金の亡者と私~キチガイとそれを本気にしたお貴族様 編~
私は幼い頃から、迷子になりやすかった。
迷子になった時には、村長の息子ケイシー様が必ず私を見つけてくれました。
村一番の美少女である姉は、その時にケイシー様に恋に落ちたのです。
ある日、美青年と評判の王太子様が部下を引き連れてこの村にやって来ました。
なんでも、途中で魔物に襲われて部下が大怪我をしたようなのです。
王太子様の滞在中、村娘たちは大騒ぎ。
その大騒ぎを隠れ蓑にして姉はケイシー様を狩ったのです。
王都に出てきて知ったのですが、これを『肉食系女子』というらしい。
畑の作物の収穫期に、母は調子に乗って鎌を勢いよく振り回しすぎて転倒して気絶してしまいました。
その時からです。
母がキチガイになったのは。
私は村でも珍しい魔力持ち。
それが原因なのでしょうか。
母は、「王都にある学校に行って第三王子をモノにしろ」とか「騎士団長息子でもいいわね」とか「あぁ、大商人の長男も捨てがたいわ」とか他にもいろいろ不穏なことを言うようになりました。
それからというもの、母の不穏発言を人づてに聞いた村長は私が身分制度を理解するまで根気強く教え込みました。
私の魔力はとても珍しいものらしく王都にあるマジール学園という魔法学校に通うことになりました。
村から出て行く時に、母は「ちゃんと私に仕送りするのよ――――!ちゃんと、身分の高い男を誑かしてモノにして私にラクさせなさいよ―――――!」と私が乗る馬車に向かって見えなくなるまで叫び続けました。
これを聞いた村人たちは、顎が外れそうなほど口を開けてポカーンとしていたと姉が言っていました。
私が王都にある学校に通うことになってからは、母から金を無心する手紙が多量に届くようになりました。
私がこのことをキツメの顔をした友だちのダリア様(公爵令嬢です)に相談すると、顔を引き攣らせました。
ダリア様はとても優しくて、この学校にいる上で必要なマナーをいろいろ教えてくださいました。
私が貧乏庶民なので、気遣ったのでしょう。
「学園は、実家に仕送りするための場所ではないのですが。それに、学生の間は働くことは禁止ですのよ。ソフィは、魔法の授業の成績も優秀ですし特例が認められるかもしれませんわね。わかりました。
私から、先生方に話しておきますわね」
そしたら、無事に宮廷魔術師見習いになれました。
エリートコースに行けるかもしれないけれど、出されたお給料を全額母に仕送りしなければならないのはなんか納得いかない。
私が学生と宮廷魔術師見習いを両立し、お給料を全然使わないのに貯金が全くないのを心配した宮廷魔術師長が私を呼び出しました。
「その給料は、どこへ出て行くのか?」と。
私は罪人のように洗いざらい自白させられました。
そして、母がさらに金をよこせと言ってきているのも。
宮廷魔術師長様は、マジ泣きしました。
それを聞いていた宮廷魔術師様たちや同じ立場の宮廷魔術師見習いたちもマジ泣きしました。
宮廷魔術師様たちの中で、実家が公爵家の男性からはマジックアイテム『記録ペンダント』を渡されました。
もうすぐ夏休みの長期休校で私が村に帰省することを知っているからです。
実はこのアイテムこの時用なのです。
キチガイじみた母が私に悪意ある発言をした時にそのことを記録するため。
宮廷魔術師長様はその様子を見てホッとしたようです。
村に帰ること姉は結婚準備をしていました。
なんと、正式に村長にケイシー様と結婚してよいと許可を得たのです。
村長の気が変わらない内に、善は急げと姉は大急ぎで結婚準備をして私の帰省中に合わせて結婚式をあげる気のなのです。
村には姉の結婚に年頃の男どもが泣き崩れていました。
村娘たちは、『あの美貌で、なんであの平凡顔を選ぶのかしら?』と姉を胡散臭いモノを見るような目で見ていました。
そしてやはり、母は私にキチガイ発言をかましました。
幸せいっぱいな姉は、私が王都に戻る時に「ソフィ、男は顔で選んじゃ絶対にダメよ!心で選ぶのよ!」と力強く言いました。
新学期に入ると、キチガイ発言をした母の言う通りになりました。
私の行く先々に、美少年たちが次々に湧いて出たのです。
不気味です。
これは、貧乏庶民が宮廷魔術師を目指すのが不本意な輩なのでしょうか?
これで心を折って、止めさせようと!
私、負けない!!!
アレクサンドラ様(伯爵令嬢です)にこのことを相談すると、「あなたの頭のおかしな母親の男の子たちを攻略するって、あなたの周りに急に湧いて出てくる人たちを倒すってことじゃないかしら。私、最近あの人たちのこと怖いもの」
なるほど、こういうことですか。
母よ、今までキチガイ発言だけしかしてないと勘違いしてゴメンね!
母が言っていた『攻略対象』とやらに遭遇すると、私は蹴倒し、殴り飛ばし、時にアッパーカットをしながら奴らを倒して行きました。
私が行くところに突然湧き出てくる彼らを気持悪く思っている生徒たちからは拍手喝采。
彼らに憧れている女子生徒たちからは、殺意をいいただきました。
まだまだ、彼らはしぶとく蘇ってきます。
いい加減、諦めて欲しいものです。切実に。
こうなったら、魔法で...
