十四話
「ブリッツ!!」
「おぉ! ビー、良いタイミングだ!」
ニアと急いで宿に戻った僕の目に飛び込んできたのは、今まさに宿から知らないおじさんを連れて出てきたブリッツだった。
たぶんあれがサフィーのお父さんだ……。
長い金髪を後ろに流した、とても大柄のおじさん。筋骨隆々で、線の細いサフィーとは似ても似つかないが、なんとなくあれがお父さんなんだと分かってしまう……。
「聞いてくれよ、ビー。このオッサン、サフランとか言う女を探してるらしいぜ。なんか、俺たちと歩いてんのを見たとか言いやがるんだけどよ」
「……あ、うーん。あのね、ブリッツ。なんか、サフィーの本名ってサフランなんだって」
「あ? じゃあ、このオッサンが探してるのは、サフィーってことか?」
「そうなるね……」
「そっか。悪かったな、オッサン。……あれ? そういや、サフィーはどうした? おまえらと一緒だったろ?」
あれ? 先に宿に戻ったはずなんだけど……。
ブリッツに声をかけなかっただけで、女部屋にいるのかもしれない。できれば、このままサフィーのお父さんを引きはがしてしまいたい。
「なんだか、買い物があるって別れたんだ。ね、ニア」
「……うん。私たちもどこにいるかまでは知らない」
「あー。なら仕方ねぇな。オッサン、サフィーには言っとくから、また明日でどうだ?」
よし、いい感じに引きはがせそうだ。このまま、今日は帰ってくれれば助かるんだけど……。
「そうか……。それなら仕方ない、今日は引き下がらせてもらおう。しかし、これはただの猶予だ。今日のうちに、しっかりと別れを告げておけ」
どうやら、サフィーのお父さんは僕とニアの誤魔化しに気づいたみたいだ。
「……なんのことでしょうか?」
「私も冒険者として随分長い。冒険者にとって、最も大事な才能はなにか知っているか?」
「……いえ」
「直感だ……。冒険者として上を目指せば、ギルドを通さない個人からの依頼を受けることに直面する。その時、依頼相手の嘘や誤魔化しを見抜く直感が長けているかどうかで、その先を生き残れるかどうかが決まる」
「貴方の直感が、僕たちの言葉が嘘だと告げたと言いたいんですか?」
「……少年。私を前に、そこまで堂々とした態度を崩さないのは、好感が持てる。しかし、サフランのことは親子の問題だ。部外者が割って入っていいものではない」
「パーティを組むと約束しているので、部外者ではありませんから」
「そうか……。ならば、私も容赦はしない。覚悟しておけ」
サフィーのお父さんはそう告げると、長い金髪を翻して去っていった。
かなり怖かった……。容姿もだけど、あの迫力はまさに冒険者の頂点というに相応しい凄さだった……。
「……ビー。あれ、サフィーの親父ってほんとなんだよな?」
「そうだね。あんまり容姿は似てないけど」
「ふーん……。なんか、気に食わねぇな。あのオッサン、なんでサフィーを探してんだ? 親子なんだろ?」
「……なんか、サフィーを結婚させたいらしいんだけど、サフィーはそれが嫌で逃げてるみたい」
「あ? なんだよそれ、親父が娘に結婚を強制させてんのかよ。余計に気に食わねぇな……」
「それでね、ブリッツ。サフィーのお父さんは、冒険者の頂点「神級」らしいんだ」
「へぇー……。「神級」ねぇ……。は? 嘘だろ……?」
「ほんと……」
ブリッツは、大きく口を開けて固まってしまった。なんか、オッサン呼びとか失礼なことしてたもんなぁ……。
「……ビー、サフィーは?」
「あ、そうだね。部屋にいるかな?」
「見てくる」
「うん、お願い」
サフィーが部屋にいるかどうかの確認に行ったニアを見送って、ブリッツを見ると、まだ固まっている。かなり驚きだったみたいだ。
「おーい、ブリッツー?」
「……ビー。俺、もしかしたら天才かも」
「……いきなりどうしたの?」
「聞け、ビー。いいか、あのオッサンはサフィーの親父であり、「神級」の冒険者なんだろ?」
「そうだね」
「そんで、サフィーはもう俺たちとパーティを組むって約束をしてる。つまりは、仲間だ。その仲間が、望まない結婚を強制されてる。これは俺たちが止めなきゃいけねぇ。そう、戦ってでも……!」
なんだろう。凄く嫌な予感が……。
「俺たちが、あのオッサンに勝つことでサフィーの結婚を取り消させる。そんで、俺たちは「神級」冒険者に勝った超期待の超大型新人として、華々しく冒険者デビューだ!」
「……バカッツは、ほんとに馬鹿なんだよねぇ」
「……なんだよ、ビー。心配すんな、俺がきっちりとあのオッサンをぶっ飛ばしてやるからよ!」
ダメだ、ブリッツは使えない……。後で、ニアときっちりと話し合っておかなきゃ……。




