三話
「ほんと……なんだな……?」
「うん……。僕もびっくりだけど……」
僕に、魔法が目覚めた。
それを聞いた二人は、固まってしまった。しばらくしたら、ブリッツは元に戻ったけど、ニアは未だに戻ってない。ピクリとも動かない。
「……そうか。そうか……よかった。ほんと。ごめん、言葉にならないけど。なんつーか、うん……」
ブリッツは混乱しているみたいで、クルクルとその場を歩き回りだしてしまった。正直、僕も混乱してる。
「ビーッ!!」
ニアが突然、抱きついてきた。
「やだやだっ! ビーと離れたくない! なんでもするから、私も連れて行って!」
「あの、ニア……。そのことなんだけど……」
「俺からも頼む! ニアを連れて行ってやってくれ!」
いや、あの。僕まだ、どんな魔法かも教えてないんだけど……。
ニアの僕を抱きしめる力がとても強い。というより、少し痛いぐらいでそれだけニアの想いが伝わってくるんだけど。
「だからね、二人とも。その……」
「好き! 私、ビーが好き! ずっと一緒にいたい!」
あの、それはすごく嬉しいんだけど。まずは僕の話を……。
「俺のことは気にすんな! 一人でだって寂しくなんかねぇ!」
「あー! もう、二人とも落ち着いてよー!」
ようやく落ち着いてくれた二人を座らせて、僕も腰を下ろす。
ブリッツはまだソワソワしてるし、ニアは僕にピッタリくっついて離れてくれない。さっき、どさくさに紛れて告白されたから恥ずかしいんだけども……。
「あのね、僕の魔法についてなんだけど。人に、魔法を付与できる力みたいなんだ」
「……なるほど」
「バカッツ。ビーの言ったこと、理解できてないでしょ」
「すまん、分からん。バカッツだから。もっと簡単に頼む」
自分で馬鹿だと認めてしまうくらい、理解できなかったらしい……。
「例えば、ニアに魔法が目覚めろって僕が思うと、その通りになる」
「……は? ビー、それは凄すぎないか……?」
「一応、条件があってね。魔法を付与する時は、しっかりと触れ合ってないといけない。付与してから、一日で効果が切れる。その時は、また付与しなおす」
一日で切れると言っても、また付与しなおせば良いから、毎日付与すれば良いだけの話。自分でも驚くぐらいの凄い魔法。
「ビー、私に付与したらどうなるの?」
「えっとね。二つ目の魔法として、同時に使えるみたい」
「そんなことも分かんのか?」
「うん、感覚で」
魔法については、感覚的に理解できる。ニアとメリーナから聞いてはいたけど、こんな感じなんだ……。
「ねぇ、ビー。このまま私に、付与してみてくれない?」
「うん。僕も一度、使ってみたかったんだ。いくよ?」
ちょうど僕にくっついているニアに、魔法を使ってみる。
なんだか、身体がポカポカするような暖かさを感じて、僕の中からニアに何かが流れ込んでいくような感覚。
「……どう?」
「分かる……。新しい魔法が使えるようになってる……」
「おお! 見せてくれよ!」
ニアは僕から離れると、立ち上がって右手を前に出す。
そうすると、手のひらから白い煙のようなものが出てきて、それが集まって透き通った青い鎖ができあがった。
「ニア、この鎖は?」
「氷の鎖みたい。自由に操れて、この鎖に触れたモノを凍らせる魔法」
「えっ!?」
ニアの周りを漂う氷の鎖に、触れようとしていたブリッツが飛び退く。
「かなり戦闘向きの魔法だね。僕はてっきり、ニアの視力強化に近い魔法になると思ってたんだけど」
「いつもよりビーのことが感じられたから、こんな魔法なのかも」
なんでだろう。少し怖い気がする……。
「俺! ビー、俺にも!」
「う、うん。それは良いんだけどさ……」
「なんだよ?」
「ほら、しっかりと触れ合うってさ……」
ニアに魔法を付与した時は、ピッタリとくっついていた。
しっかりと触れ合うって、どこからがしっかりとなんだろう。ブリッツと抱き合うなんてことは、できればしたくない。
「……手をつなぐぐらいじゃ、ダメか?」
「……一回、やってみようか」
ブリッツと手をつないで、魔法を使ってみる。
さっきのニアの時と、同じような感覚になった。これは大丈夫ということだ。良かった、手をつなぐぐらいで済んで……。
「なんか、むずがゆい感じだな」
「そう? 僕はお風呂の時みたいな感覚」
「私もお風呂の時みたいな感覚だった」
つまり、ブリッツはお風呂がむずがゆいと感じるのか。そういえば一緒に入った時も、出るのが早かった気がする。
「終わったけど、どうかな?」
「お? おぉ……。これが魔法か……」
「ブリッツも使ってみてよ」
「いや、ビー。これは……使っても分かりにくいぞ……」
使っても分かりにくいってことは、見ても分からないってこと? ニアの視力強化みたいな魔法だったのかな?
