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二話

森の中でも浅いところ。


 木に釣り糸を引っかけて、「森魚」が食うのを待つ僕とブリッツ。お互いにまだ、3匹しか釣れてない。ブリッツは暇そうにあくびをしている。


 森釣りを始めて、もう2時間近く。ニアは早々に、7匹釣り上げて休憩に入った。いつものことだけど、休憩中は僕をずっと見てくる。


「……ニア。いつも気になってたんだけど、僕を見て楽しい?」


「とっても……」


「そ、そっか。それならいいや」


 なにが楽しいのか分からないけど、ニアが良いならいいや……。


 少しの沈黙。そして森魚が、かかる気配はまったくない。ここ数週間はこんな感じで食いつきが悪い。というより、森魚の数が減っている。


「最近、釣れねぇな……」


「そうだね……。やっぱり、モンスターの被害が増えてることが関係あるのかな」


 つまらなさそうに呟いたブリッツに、そう言って返す。


 ノーマ村はここ最近、多くの問題を抱えている。その中でも、モンスターによる被害が増えてきていることが、大きな痛手になっている。


 畑への被害や、森魚が寄ってこなくなるなどの問題はもちろんだけど、なによりモンスターを追い払う為に、冒険者へ依頼する回数が増えていることでお金が必要になっている。


「モンスターで思い出した! いつも依頼を受けてくる冒険者パーティの奴ら、今度は値上げしないと受けないとか言いやがったらしい!」


「バカッツ、それほんと? なんで急に……」


「ほら、半年前にメリーナが冒険者になっただろ? それで、メリーナが仕送りをしてくれてんのを、どっかで聞いたらしい。……ニア、次にバカッツって言ったら怒る」


 メリーナ――僕たちの幼馴染にして、ブリッツの妹。


 2年前、魔法に目覚めたメリーナは、半年前に成人を認められて冒険者になった。月々、村に仕送りをしてくれるような優しい幼馴染。


「村まで来るのが面倒で、人気のない依頼だからねぇ。いつもの冒険者パーティぐらいしか受けてくれないって話だし」


「ただでさえ、依頼の回数が増えてんのに値上げって……。どうしろってんだよ」


 ブリッツが頭を抱えて、ニアは暗い表情になってしまう。さっきから森魚が釣れないことも含めて、今の僕たちの気分は最悪だった。


「二人とも、休憩に入ったら? 私の森魚を1匹あげるから、みんなで食べましょ?」


「……そうだな。ビー、刺身にしてくれよ!」


「分かった。ニア、準備を手伝って。ブリッツは森魚を締めて」


 二人に指示を出して、持ってきた布袋から道具を取り出す。


 僕が包丁の準備をしている間に、ニアがまな板机を組み立てて、ブリッツが森魚を締める。こうやって休憩時に、森魚を食べるのはいつものことだから、みんな手慣れている。


「ビーは良いよなぁ、親父さんが王都の店で料理人やってたんだから。毎日うまいメシが食えてよ」


「ブリッツは泊まりに来るたび、おかわりしてたね」


「……泊まりか。最近、まったくないな」


 ブリッツのその言葉に、準備していた手が止まる。誰かの家に泊まりにいったのも、ウチに泊まりに来たのも半年前で最後だった。メリーナが村を出てから一度もない。


「ビー。もうすぐ、15の誕生日だよね……。魔法には、目覚めてないよね……?」


「ニアッ! やめろよ……。一番、辛い思いしてんのはビーだ……」


「……ごめん、ビー」


 僕はもうすぐ15歳。それまでに魔法に目覚めない場合、その先の人生で目覚めることはない。成人と同時に、魔法に目覚めることはなくなる。


 村の大人たちは、僕が魔法に目覚めてメリーナのように外へ出て、お金を稼いでくることを望んでいる。だけどそれは、ブリッツとニアの二人と離れることになる……。


「でも私は、できれば傍にいたい。ビーには悪いけど、魔法に目覚めてほしくない……。目覚めたとしても私みたいなハズレなら……」


 ニアは、魔法に目覚めている。


 その力は「視力強化」といって、かなり遠くまで見渡せる上に、集中すれば全ての動きがゆっくりと見えるというもの。


 魔法に目覚めてない僕とブリッツからすれば凄い力だけど、世の中ではハズレ扱いされている。もっと直接的な力を発揮する魔法でなければ、街へ出ても良い職にはつけない。


「そりゃ、俺だって離れるのは嫌だ。でも、ビーにこんな国の端っこにある村で終わってほしくねぇ……。俺の分までって、そう思っちまう」


 いつの間にか僕たちは、完全に手を止めていた。


 二人とも、涙目で寂しそうな顔をしている。僕もそうだ。さっきから、視界がぼやけてる。今にも涙がこぼれそうだ……。


 メリーナが村を出て、僕は寂しかった。それでも二人がいるから、まだ良かったんだ。きっとメリーナは、一人で頑張ってる。僕には無理だ。


「僕は……魔法には目覚めないと思う。だって、もうすぐ15だよ? 今から目覚めるなんて、まったく思えないよ」


 それは本心でもあり、願いでもある。良い職について、豊かな人生を生きるよりも、僕は二人と離れたくない……。


「そう……。そう、ビーはずっと一緒。魔法になんて目覚めない、これからもこうやって、ずっと一緒」


「……そうだよな! これからもこうやって森釣りにきて、休憩にはビーに森魚を捌いてもらって!」


「そうだよ、きっとそう。ほら、二人とも準備を再開しよう! 僕もすぐに……くしゅっ!」


 三人の間に、静寂が訪れる……。


 今から仕切りなおそうという時に、言葉の最中でくしゃみをしてしまった僕。そんな僕を見る二人の顔が、徐々に笑いをこらえる表情へと変わっていく。


 だけど、今の僕にはそれを気にする余裕がなかった……。


 背中を大量の冷や汗が流れていき、顔が青ざめていくのが自分で分かるほどに焦っていた。血の気が引いていく音さえ聞こえる気がする。


「ぶふっ! ビー、おまえ……そこでくしゃみは……」


「ビー……。大丈夫……。私は……。笑わない……から……」


 ダメだ、二人に返事する余裕もない。


 どうしよう、どうしよう。その言葉だけが、僕の頭を駆け回る。まったく想像もしていなかった、こんなこと……。


「……ビー? どうしたの?」


 僕の様子がおかしいことに気づいたニアが、駆け寄ってくる。


「僕……。魔法に、目覚めちゃった……!」


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