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『実はいずれ地に落ちる』

五国会議の帰り道、お父様は真剣な表情で私に言った。


『セント、王とは孤独なものだ。時に非情なことを選択しなければならない。それはお前の心に深い悲しみをもたらすかもしれない。お前はそれを乗り越えねばならん、そして私を超えて行かなければな。頑張るのだぞ』


私はお父様の真剣な眼差しを受けながらよくわからないが頷いた。



今回の旅は久しぶりに訪れた親子の時間が嬉しかった。森に行けなかったのは残念だったけど他の国の王様や女王様もいい人みたいで嬉しかった。




楽しかった時間はすぐに過ぎる。


お城に戻ったお父様を8人の女の人がすぐに取り囲み。

『セント、頑張るのだぞ』と言い残して城の奥へ消えていった…



『セント様お帰りなさいませ。五国会議はいかがでしたかな』

城の奥を見つめる私に声をかけてくれるのは1人しかいない。


『マーロン先生、ただいま戻りました』

『姫様がお出かけの間、私は退屈で退屈で。見聞を広めるためにも今日は姫様が私の先生としていっぱいお話を聞かせてもらいますぞ』


大げさに頭を下げる先生を見て私はつい笑ってしまった。


『姫様は笑っていらっしゃる方が可愛らしくていいですぞ。早くお話しをしてくだされ』


先生と一緒に部屋に戻り、この旅の話を一生懸命に話した。



『…それでね、森に一人で行こうとして、「森林」の人に見つかって行けなかったのだけれど。お父様が機会があれば一緒に探しにいけるかもしれないって行ってたから』


それを聞いた先生は青い顔をしていたけれどその後はいつものような笑顔で話を聞いてくれた。


『本当に行けるようになったら先生も一緒に行きましょうね』



『そうですな。そのためにも明日からは厳しく頑張っていただきますからな。覚悟しておいて下され姫様』


そういって私の部屋から先生は帰っていった。




次の日、マーロン先生は凄い量の資料を持ってきた。


『セント様、これらの内容を自分のものにするべく頑張ってくだされ。私は暫らく姫様の勉強を見れなくなるかもしれませんからな。さあ、今日もはりきっていきますぞ』



今日の勉強はいつもより激しく、熱い先生だった。


次の日、先生は私の部屋に来なかった。


その次の日も、そのまた次の日も私は1人で勉強を続けた。





『何か、私に言うことがあるであろう』


『何のことでしょうか。私は王の命令の通りに姫様の望む教育を行っております』


私の圧を受けてまだ戯言が言えるとは、賢者の名は伊達ではないか…

しかし、抗えるものではないぞホルダーの力はな。




あれから7日間か…マーロンの奴はいまだに私に謝罪の言葉を口にしない。セントを危険に誘った大罪である。

セントにも王になる者の心構えを持ってもらわねばならん…



『誰か…』

私は急ぎ準備するように命令を伝える。


私に逆らう者に価値などない。





先生は忙しいのかしら…先生が用意した課題は山のようでいつになったら終わるのかと思ってしまう量だった。


『ますます、独り言が増えちゃうわ』



黙々と課題に取り組む。



突然お父様からの呼び出し、厳しい顔のお父様と一緒に馬車に乗り込む。


『王であるということがどのようなことか。王とは絶対でなければならない』


私の問いかけにお父様は一言そう答え、それ以降会話は無かった。





街の中央にある広間には人が集まっていた、その中央には木で組まれた高台がある。

人々は静まり返っている。


群衆は静かに到着を待つ。王の到着を…



静かな広間に響くのは馬車が進む音のみ、セントは窓から見える人々が人形のように見えた。


高台の前に降り立つ王と姫。


『マーロン先生、お父様、なぜ』


台の上には断頭台に繋がれた賢者の姿。姫の声に王は一切の反応を示さない。




『マーロンよ。私に何か言うことがあるであろう。許しを請え、この王に許しを請うのだ。そうすれば今までの功績を考慮し命だけは助けてやろう』


賢者の顔は腫れ、口からは赤い滴が流れている。

そして、賢者からの言葉は無い。



