4.ウサギは怒らせてはいけない生き物のようです
「……アリス。今すぐこの扉の鍵を開けなさい」
男の声は鉄を思わせる冷たさがあり、心臓にナイフが触れるような錯覚を覚えた。
驚きと恐怖のあまり体はおろか唇さえ動かせず固まっている私に、彼はため息を吐いた。
「アリス、もう一度言う。そこの、扉の、鍵を、開けなさい」
ゆっくりと一語一語強く発音して男が言った。
けれどその言い方が怖くて、呼吸までもが固まった。
反応のない私に、彼はさっきよりも長く、そして苛立ちの色を濃くしたため息を吐いた。
「……仕方ないね。僕は君と散歩をするのが楽しみだったんだけど、しばらくそれはお預けのようだ」
そう言って、男は銃口を私の足に向けた。
足元から冷たい鳥肌が駆け上がった。
引き金に掛ける指が動く気配を見せたので慌てて叫んだ。
「ま、待って! 開ける! 開けるわ!」
夢でも痛い思いをするのは勘弁だ。
私は急いで鳥籠へ戻って鍵を開けた。
その間ずっと銃口は私に向けられていた。
「……よし、いい子だ」
男は微笑んで銃を下ろした。
けれどほっとしたのも束の間、
「いつまでもそんなところに突っ立ってないで中に入っておいで」
いかにも優しげな声で言って、男は自分の横をぽんぽんと叩いた。
銃は向けられていなかったけれど、私にその言葉に逆らう勇気はなかった。
内心ビクビクしながら男の横にゆっくり腰を下ろした。
「そう、いい子いい子。よくできました」
男は満足げに笑みを深めて、私の頭を撫でた。
それは優しい手つきだったけれど、硝煙の匂いが鼻先をかすめて私は一層体を強ばらせた。
「……これからはずっと一緒だよ。アリス」
男が永遠の愛を誓うような甘さで囁いた。




