1話 始まり
「よし!」
頬を二度叩き、気合を入れる。ヒリヒリとした痛みが気持ちを落ち着かせ、足を前に進めてくれる。
俺は今まで一度も彼女ができたことがなかった。それは俺がただ単にモテない男だからなのだと思っていたがそうではない! 動かなかったから悪かったのだ!
俺の友人は、クラス一可愛いと言われている我が二年B組の委員長を告白して手に入れた。俺もそれを見習わなければならない!
というわけで、俺は今クラスで二番目に可愛いと評判の副委員長に告白しに向かっている。朝早く学校に来て、下駄箱に待ち合わせ場所とそこに来てほしいことを記した紙を入れておいた。古典的だと笑う人もいるだろうが、これ以外に何も思いつかなかったのだ。
待ち合わせ場所の駅の前へと着いた。最初は学校の屋上にしようと思ったが、そもそも俺の学校は屋上は空いていなかった。
「あ!」
いてくれた。ボイコットされるのではないかと心配していたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
いざ告白を目前に控えると、緊張が凄い。帰りたくなってきた。
だが、ここで引くのは男じゃない。俺は今日、人生初彼女を手に入れるんだ!
「あ、あの……」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、俺は話しかけた。
「あれ? タケル君? ここに呼んだのって、タケル君なの?」
「あ、ああ。実はそうなんだ」
手紙の相手が俺だと分かって幻滅しただろうか。反応が怖くて顔を直視できない。
「そっかー。へぇー、タケル君がねえ」
なんとも判断に困る言い方。これは脈なしか? 脈ありか?
えーい! ウジウジしていてもしょうがない! 告白してやる!
「あ、あのさ副委員長。俺――」
突然だった。余裕で人を殺せそうな勢いのトラックが、こちら側に暴走して向かってくるのが見えた。
俺の方からは確認できるが、副委員長はまだ気づいていない。
「あーもう!」
神ってのがいるのなら、俺はそいつが嫌いだ! 人生のターニングポイントを、いとも簡単に壊してくれたんだからな!
「副委員長!!」
俺は副委員長の手を掴み、全力で走った。間に合うか? いや、これは無理だ――!
ならば、せめて副委員長だけでも!
俺は副委員長を、手の筋力をフルに使ってこの場から放り投げた。そして――俺は意識を失った。
俺は、死んだのか?
そりゃまあ死ぬよな。あの勢いのトラックに轢かれれば当然の結果だ。
じゃあここは天国なんだろうか? 俺のイメージする天国ってのは一面花畑で、親族が手を振っておーいとかやってるもんなんだが、ここには枯れかけた雑草くらいしか生えておらず、誰も手を振ってはいない。まあ親族は皆死なずにピンピンしているから、こんなところにいるはずはないんだけれども。
せめて天使とか来てくれないかな。こんなところで永久に一人ぼっちとかいっそ殺してくれって感じ。もう死んでるけど。
そういえば副委員長は助かったのかな? もし助からなかったんだとしたら、俺のせいだよな……。俺が駅前になんて呼ばなければ、あんな目には合わずに済んだのに。
とりあえず走ってみるか。
永遠に誰もいない出口の無い世界だったらどうしよう。俺もう死んでいるんだし、自殺してここから逃げることすらできないのに。
お!
少し遠くに人影が見えた。助かったぁ。これでとりあえずずっと孤独ってことは無いってわけだ。付き合いにくい人だったとしても、まあ長い月日をかければ仲良くなれるだろう。
早速人影へ向けて、俺は走り出した。どんどん走るスピードを速めて近付いていく。やがてその人影がどんな人物なのか、はっきりと見え始めた……って、ん?
そこにいたのは、俺のよく知る人物だった。
というか――
「妹じゃねえかああああああ!!!」
いつも俺に悪態をついてくる、全く可愛げのない妹がそこにいた。