第十二章
地中海でイタリアが降伏するまでの間、アメリカ大西洋艦隊と英仏独の大西洋方面派遣艦隊はそれぞれケイマン諸島沖の戦闘で傷ついた艦艇の修理に手一杯であった。そのため、大西洋方面では半年近く大規模な海戦が起こることは無かった。
もちろん、イギリス領バハマ諸島やアメリカの自治領であったプエルトリコ等の上空での航空戦はしばしば行われた。だが両軍とも相手の領土に上陸部隊を送り込んで占領するほどの余裕は無く、両軍が航空機を消耗するにつれやがて戦闘は小規模化していった。
確かに、両軍とも空母を使えば航空機をこれらの島々に供給することも不可能だったわけではない。とはいえ空母数隻を目一杯稼働させても運べる航空機の数は高が知れており、逆に満足な護衛艦艇を随伴させないまま空母を送り出したことによってそれが敵に沈められるのを双方が嫌ったのだった。
しかし、海戦からおよそ半年が経過したことによって深手を負った一部の艦を除いては殆どの艦艇の修理が完了した。これに伴い、英仏独はプエルトリコやグアンタナモ、アメリカはバハマ諸島やタークス及びカイコス諸島の占領をそれぞれ計画し始めた。
そして遂に、六月二十五日に英仏独の連合艦隊がブレストを出港。四個師団、約六万人を乗せた四十八隻の輸送船団を伴ってプエルトリコの占領に向かった。なお、この時の主な参加艦艇は以下の通り。
戦艦
リベンジ級四隻、クイーン・エリザベス級四隻、キングジョージ五世級四隻(アンソン、ハウが竣工)(英)
クールベ級を除く全艦(仏)
H級二隻、ビスマルク級二隻、シャルンホルスト級二隻(独)
空母
アーガスとフューリアスを除く全艦(英)
ベアルン、ジョフレ、パンルヴェ(仏)
グラーフ・ツェッペリン、ペーター・ストラッセル(独)
重巡洋艦
ホーキンス級を除く全艦(英)
全ての艦(仏・独)
軽巡洋艦
全ての艦(英・仏・独)なお、英でディド級の「シリウス」「スキュラ」、クラウン・コロニー級四隻(フィジー、ケニア、ナイジェリア、モーリシャス)が新たに参加
駆逐艦
全ての艦(英・仏・独)
なお、各国で以下の艦が新規に参加
イギリス
P級駆逐艦七隻(ポーキュパインは建造中)
O級「オファ」、「オンスロート」
N級「ノーブル」、「ノースマン」
M級「マッチレス」
L級「ルックアウト」
ドイツ
Z31級「Z31」
一方、翌日これを知ったアメリカも急遽出撃可能な艦艇をかき集めて艦隊を編成。損傷が激しかった「アイダホ」「ワシントン」「サラトガ」は出撃が出来なかったが、代わりに以下の艦艇が新たに就役していたため艦隊に編入された。
クリーブランド級軽巡洋艦「クリーブランド」
フレッチャー級駆逐艦「ニコラス」「シュバリエ」
これらの艦艇を含めたアメリカ大西洋艦隊は、英仏独連合艦隊がプエルトリコを占領する前にバハマ諸島やタークス諸島の占領を行うべく六個師団、約九万人を七十二隻の輸送船に分乗させ六月二十八日にノーフォークを出港。三日後の七月一日にはバハマ諸島への航空攻撃を開始した。
これまでの航空戦によって航空戦力の過半を失っていたバハマ諸島にまともな迎撃手段は殆どなく、対空砲火で数機の撃墜を記録するのと引き換えに基地機能は壊滅的な損害を被ってしまった。
その後、なおも南進を続けたアメリカ大西洋艦隊は三日にグランドバハマ島とグレートアバコ島等に相次いで上陸。圧倒的な戦力で現地の守備隊を降伏に追い込み、五日には攻撃目標をタークス諸島へと切り替えた。
一方、アメリカ側より早く出港したとはいえ三カ国連合艦隊の対応は後手に回らざるを得なかった。というのもブレストとプエルトリコはおよそ六千五百キロメートルも離れており、輸送船が出せる速度としては相当に速い十五ノットで航行しても十日近くかかってしまうのである。
それゆえ、三カ国連合艦隊がプエルトリコを航空攻撃の範囲内に収める頃にはとうにバハマ諸島はあらかた陥落しており、カイコス諸島への航空攻撃も始まっていた。
そこで、三カ国連合艦隊はプエルトリコの占領とバハマ諸島の奪還を最優先とすることを決定。六日より航空攻撃を開始し、七日からは艦砲射撃による攻撃も行われた。
その後、プエルトリコからの「敵大編隊来襲セリ」の報告で三カ国連合艦隊の接近を悟ったアメリカ太平洋艦隊はカイコス諸島への上陸を中止。三カ国連合艦隊を撃退すべく、まずは攻撃隊を放つことにした。
七月八日朝、プエルトリコ北東の海上。
ここで現在、三カ国の戦艦群を中心とする艦艇が艦砲射撃を行っていた。
