表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔が飛び交う町の夜に  作者: もこたすぃ
1/1

第零章 これは序章に過ぎない

「──っ!!」



 真夜中、息を切らせ目を覚ました(はる)。尋常ではない量の汗を体中に掻きながら、まるで周りに何かいるかのように目を泳がせている。首に掛けられた十字架を拳が震えるほど強く握り、ブツブツと言葉を唱えると、(はる)は安心したかのように再び眠りについた。



 5月下旬、季節は春から夏へと変わりつつあったが、今週はずっと雨が続いている。今年の梅雨入りに、クラスの皆は腹を立てている様子だった。



「ね!これ凄いよ(はる)!」


 (はる)の前に座っていた(あかね)が突然振り向き、目の前に雑誌を突きつけてきた。『密室殺人、死因は窒息!?』という見出しが、雑誌の記事になっている。(はる)は少しすると、雑誌を手に取り、興味深そうに目を通した。

 被害者は地元の国立大学に通う二年生、相坂 鈴(あいさか すず)さん。自宅のベットで血まみれになっている所を母親が発見。直ぐに病院へ搬送されたが、死後2時間以上が経過していると見られた。部屋の扉や窓には鍵が掛けられており、その部屋は完全な密室となっていた。母親が持っていた合鍵の使用により、部屋へ入ることが出来たため、母親が犯人の可能性が高いと見られたが、被害者の死に方が異常であったため、その可能性は低いとされた。昨日行われた司法解剖により、死因は窒息と判明したが、体中の血液を全て抜き取られ、その体に掛けられていたことから、快楽殺人ではないかと言われている。

 その記事に目を通し終えると、(はる)はゴクリと音を立て、生唾を吞み込んだ。推理小説などが好きだった(はる)からすれば、それこそ推理されるべき事件ではないかと興奮していたのだ。


「一昨日起きた事件みたいなんだけど、オカルトの匂いがするよね!」


 (あかね)のその発言に、(はる)(あかね)が相当なオカルト大好き人間だということを思い出した。そんなオカルト好きの(あかね)とは反して、(はる)はオカルトといった類いを全く信じない人だった。


「私は、計画的な殺人だと思う。案外お母さんも協力してたりするかも」


 手に持っていた雑誌を(あかね)へ返し、この事件がオカルトではないと告げる。すると(あかね)は再び目の前に何かを突きつけてきた。



「新聞の記事?」


 切り取られた新聞の切れ端は、さっきの事件について書かれた記事だった。雑誌とはまた違う見出し、『オカルト的事件ではないか!?』と取り上げられていた記事に、(あかね)の意気揚々とした顔が嫌でも浮かんだ。

 被害者の相坂(あいさか)さんは死亡当時、首に十字架を掛けており、死んだ後も強く十字架を握り締めていたとされている。十字架に詳しい専門家は、その十字架が悪魔除けの意味を成していると述べた。


「……これって」


 (はる)には少し、心当たりがあった。一昨日、この事件が起きた日と同じ日に、(はる)はこれに似た夢を見ていたのだ。

 薄暗い部屋、窓から差し込む月明かり。そして──(はる)を囲むように、ただ(はる)をじっと見つめる複数の黒い影。恐怖に無意識で口を動かし、何かを唱えた気がする。



「──悪魔よ、死してなお美しく我に尽くせ」


 記憶を頼りに夢と同じ言葉を口にした次の瞬間、甲高い不快な雑音が頭に響き、(はる)は思わず目を閉じた。その不快な音が鳴り止むのを待ち続け、そして、音が鳴り止むと──(はる)はゆっくり、目を開けた。




「──え」


 見たことのない生き物の上へ乗り、荷物を運ぶ馬車のような物。人が行き交う光景は、幻のように思えた。が、立ち止まる(はる)の体には、行き交う人の荷物やら腕が当たり、幻でないことは嫌でも理解できた。


「ど、どうなってんの!?」


 これはまだ序章に過ぎない。(はる)の異世界生活は、これからが本番なのだ──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