『何とか言ったらどうだマーロン』

王の怒号に広間の人々はしゃがみこんでしまう。


震える賢者に近寄る姫。



『先生、お父様に謝って。このままでは死んじゃう』


その言葉に賢者の振るえは止まり。顔を上げる、その顔は見るも無残であったがその目にあるのは慈愛と知性に溢れていた。



そして、賢者は静かに姫に語りかける。



『セント様、あなたは物覚えが良くない、運動も優れているとはとても言えない。それでもあなたは賢者の私が知らないことを知っている。頑張るのです。あなたの想うとおりに生きる為に』


『最後まで愚かなことをセントに吹き込むとは救いの無い奴だ。やれ』


『マーロン先生』

姫の叫びも空しく王の手によって後ろへ引き下げられる。



震える兵士の手によって縄は切られた…


『セント様、あなたを慕うあの小鳥のように生きてみたかっ』

賢者はもう何も語らない。


姫は一声も上げずに気を失い崩れ落ちる。




『何が賢者だ、知識の詰め込みすぎで腐った愚者め』


平原一の知識の実は蹴られ、転がっていく。




『靴が汚れてしまったわ。城へ帰るぞ』




馬車は去り、人々も散っていった。広間の高台はそのうち解体されるのだろう。






『いらっしゃい、迎えにいくわ…』






そんな声を聞いたような気がする…



目が覚める、幻であってほしい…でも、紛れもない真実。




マーロン先生は死んでしまった…いや、殺されてしまったんだ。




『私のせいで…』




先生は言っていた、王に逆らうことは出来ないと、

先生は言っていた、自由を望むことの意味を、

先生は言っていた、古のお話のことは2人の秘密だと、


私がお父様に話してしまったから…



「最後まで愚かなことをセントに吹き込むとは救いの無い奴だ。やれ」


お父様の言葉が頭の中に繰り返される…




私は学ばなければならない、先生を殺してしまった者として。

私はもっと知らなければならない、先生が頑張れと言ってくれたから。


私は…





セントは変わった、上に立つ者の隙の無い雰囲気を感じさせる。


優雅に微笑みを浮かべるがその瞳の奥にある鋭さは以前にはなかったものだ。


あの生意気な賢者もどきが死んだことでセントにはいい影響がでているな。始めからあのような者に教育係を任せたのが間違いだったのだ。


それにしてもセントは新しい教育係もやんわり断ってくる。以前のように中庭で見かけることも無くなった。

たまに見せる姿は美しかった妻を思い出させる。

セントを見かけた日は女を抱く気にもなれず、1人酒を煽る。



変わっていくのはセントの美しさだけか…無味乾燥な日々か。




満たされぬ王の心中など知ろうとする者は無く、亡き妻の面影を娘に重ねて過ごす日々は王の意識から色彩を奪っていく。

戻らぬ日々の記憶は色を失い、曖昧になり。

残るのは執着のみ。


王は気づいていない、唯一の味方の大事なものを壊したことで本当に孤独になってしまったことに…


落ちた実は木に戻らない。その実からでた芽がどう育つのか…芽吹きは突然起こるものかもしれない。






私は苦悩していた、上手くいかない。私に何ができるのか、そもそも何もする必要が無い私には実力をはかるものさしもない…


頭に残るのは先生の声だけ。



だから、続ける。人より劣っているのなら、もっともっと重ねるだけ。



先生がくれた全てを吸収するんだ。




季節は流れ、「平原」は慌しく動き出す。



五国会議の開催。



平原の王は1人考える、そろそろ時が来たのではないかと…

もてなしの準備も物資も問題ない。

次の「平原」の女王が全ての頂点に立つことを知らしめてやるいい機会だと。



孤独な王は何も解ってはいない。期待を込めて執着している姫の心に自分がどのように映っているかを…




とある場所、いつかの時間。


『泣いているのか、泣かないでくれ。俺がその原因をぶち壊す』


花のつぼみが並ぶ広間の椅子で交わされる約束に返事は無い。


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