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『正解はどこにある?』

俺は今最高の気分を感じながら、横になっている。


やはり、こここそが俺の安住の地…


通訳が無ければな…



今はヘルによるセントへの講義中だ、セントは頭が悪いと思われる。俺は何度も同じ事を形を変えて説明するヘルの言葉を忠実に伝える。

なかなか理解できないセントに対して愛おしいものを愛でるように教え続ける。

面倒見がよすぎるのが俺の女だ。


どれどれ、暇つぶしに目でも飛ばすかな…






『伝令を出せ。現在の国内の生産力を落さない範囲で腕に自信がある者を集めるように。3役に戻り次第会議を始めると伝えろ』


国へ戻りながら伝令を先に走らせる。「荒野」はかなりの早さで引いていったな…身の軽さが奴の強みではあるが。


あの場に佇んでいたのは「平原」のみか…他所のことはいい。限定的な情報から何が起こるか考えなければな。




荒れた岩肌と所々にある小規模な森、痩せた土壌。

山からの取れる鉱石が無ければ生きていくことは難しい。五国会議の取引内容の多くは食料が占めている。


『ウォルン王、準備は出来ております』


3役が出迎え、そのまま会議室へ向かう。


『結論から言おう。お前達も聞いたと思うが魔王は倒せなかった。ホルダーの力はいずれ魔王に消される。宣言しておこう、ホルダーの力が消えた時…私は死のうと思う』


『なにをおっしゃるのですか。ホルダーの力なくともウォルン様は民のことを考えておられたではないですか』


『私はいつか他のホルダーを打ち倒す為に準備を進めてきた…そのために民に強い負担を強いてきた。その事実は変わらん』


『しかし、それも民の為に豊かな土地を手に入れるため』


『今はこれからの方針を決める時。無駄な話はここまでとしよう』




話し合いが終わり、ウォルン様は自室へ戻られた…

魔王の動きが解らぬ現時点では憶測は間違いを呼ぶ恐れがあるため、現状の国内の活動を維持させながら、王と精鋭により魔王の創りし「イマジニア」の調査を行うこととなった。

ウォルン様ほどの方が見ても真意の読めない魔王に対して隙無く動く方針だ。


残された我々は誰とも無く話し始める…


『王は本当に死を選ばれると思いますか』


『聞かずとも解っているのではないか、ゲン』


いつも冷静で迷い無き王。考えなくあのようなことを言われるとは思えない…


『お前はまだ我々の中ではかなり若い、わしはウォルン様が幼少の頃から見てきた』


3役最年長のゲンム様は真っ白になった髭を擦りながら懐かしそうに目を細める。


『あの方は産まれながらに王の雰囲気を纏っておいでだった。才に溢れ、とても子ども等と侮る隙すら見せないその風格に先代ホルダーは内心恐れを抱くほどにな。あの方が口から出したことを無かった事にすることはあるまい』


『王をよく知らぬ者たちは圧政を敷いていると思っているだろう。王の気持ちなど知らぬのだからな。この土地で国を維持することがどれほど大変か。解らない者に言うのは酷だがな。ゲン、お前は王に着いて行け。こちらのことは俺とゲンム様でやっておく』


『年寄りを働かせるとは、マスよお前が言い出したのだから2人分しっかりな』


『ゲンム様、そりゃ無いですよ』


2人に心の中で感謝しながら自室に戻り準備を始める。


いつか他のホルダーを倒す際にこの身を盾にする為に磨いてきたものが違った形で役に立とうとは…


『ウォルン様…』


この決意を力に換えて…






『エン様、なんと仰った。我々を見捨てると言うことですかな』


各島の代表達は従うべき女王の言葉に戸惑い、うろたえ、怒った…


『源爺、静かに。私にはまだホルダーの力があるのですよ』


『黙りませんぞ。エン様の下。今日までやってこれたのはあなたの指導力あってのこと。そのことをお考えください』



一同は女王の言葉を不安げな顔で待つ…



『皆、おかしいと思わないのですか。今の自分達を…源爺はともかく。すでに魔王の力はこの世界すべての人に影響を与えている』


『わしだけ違うとはどういうことです』

『源爺はもともと私に口うるさく話しかけることができていた…家来の皆がここまで気持ちを大きく動かしたことがあったでしょうか…』




誰も返事をしない、言葉に出し、それをぶつけられて初めて意識した…




『魔王は自身の言葉をすでに実行していると思うのです。今までの皆は悪い言い方をするならば人形の様…源爺を除く…それが今では、強い不安、強い怒りホルダーのような意志を感じます。故に私の存在は邪魔になるのです』


