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『小さな冒険』


マーロン先生の一言は私の中を駆け巡った。

それから私は眠る時間も削って勉強にも武術にも打ち込んだ、結果はなかなか表れていないけれど先生もお父様も張り切っている私を見るのが嬉しいらしい。


その日から私は少しずつ準備を始めていく…



お母様が死んでしまってからあまり歩き回らなかったこのお城の中を積極的に歩き回る、このお城は広い。

5歳の私では覚えられない城の中も今なら覚えることができる、自分お部屋と中庭、それに訓練所に王座のお部屋、それしか知らなかった私の世界が広がる。


お城で働いている人たちはみんな私に笑顔であいさつをしてくれる…その目は笑ってはいなかったけれど。


『姫様、これより先は王の寝所になります。お入りにならないようにお願いします』

警備の兵隊さんは私にそういってお願いしてくる。

そんな私の横を綺麗な女の人が数人歩いていく。その中の1人が私に気づき声をかけてくる。


『姫様、始めまして。私達は王の今の妃をさせて頂いております。ここから先は大人の領域。お下がりくださいませ』


丁寧に頭を下げてはいるけど顔をあげたときの視線に寒気を感じた。


『失礼します』

私は走って、走って、全力で走って中庭にたどり着く。


『ごめんね。今は何も持っていないのよ』

怖くて震えている私の周りに小鳥さん達が集まってくる。何も持っていない私にも小鳥さん達は傍にいてくれた。




小鳥達は一斉に飛び立つ。

『セント、私に何か用事であったか』


お父様は寝る時のような簡単な着物を着て息を切らしている、相当急いできたのだろう。


『お父様、用事は無かったの。ごめんなさい、お城の中を散歩していてここから先はお父様の寝所だからって兵隊さんが教えてくれて…お父さんの今の妃って言う人にあいさつされてちょっと驚いただけ。お父様ごめんなさい』


『そうか、そうか、お前の勉強の邪魔になると思い黙っていた私が悪かった。これからは警備の者にも言っておくから、私に用事がある時は遠慮はいらんぞ。それに最近は活発にいろいろ取り組んでいるとマーロンからも聞いている。必要な物は何でも用意させるから遠慮なく言うのだぞ』


お父様はとても嬉しそうに中庭から帰っていった。

これからはお父様の寝所には近づかないようにしようと心に決めた。





それから暫らくして王の寝所前には気を失った兵士が倒れていた。


『馬鹿者が私の可愛いセントにいらんことを吹き込みおって』


部屋に響き渡るのは先ほどの女性を打ち据える音、そして怒れる王の荒々しい声。


打たれている女に意識は無く、周囲の女性も止める事は出来ないかに思われた。

そんな中1人の女性が進み出る。


『王様、セント様は聡明な姫様です。きっと王様のお辛い気持ちをきっとご理解されておいでです。一度お話しになってみてはいかがでしょう。姫様は近頃王の為ますます頑張っていらっしゃる様子ですので』


『確かに、セントは以前に増して努力を重ねているのはマーロンより聞いている。そうだな、いい頃合かもしれん』


『この者にも悪気があったわけではないでしょう。あの素晴らしい第一王妃様の代わりなど誰にも出来ないですが少しでもお力になりたいと妃一同思っております』


『うんうん、その者の手当てをしてやれ。セントも母親を亡くしそれでも私の期待に応えるべく小さな頃より頑張っていた。私はそれに甘えてしまっていたのやもしれんな。気分が良くなった。今日はお前が私を喜ばしてくれ』

『ありがとうございます』


部屋に響く音は肉を打つ音と艶やかな声に変わっていた。





賢者とは何なのか。

姫様と話をしていると、わからなくなることが多い。今日はキチィ王の新しい妃達について聞かれたが私には答えることは出来ないとお伝えした。

王の力「ホルダー」についてもどういう力なのかと聞かれた、伝えられている話や逸話については話すことができたが、なぜ5人なのか、なぜそれを継承できるのかと聞かれ、私は応えることが出来なかった。

森林の国のことを聞かれたときも、書物にある簡単な概要の説明は出来ても、実際にどのようなところでどのような暮らしをしているかという点についてはまったく答える事ができなかった。そもそも、国同士の交流など大昔の戦いの時しかなく、現在の交流は王同士が集まる五国会議しかない現状で私が他国の今の様子を知るすべなど無い。