そんな日が続く中、宮廷魔術師様は私の行く先々に湧いて出る連中を開発中の攻撃魔法の人体実験にしようかとお考えになった。
奴らは私の攻撃に対して、ダメージがあるにもかかわらずいつの間にか復活する。
あそこまで、強靱な肉体の持ち主なら人体実験に最適ではなかろうかと。
思わず、納得しました。
そしてその日のうちに、宮廷魔術師様は国王様に奴らを人体実験の道具にする許可を条件付きで鼻息荒くもぎ取りました。
ついに来た人体実験のための被験体を入手する日。(卒業式のこと)
その日は私の心を表すような雲一つない澄み渡る晴れた日。
多分、王子はダリア様に
「ダリア・ミニッツ令嬢。貴様との婚約は破棄する!そして、ソフィ嬢との婚約を発表する!」
なんか王子は私を巻き込みやがった。
その他も同様。
私は米神が引き攣った。
私が開発中の被害甚大な大魔法を放とうとした瞬間、宮廷魔術師長様と宮廷魔術師様たちが現れた。
「止めなさい、ソフィ。あれは、まだ完成していないはず」
「大丈夫です。魔術師長様。今の私なら、絶対にできます!!!」
「ソフィがそう言うのなら、大丈夫ですね。ですが、貴重な被験体を無駄にするわけにはいけません。あとで、存分な八つ当たりしていいので、今は我慢なさい」
「...了解です」
そういう訳で、母曰くの攻略対象たちは強制退場させられました。
攻略完了ですね。
卒業式も終わりに近づきつつある頃、新たな刺客が現れました。
ナイスミドルな小父様が私に近づいてきて、
「私の可愛い姫をお前の奸計で陥れると思うなよ! 私を見くびるでないわ!」
「は?」
「とぼけおるな。女狐よ!将来有望な者たちを唆し、私の可愛い姫を冤罪で陥れておるのだろう!そのような妄言、私が木っ端微塵に打ち砕いてくれるわ!」
これは、母と同類臭がします。
危ない!おもに、私が。
私が危機感を募らせる中、ダリア様がナイスミドルな小父様(仮)にドロップキックを食らわせた。
「ソフィに何を言っているのですか、お父様。変な言いがかりはおよしくださいませ」
そう言って、ダリア様は気絶したナイスミドルな小父様(仮)を引きずっていずこかに行きました。
ダリア様によると、私の母と思わしき人物にナイスミドルな小父様(仮)は言いがかりをつけられて
それを信じてしまって、私を断罪するつもりで家の者が止めるのも聞かずにこの場に来たようなのです。
私はこの日、国を出る決意をした。
実は、ナイスミドルな小父様(仮)もといダリア様のお父様はこの国の『宰相様』だったのです。
このことに私がどう思ったのかは察していただきたいです。
『国を出る決意をした』なんて言った私ですが、隣国に宮廷魔術師の卵としていくのは決定事項。
むかしむかし、宮廷魔術師長様は隣国の宮廷魔術師長様と賭けをして『優秀な魔術師の卵を交換しようぜ☆』と約束したのです。
宮廷魔術師見習いより少しランクアップした私は、そんなわけで隣国に行くこととなりました。
その後、母はというと父と離婚し娘の給料を横領した罪でどこかに送られたそうです。
父は、まともな精神を持った器量よしな女性と再婚したようです。
そしてそして、母と同類臭があるダリア様のお父様は国王様の制裁鉄拳で元に戻ったそうです。
めでたし、めでたし...?
●ソフィの母・・・前世は女子高生な転生者。前世でプレイした乙女ゲームの世界だとを思い出したばかりに周りから『キチガイ』扱いされる。娘が働いたお金を散財するが、それが彼女にとっての悲劇につながる。
●ダリア・ミニッツ・・・前世は女子大生な転生者。乙女ゲームのヒロインことソフィを警戒していたが接していてそれがすぐに無意味だと気付く。乙女ゲームでは、『悪役令嬢』だった。
●ダリアの父・・・街に行くたびに、ソフィの母と何度も遭遇。衝突。そして、まだ見ぬキチガイの娘を目の敵にする。結果、国王様(優秀な魔術師の卵を国外に出すことが不満)とダリア(気の合う数ない友人が国外に行くことが不満)により、数か月間毎日鉄拳制裁受け続けることに。
●ソフィの家の金銭状況・・・この身分では、一般的な収入で特に『貧乏』ではない。ソフィの母が浪費家で最低限を家のために、最大限自分のためにお金を使っていた。そんなわけで、ソフィは実家が貧乏だと思い込んでいた。
●宮廷魔術師見習い・・・優秀な魔術師予備軍を国が確保するための政策。学生のみ適用。もちろん、給料が支給される。元となった『乙女ゲーム』では、攻略対象の好感度上げのミニゲームがある。乙女ゲームでは、実家に仕送りする主人公に攻略対象たちは「なんて、優しい人なんだ」と感動する。現実では、ソフィ母が「攻略対象たちの好感度を上げるために手伝ってあげているのだから、給料全額くらい私のために使うのは当然よね」と言って、ソフィが実家に仕送りしている給料を全額使っている。
読んでくださり、ありがとうございました。