『しかし、そうであればなおさら旗頭が必要ではないですか。それとわしだけ変な者扱いはやめてくだされ』


『あえて魔王の意志に乗る。しかし、纏まりが無くなるのも確かに問題ですね。ユーロを私達の代表としましょう』


黒と白の着物を着た少女は堂々とした足取りでエンの横に並ぶ。



『いぇい…よろしく…』

無表情に聞き取り難い小声、整った顔立ちの両頬にピースサインをくっつけている…


その指を2本から3本に変えて、外側に向ける。



その動きに一同は釘付けになる…



『猫の髭…』

無表情にやっぱり聞き取り難い小声…


場に流れる沈黙…エンはその沈黙の中の全体の意志を感じ口元をわずかに緩ませる。


『源爺、あなたをユーロの補佐に任命しますね。あと、魔王の創ったものを調べるので強者を集めておいてください。私はそちらに集中するので』




これでいい、ユーロを中心に国は纏まります。自らの意志で纏まった者達はきっと強く生きることができます…ホルダーの力が無くなるまで待つ必要はないのです。ほら…


「皆でユーロ様を支えなければ、本当に未来は無いぞ」

「「「「「「うぉぉぉぉぉぉっ」」」」」」






『お前達、着いて来たい奴だけついてきな。魔王が用意した贈り物の正体開けに行くよ』




国に戻って自分の言葉で魔王の言葉を伝えた。


『…というわけだよ。もう、あたいに従う理由は無くなる』




しばしの沈黙、そこから湧き上がる私の名前を呼ぶあいつ等…


収まることを知らないバブエコール。


『バブエ様、やめないでくれー』

『姉御に着いていきたいんだぁ』

『姉御ぉぉぉぉぉっ』



『静かにしな』

ぴったと大音量は消え去った。



『あたいもお前達も皆自由だ。好きにしな…お前らがあたいを選ぶなら。腹括ってついてきな。頭使って行くよ』


その日はなぜか祭りになった。




夜が来ても祭りは続いた、見晴らしいのよい自室から広間の様子を見下ろす…


『バブエ様、よろしかったのですか』


後ろからの声に振り返る。


『いいんだよフラン。あいつ等があたいを必要としてるんだ。ここまで来て放り出すことはできないよ』

『しかし、バブエ様はいつも望んでおられたではな…』




『あたいが決めたことだ。フランがそこまで私に意見するとはね…これも魔王の影響かね』


口元を押さえ惚けた顔でベッドに座りこんだフランを見下ろしながら呟く。



『少し生意気になった子猫ちゃんにはお仕置きとご褒美をたっぷり味合わせてやらないとね…』



少女の声が心地いい。

夜は長い、たっぷり楽しませてもらおうか…




『お前達、着いて来たい奴だけついてきな。魔王が用意した贈り物の正体開けに行くよ』


士気は高い、やる気がガンガン伝わってくる。本当に自由になったんだね。


『フラン、留守は頼んだよ』

『バブエ様、私の全霊を持って留守はお預かりいたしますわ』


2人の時は子猫ちゃんなのにね。


それぞれがやりたいことをできることを生き生きした顔でやっている…悪くない。いや、いいね。こいつらの上なら恥ずかしくない頭でいないとね。


『全員、気張っていくよ』


森に響くざわめきは生きる力に満ち溢れていた…






「平原」は異様な静けさに包まれていた。



国の機能は停滞し、外を出歩く人の姿は疎らであった。




王は1人部屋に篭ったまま、姿をみせる事は無く。固く閉ざした扉へ声をかける女達へも反応は無いまま…


戸惑いと焦りは人々を何かに駆り立てる…


魔王の影響が身体を蝕む毒のように広がっていく。



その内、王の部屋へ訪れる者は少なくなっていく。




皮肉にも王を忘れるにつれて国は活気を取り戻していった。


その中心となったのは若い女達…


欲望の中心にいた者達は欲望の使い方を知っている、幸か不幸かは解らないが…




『お母様、僕一生懸命がんばるね』


『ナセキ、王様があの様子である以上。あの無能姫の次に年の多いあなたが次の王に一番近いのですから』


『お母様、お姉様は今も魔王の元で必死に生きていらっしゃるはずです。僕はお姉様を支えるつもりです』


『そう、やはりお前が次の王にふさわしいわ。あの無能姫が無事であったらその時考えましょう』


馬鹿な女だ…これが自分の母親かと思うと反吐が出る。容姿が優れていただけの豚のペット風情が…


まあいい、焦らなくてもまだ時間はある。今やるべきことは力をつける事それだけだ。






ふーん、どうでもいいけど俺の女の膝枕は最高だな。


講義は続く、通訳も続く。


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