平原の国内では豊富な知識を持ち国の重要な役職であるが、姫様と話していると自身の知識の狭さに賢者とな何なのかと考えてしまうのだ。



『マーロン先生でもわからないことが私に解るわけないですね。もっともっと頑張らなければ』


かわいらしく以前より活き活きしている姫様。そんな姿に水を差すようなことも言えない。



『姫様が知りたい知識は書物で勉強しても手に入らないことが多いですぞ』この一言が言えれば私の苦悩も止まるのだろうか。



姫様との会話は賢者になるより難しい。




ある朝、私はお父様に呼ばれて王座のお部屋に向かった。

王座に座るお父様の両サイドには7人の綺麗な女性が立っている。


『セント、今までお前の邪魔になると思って黙っておったが私には今8人の妃がおる。お前の母を亡くし、私は辛かった。今でもお前の母のことを思い出す日々だ。今後お前も母を思い出し悲しい時は皆を頼るがいい。きっと力になってくれる』


お父様は何を言っているのだろう、私のお母様は1人だけなのに…


『わかりました。お父様』


私の返事を聞き、お父様は満足気に笑顔で大きく頷いた。

『やはりあのお優しく聡明な第一王妃様の娘様、王様の苦しみもご理解されている様子』

『そうであろう、そうであろう私の自慢の姫だからな。そういえばセント、次の五国会議は「森林」のところで行われる。マーロンに聞いたが「森林」に興味があるようだな。一緒に行こうと思うがどうかな』


これはいい機会、逃す手は無い。


『お父様、是非連れて行ってくださいませ』

『うんうん、お前もいずれこの国の女王となる身、他の国を見ておくのも悪くはない。ただ歴史あるわが「平原」以上の国は無いがな』


出発は7日後だからしっかりと準備するようにと言われた。



あの日から毎日のようにお父様の新しい妃と言う人が交代で部屋に尋ねてくるようになった「大丈夫です」と言うとあっさり帰っていく。

お互いに表面上は笑顔で相対していた。


『先生、皆さんなんで私に会いに来るのでしょうか』

『ぐふんぐふん、私にはわかりかねますな。それよりも五国会議への準備はよろしいですかな』

『はい、もうばっちりですよ』



馬車の旅は快適であった、道も穏やかで久しぶりにお父様とたくさん話をした。昔、お母様と一緒に五国会議に参加するためにそれぞれに国に出かけたこと、どの国に行ってもお母様より素敵な女性はいなかったこと、お母様と一緒に食べた食べ物や飲み物についてなど。


お母様の話をする時のお父様は私のお父様って感じがして嬉しくなった。



『王様、そろそろ「森林」に入ります』


馬車の外から兵士長さんの声が聞こえる。


『迎えの者が来るだろう。一旦休憩をとる』

お父様の声で休憩となる。


馬車から降りて、お茶とお菓子を食べながらのんびりと待っているとやがて前方から兵士の一団がやってくる。


『キチィ王様、お迎えに参りました』

『ご苦労、先導を頼む』


それからは普段の食事では見た事がないような食事が「森林」の兵隊さんにより振舞われる。


『セントよ、五国会議は国の特産物によってもてなすのが決まりだ、その時には豪勢にするのだよ、他の王になめられてはいけないからな。お前もいずれもてなす側になるんだよく覚えておきなさい』


『はい、お父様。自分の国のいいところを知ってもらえるいい機会なのですね』

『そうだな、今はそういう認識でいいだろう。やはりお前は私の自慢の娘だな』


それからは他の国で出されたあれが美味しかったと言う話やこんな土産物が素晴らしかったといった話を聞かせてくれた。外の景色も深い森の中を進み続ける、窓から入ってくる空気には少しひんやりとした木のいい香りが漂っている。


お父様の話と新鮮な景色のお陰で退屈することなく森の中の木でできた大きなお城に到着した。


『会議の後に他の王に紹介するとしよう。それまでは自由にするといい』


大きな宿屋の大きなお部屋には私一人…窓から見える森を見るとマーロン先生のお話を思い出す。



少しなら…ここに着くまでも危ない事はなかったし…きっと大丈夫よ…



私は自分で準備した荷物の底からズボンと上着を取り出して、綺麗なドレスから着替えた。


お父様が心配しないように置き手紙を書いて……よし。




私は宿を抜け出した。


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