とある竜の過去
初投稿です。
まだまだ文章は拙いですが、楽しんでいただければと思います。
”雷竜”。
その名は、強者の一角として世間に知られていた。
彼女は、その中でも特に実力者とされる、一族に生まれた長女。父も母も、数多の武勇伝を作りあげ、その第一子として大きな期待を受けていた。
しかし、彼女の体は子供のままで、成長に恵まれなかった。
後から生まれた弟妹達にあっさり才能を抜かれ、両親の期待は一変、失望へとすり変わる。弟妹達が物を覚えて成長するたび、その冷めた視線が胸を穿つ。日を経る毎にそれは強まっていき、気付けば弟妹たちからも、嘲りを受けた。
どうにか挽回しようと、夜な夜な訓練に勤しむが、如何せん、体が成長しない。できる事が限られていく。
そんなある日。
訓練に夢中になって、少々大きな怪我を負ってしまう。小さな翼で宙をふらふらと飛ぶ。そしてようやく、住処にたどり着いた時。緊迫した空気に気づく。恐る恐る近づくと、住処の前で対立する父竜と別種の竜がいたのだ。その竜は、危険な存在だった。
”同族食らい”と噂される黒竜。
極めて希少な種で、この森の近辺では、まず見かけない。なんの冗談か、そんなレアな遭遇をしていたのだ。そして彼女が近づいた瞬間、父竜の黄色い目は彼女へ冷たい視線を向ける。そのまま言葉を発した。
「お主の後ろにいる竜を、くれてやる」と。
その一言で、彼女の身は凍りつく。
嘘だと言って欲しい。冗談だと言って欲しい。
だが、父竜だけでなく、母や弟妹達からも、同種の視線を向けられたのだ。
嘘だ、嘘だ。
こんなの信じられない。
嫌だ! 助けて!
現実は、彼女を救わない。
黒竜の視線は、いつのまにか彼女を捉えていた。家族たちは、タイミングをみて、そそくさと去っていく。誰も彼女を助けようとはしない。絶望が押し寄せて、彼女は抜け殻のように突っ立ていた。
抗う気力がない。
もう、死んでも構わない。
彼女の諦めを悟って、黒竜が近づく。
迫る死神の足音。
その時。
突如、彼女の周囲に魔法陣が展開された。
薄紫に明滅する光は、結界の様に彼女を包み、黒竜を弾き飛ばす。救われた安堵よりも、戸惑いの中、彼女は光る陣と共にその場から消え去る。残り火の様に光が宙で弾け、森は静まりかえる。
そして、出会った。
自分の主人となる騎士と。
同時に、「命を救った救世主」と。