー。まだグダグダしてていいだろ……」


 ブリッツ、いつもそうやってギリギリで慌てるじゃん……。僕はちゃんと準備をしておこう。


「……ねぇ、なんか聞こえない……?」


「あん? ほんとだ……。なんか、怒鳴り声……?」


 僕も耳をすませてみる。たしかに、外から男の怒鳴り声が聞こえてくる。これ、村の人の声じゃない……。


「様子を見た方がいいかも。行って来て、バカッツ」


「てめぇが行けよ、ニア」


「三人でいこ? ね?」


 睨みあう二人を連れて、外に出る。


 家の裏手から、こっそりとバレないように怒鳴り声がする方へ近づいていく僕たち。そして、物陰に隠れて、その現場を覗き見る。


「あれ……いつもの冒険者パーティじゃないかな?」


「だな……。依頼は出してないはずなのに、なんでいるんだ?」


 その場所に居たのは、いつもモンスターを追い払う依頼を受けてくれる冒険者のパーティ。メンバーは男だけで、四人組。


「怒鳴られてるのは、村長だね……」


「……ビー、なにか嫌な予感がする。人を呼んでこよう」


「待てよ。ビー、俺に魔法を付与してくれ。俺が行く」


「嫌だよ。ブリッツ、絶対に喧嘩するでしょ」


 まだ傷も完治してないのに、冒険者パーティと喧嘩になったら、本当に危ない。だから、ブリッツに魔法を付与したくない。


「人を呼んでくる間に、なにがあるか……あ」


「村長……!」


 今まさに、村長が冒険者の男に殴られてしまった。どうしよう、このままじゃ……。でも、ブリッツは……!


「ブリッツ!」


「うるせぇ! 止めんなニア!」


 どうしよう、どうしよう、どうすれば……! 人を呼んできたんじゃ、村長が危ない! だけど、ブリッツに戦わせるわけにはいかない!


「ビー、ブリッツを抑えといて。あと、私に魔法を」


「ニア、危ないよ!」


「時間がない! ビー! 大丈夫だから!」


「……分かった! ニア、お願い!」


 僕が魔法を付与すると、ニアは走り出していく。今は仕方ない、とにかく少し時間を稼いでもらわなきゃ……!


「ブリッツ、僕の作戦を聞いて……」


「……分かった」


「今から、ブリッツに魔法を付与するから、それでたくさん人を呼んできてほしい。身体強化されたブリッツなら、速く呼びに行けるでしょ?」


「……ビーはどうするつもりだ」


「ニアだけに、危ない思いはさせられないよ」


「……あぁ、もう! 分かったよ! すぐに呼んでくるから、気をつけろよな!」


 ブリッツは、僕の魔法付与を受けると、凄い速さで人を呼びに行ってくれた。


 よし、気合いを入れろ、僕。相手は冒険者で、魔法を使える。攻撃はニアに任せるしかないから、僕にできることは囮だ。


 これから、冒険者になるんだ。こんなことで、怖気づいていられない!


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