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2話 妹

「おい」


 俺とは反対の方向をボーっと見ていた妹に、後ろから声をかけた。

 にしてもここに妹がいるってことは、俺死んでないのかもな。少なくとも俺が知っている間は妹は死んでないし。


「え? って、あっ!!」


 振り向いて俺の姿を視界に捉えた瞬間、妹は大きく驚いてから、何故かすぐに俺から顔を逸らした。そして再び俺の方を見ると――


「なによ」


  肩を隠すほどに長く伸びた髪を風になびかせながら、ツンツンと棘のある声で一言言い放った。こいつ、相変わらず顔はそこそこ可愛いくせに態度がちっとも可愛くない。まあ可愛いといっても童顔だがな。妹には大人の女性のような美しさは微塵も無い。身長も低いし胸も小さいし、中一なのだがどう見ても小学生にしか見えない。


「なによって言われても、誰もいない場所にお前がいたからさ。話しかけたんだよ」


「ふ~ん、あっそ」


 俺さっき、どんな人でもいてくれたら孤独よりはマシって言ったけどさ、訂正する。妹以外はいてくれたら誰でもいい! なんだよこの返事!あっそはないだろあっそは!


「で、あんた、なんでこんなところにいるの?」


 実の兄にあんたって。普通妹ってお兄ちゃんとか兄貴とか呼んでくれるもんじゃねえの。まあこいつからそんな風に呼ばれたらそれはそれでキモいが。


「トラックに轢かれたら何故かここにいたんだよ。それ以外は知らねえ」


「そうじゃなくてさ! なんでトラックにひかれたの?」


 そうじゃないってなんだよ。質問にはしっかり答えたじゃねえか。で、なんでトラックに轢かれたかって? わざわざトラックに轢かれた理由なんて何故聞くんだ。そんなこと別にどうだっていいだろ。

 だが、答えないとどうせまた妹から何か色々言われるだろうな。はあ、ここはおとなしく答えてやる。


「クラスの副委員長に告白しに行ったら、暴走トラックが突っ込んできたんだよ」


「それが、真相?」


「真相って言うか、まあそれがすべてだよ。それ以上は何もない」


 改めて思うが、とんでもない出来事だった。告白というのは、付き合うか振られるかの二択だけだと思っていた。なのに、俺の告白にはどちらでもない答えが待っていたんだもんな。告白したらトラックに轢かれたなんて、多分この広い世界でも経験したのは俺だけじゃないの。


「その副委員長って、男?」


「なわけねーだろ!! 告白しに行ったって言ったよね? 俺がホモだと思ってるのか?」


 もしホモだと思われているのなら酷い誤解だ。今すぐに誤解を正さなければならない。家族にホモだと思われたままとか辛すぎる。


「そっか。ふ~~ん」


「なんだよ」


 妹は明らかに不機嫌になった。俺別に妹が不機嫌になるようなこと言ってないだろ。なんなの? 俺がホモじゃなかったのが納得いかないの?


「そんな理由で轢かれるなんて、馬鹿なんじゃないの。それって、告白しに行かなきゃ轢かれなかったってことじゃん!」


「ま、まあそうだけどさ。なんでそんな怒るんだよ」


 お前、怒るよりむしろ俺が轢かれて嬉しいんじゃないの? 俺が不幸になるの大好きそうだもんな。


「普通女の子の前で他の女の話をするのってアホのすることだよ。礼儀知らずじゃないの?」


「はぁ? 彼女ならともかく、妹の前では別にいいだろ」


 それに、こいつがトラックに轢かれた理由を聞いたから答えたんだろうが。


「あっそ。勝手にそう思ってれば」


 なんなんだよこいつはもう。なんでいつもそんなに棘があるの? 前世がウニだったりするの?


「というか、そういうお前はどうなんだよ。お前もトラックに轢かれたからここにいるのか?」


「え!? あ、そうだよ! わたしもトラックに轢かれたからここにいるの。文句ある?」


「いや別に文句は無いけど……」


 なんでそんなに慌てて言ったんだ。普通にさらっと言えばいいじゃん、俺と同じなんだし。あ、俺と同じだからこそ言うのを少し躊躇ったとか? 俺と一緒ってのが嫌だったから?  


「じゃ、俺も一応聞かれたから聞き返すけど、お前は何でトラックに轢かれたんだ?」


「え!? それは……。えーと」


「なんだよ。早く言えよ。猫でも助けたのか?」


「そ、そう! 猫を助けて轢かれちゃったの!」


「ほんとかよ……」


 そんな、俺が適当に言った理由がドンピシャだったりするもんかね。


「ほんとに決まってんじゃん! もしかしてアホなの?」


 もしかしなくてもアホだけど妹よりはアホじゃないとは思うんだ。だって普通、トラックに轢かれた理由をすぐに思い出せないなんてある? むしろ絶対に忘れられないと思うんだが。


「ま、なんでもいいけどよ。こっから早く出て行こうぜ。こんな何も無い空間、お前と二人きりとか耐えられる自信が無い」


「な、なにそれ! わたしのことが嫌いだってこと?」


「お前だって俺のこと嫌いじゃねーか。別に俺がお前をどう思ってたっていいだろ」


「わたしはいいけどあんたはダメなの!」


「へいへい」


 言い返したら面倒なことになりそうだしここは軽く受け流しておく。


「じゃあとりあえず歩くけど、わたしの半径十キロメートル以内ではあんたは歩かないこと! いい?」


「いいわけねーだろ! ったく、別に実の妹を発情して襲ったりはしないから安心しろ。ほれ、行くぞ」


 手を握って、俺は妹を引っ張った。


「ちょ、やめてったら!」


 妹はすぐに俺の手を振り払い、全力で走り出した。


「おい待てって!」


 突然走り出した妹を追う。だが、全力で走っているのに追いつける気が全くしない。なんであいつこんなに足速いんだよ……。


 はぁ……。なんで俺はこんなに妹に嫌われてるんだ。なんか嫌われるようなことしたか? そもそも昔は――いや、昔は昔。今は今だ。とりあえず今の妹はあんな感じなんだ。それには変わらない。


 いつか、仲良くできるのかね。

 

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