十三話
「ふぅ……。ケーキ、美味しかった」
「ニア、よくあの後に食べれるね……」
サフィーが店を出ていってしまった後、僕はケーキを食べる気になどなれなくて、ニアにあげた。僕の分も合わせて、ニアはバクバクと食べてしまった。
「今から歩き回るから、エネルギー補給はしとかないと」
「今から歩き回るの……?」
「……うん。どうしても気になることがあって」
「サフィーのこと?」
「それもだけど、メリーナのことも」
メリーナのこと?
有名な冒険者パーティに誘われたって、サフィーが言ってたから、その誘いに乗って王都に行ったって話だけど。
「あのメリーナが、家族に知らせもなしで王都に行くとは思えない」
「……言われてみれば。ブリッツは知らなかったよね」
「ブリッツに、メリーナへの荷物を頼んでいた二人の両親も知らないんだと思う」
「そっか。この街にいないんだから、荷物も渡しようがない」
家族思いのメリーナが伝えないままに、この街を出て王都に行くっていうのは、改めて考えてみると変だ……。
「それにこの間の村での一件も気になる」
「……この間って言うと、冒険者パーティのこと?」
「そう。結局、この街から兵士が来て、連行されていったけど。……前から私たちを見下してはいた奴らだけど、あそこまで酷くはなかった」
「そうだよね、僕も少し思ってたんだ。それに、なんであの冒険者パーティは村に来ていたんだろう。依頼も出してないのに」
「なんだか、依頼が出されていなかったことに、疑問を抱いている感じだった」
考えれば考えるほど、変な感じだ。あの冒険者パーティがモンスターを操って、村を襲わせていたんじゃないか。なんて疑問が浮かび上がる。
「それと……。ビーのお父様についても」
「……え? なんで僕の父さん?」
「ビーの魔法について話をした時、すぐに国へ保護されることを提案してきたでしょ? そこが引っかかるの」
「ごめん、僕にはまったく……」
「国の端っこにあるような村の住人の話を、どうやって国へ持っていくの? 普通なら、ここら辺を治めている領主に保護されに行こうってなるはずなの」
そっか……。父さんは、いきなり国に保護されるのが良いなんて提案を出してきた。
「ビーのお父様は、王都で料理人をしてたんでしょ? ビー、なんの魔法もない人間が、王都で料理人をできると思う?」
「……無理だね。でも僕、父さんが魔法を持ってるなんて聞いてないよ」
「なんでビーに言ってないのかは分からない。それに、ビーのお母様も気になるの」
「……そうだね。二人が出逢ったのは、王都。つまり、母さんも王都に出入りできるか、王都に住んでいた人間。魔法が使えるかは分からないけど、そこら辺の村人じゃ無理だね……」
改めて考えると、僕は二人のことをなにも知らない……。今から帰って聞いてみても、きっと教えてはくれない。そんな気がする。
「たぶんだけど、ビーのお父様は国の上層部の人間と、接点があるんだと思うの。だから、すぐに国へ保護されるなんて提案ができたんだと思う」
「ニアは、それが気になる……?」
「とっても。ビーが、気乗りしないのは分かるけど……」
「そうだね……。今まで、僕にも話してくれなかったんだ。二人にとって、良いことじゃないのかも……」
「ビーには悪いけど、私はそれを調べる。なにがきっかけで、ビーに危険が及ぶか分からない。だから、できるだけ対策を立てて置きたい」
ニア……。僕の為に、そこまで考えていてくれたなんて……。
「それに、デートにもなるし」
「……え?」
「さぁ、ビー。行きましょ」
「あ、はい……」
「あんたら……」
「あ、さっきの……。えーと、バンゴさんでしたっけ……?」
「ヴェルゴだ」
「あ、すいません……」
ニアと歩き回って、情報収集をしていた僕たちは、偶然にもさっきのヴェルゴさんと鉢合わせした。
「……サフランはいないのか」
「えぇ、先に宿に戻りました」
「どこかの誰かのせいで……」
「ぐっ……。悪かったな、だけど、あんたらの為に言ってんだぜ」
僕らの為、か。このヴェルゴさんとサフィーの間に、なにがあったんだろう。前に同じパーティだったみたいだけど……。
「あの、サフィーになにをされたんですか?」
「……サフランには、なにもされてねぇ。強いて言うなら、あいつの事情を教えてもらってなかったって、そんだけだ。もし聞いてたとしても、あの頃の俺なら、結局は同じ選択をしただろうけど……」
「サフィーの事情っていうのは?」
「……親さ。あいつの親父は、冒険者の頂点に君臨する、選ばれた八人。その一人である「武神」だ」
サフィーのお父さんが、武神……!?
冒険者には、階級というものが存在している。それは、強さや貢献度といったもので判断されている。
「初等級」を一番下として、その次の六等級から一等級までが、一般的な冒険者の階級として存在する。ただし、例外もある。
一等級より更に上、その枠内に収まらない強さの持ち主には、例外として更に上の階級が与えられる。
それが、「聖級」。そして、その上であり頂点でもある「神級」。
聖級でさえ、その扱いは侯爵相当だって話だ。神級ともなれば、公爵相当の扱いを受ける。そして、それがサフィーのお父さん……。
「サフラン……。今はサフィーって名乗ってんだったか? サフィーは、親父に結婚を強制されてんだよ」
「結婚、ですか……」
「だけど、サフィーはどうしても冒険者になりたかったらしくてな。親父の元を逃げ出したんだ。それで、俺たちと出会った」
「その後、どうなったんですか……?」
「簡単さ。サフィーの親父が、俺たちのパーティに乗り込んできて、俺たちはそれに反発した。サフィーは仲間だからって、抗ってみせたさ」
「……」
「結果、このザマさ……。圧倒的な力の前に、俺以外の奴は心が折れたらしい。冒険者を辞めて、田舎に帰ったよ。サフィーは、諦めずに何度もパーティを組んでは、親父に潰され。その繰り返し」
サフィーのお父さんは、なんでそこまでサフィーの結婚を強制するんだろうか……?
「そして今じゃ、こんな王都から離れた街に来ている。俺も、あいつも」
「……ビー。私たちも危ない」
「どうだろう。こんな街まで追いかけてくるのかな?」
「来るぜ。……あの親父さんは来る。だから、悪いことは言わねぇ。今のうちに、あいつとはパーティを解消しておけ」
「それは……。サフィーと、よく話し合ってみます。ありがとうございました」
「……そうか。まぁ、無事だけは祈っておいてやる」
そう言うと、ヴェルゴさんは歩いていってしまった。
「……ビー。私、凄く嫌な予感がする」
「え? なんで?」
「……サフィーはさっき、宿に戻った。そして、宿にはブリッツがいる。しかも、メリーナに会えなくて不機嫌」
「……いや、さすがにそんなことはないと思うけど。……急いで戻ろう」
なんでだろう。なんだか、とっても嫌な予感が……。そんなタイミングが良いことあるわけないのに。なんでだろう……。