「なんかな、使ったら少しづつ身体が熱くなるみたいだ」
「……ん? その魔法、どういう効果があるの?」
「んー? なんか、強くなる。そんで、早くなる」
どうしよう。ブリッツの言ってることがよく分からない。身体が少しづつ熱くなって、強くなる。早くなる。どういう魔法……?
「ビー、たぶん身体強化の魔法だと思う。バカッツの説明が下手くそで分かりにくいけど」
「つまり、徐々に身体強化の効果が増していくってこと?」
「それだ! 俺はそれを言いたかったんだ!」
あれ? また戦闘向きの魔法だったんだ。僕の魔法付与は、戦闘系の魔法しか付与できないのかな?
「おぉ! こりゃすげぇ! ビー、見てろ!」
ブリッツはグルグルと、僕とニアの周りを走る。その速さは徐々に増していって、目で追いかけるのが精一杯なほど。
「バカッツ、もういいから」
「ふぎゃっ!」
走り回ってたブリッツが、急にこける。その足首には、ニアの氷の鎖が巻きついていた。
「凄いね、ニア。僕は目で追いかけるのが精一杯だったよ」
「私には視力強化があるから」
「ニアッ! 鎖! 足! 凍るから!」
「心配しないで、バカッツ。私の意思で制御できるから」
同じ戦闘向きの魔法でも、二つの魔法が使える分、ニアの方がブリッツより強いかも……。
「思ったんだけどよ。俺たちが魔法を使えるようになったし、もう冒険者に依頼しなくても、俺たちでモンスターを狩れば良いんじゃないか?」
「おぉ。ブリッツ、それ名案だよ。……とりあえず起き上がりなよ」
「というよりも、早くビーの両親に伝えに行くべき」
ここ最近、ずっと魔法は目覚めたかと聞いてきていた両親。正直、しつこいなと思ってたから、その驚く顔が楽しみだ。
「それに、ビーの魔法なら。私たち離れなくても済む」
「ほんとだな! 俺たちもビーと一緒に、街に出れる!」
「メリーナも合わせて、また四人で一緒にいられるね」
「そうだ、メリーナだ! 俺たちも冒険者になろうぜ! そんで、メリーナも誘ってパーティを組もう!」
二人とも戦闘向きの魔法だし、冒険者は適職だ。先に冒険者になったメリーナも仲間に入れれば、また昔みたいに四人に戻れる。
「ビーの魔法は、私たちの救い。ありがとう、ビー」
「そうだな。これであのムカつく冒険者パーティに、依頼をしなくても良くなるぜ! あいつら、俺たちをいつも見下してやがったからな……」
「冒険者は魔法を使えて当たり前だからね。あの人たちからすれば、魔法に目覚めてない人は、下の存在だろうし」
「私のことも、いやらしい目で見てた……。もう会わなくて済むなら嬉しい」
「んじゃ、さっそく村に戻ろうぜ! 森釣りなんかやってる場合じゃねぇ!」
早く村に戻るのは賛成だけど、僕は森釣りは好きなんだけどなぁ。