「くっ…上陸はまだなのか!」
そう苛立ちを募らせるのは、この三カ国連合艦隊の旗艦となったネルソンである。彼女はここへの航海の途中でカイコス及びタークス諸島の陥落を知り、一日も早い奪還を願っていた。
しかしここ数日はこれらの島々に対する航空攻撃や艦砲射撃ばかりで、上陸する気配は微塵も無かった。それが、彼女の焦燥へとつながったのである。
その時。
「南東より、敵と思われる大編隊が接近してきます!」
「距離は!?」
「一二〇キロメートルです!」
「戦闘機隊、発艦急げ!」
「了解!」
この時、三カ国連合艦隊に襲い掛かったのは「レキシントン」及び「レンジャー」から出撃したF4F二十四機、SBD四十八機、TBD二十四機の攻撃隊である。一方三カ国連合艦隊から出撃した戦闘機はシーファイアが五十二機、フルマーが十八機、Bf109Tが二十四機であった。
合計百機近い戦闘機隊が、ほぼ同数の攻撃隊へと食らいつく。数で劣るF4Fはフルマーに対してはなんとか互角以上の戦いが出来ていたが、シーファイアやBf109Tには半年前と同じように苦戦を強いられた。
そのため戦闘機の迎撃を掻い潜れた攻撃機は半数程度でしかなく、残った攻撃隊のうち有効な攻撃を行えたのはさらに少数にとどまった。
「気色悪い青色の蚊トンボめ!落ちろっ!」
ネルソンがサーベルを振り回すのに合わせ、「ネルソン」の対空砲火がSBDやTBDを海面へと叩きつけていく。特にアメリカ軍機としては脆弱なTBDの被害は甚大で、投入された機体の過半が撃墜されるという大損害を被った。このため、TBDは以後急速に前線から姿を消すこととなる。
しかしそれでもなお、生き残った機体は攻撃をやめようとはしない。そして戦闘開始から四十分程度経過した頃、「ネルソン」に三機のSBDが急降下爆撃を仕掛けてきた。
「敵機真上!急降下っ!」
「取り舵いっぱああい!」
ぐぐぐーっ、と「ネルソン」の艦首が左に向く。しかし「ネルソン」は同世代の戦艦と比べてさほど足が速くない上に、艦橋が船体の後ろの方にあるためにかなり操縦しにくい艦であった。
そのため思うような機動が出来ず、そして──。
ドドオオォォン!
「がはっ!」
「ネルソン」に二発の爆弾が命中し、前甲板で火災が発生する。だが幸いバイタルパートへの命中だったために致命傷とはならず、火災も間もなく鎮火された。
「貴様らっ!たかだか二百年弱の歴史しか持っていない植民地上がりの国ごときが、調子に乗るなああぁぁっ!」
航空機相手に損傷させられた事に対する怒りからか、ネルソンは暴言とも思えるようなことを叫びながらサーベルを遮二無二振り回す。そしてネルソンの意思が船体にも伝わったのか、今までより一層激しい対空砲火が放たれた。
その後、一時間以上に及んだ戦闘の結果三カ国連合艦隊は「ネルソン」「キングジョージ五世」などが被弾し数隻の艦艇を喪失したが、戦艦や空母といった大型艦に戦没艦はなかった。そのため三カ国連合艦隊はお返しだと言わんばかりに攻撃隊をアメリカ大西洋艦隊へと向かわせ、これを撃退せんとした。なお、この戦闘による両軍の損害と三カ国連合艦隊から出撃した攻撃隊の編成は以下の通り。
三カ国連合艦隊損害
撃墜
シーファイア二機、フルマー六機、Bf109T三機
撃沈
駆逐艦
マーティン、ミュルミドン(M級)
ノーマン、ノーブル(N級)
輸送船三隻沈没、上陸部隊のうち九百六十名が戦死
アメリカ側損害
撃墜
F4F八機、SBD十六機、TBD十八機
三カ国連合艦隊攻撃隊
イラストリアス級
それぞれシーファイア六機、ソードフィッシュ十八機
インドミタブル
シーファイア六機、ソードフィッシュ二十四機
アーガス
シーファイア三機、ソードフィッシュ十二機
アーク・ロイヤル
シーファイア十二機、ソードフィッシュ三十六機
カレイジャス及びグローリアス
インドミタブルに準ずる
ベアルン
フルマー六機、ニューポール十二機
ジョフレ級
ベアルンに準ずる
グラーフ・ツェッペリン級
それぞれBf109T六機、Ju87T十二機
合計戦闘機七十一機、爆撃機六十機、攻撃機百七十四機(計三百五機)
七月八日、午後三時。
戦艦「ロードアイランド」に搭載されたレーダーが、南西から来る大編隊を捕捉した。
これに対しアメリカ大西洋艦隊は「レキシントン」より六機、「レンジャー」より八機の戦闘機を出撃させた。しかしこれは三カ国連合艦隊が放った攻撃隊の前では余りに非力な数であり、攻撃を数割でも防げればめっけ物と思われた。
案の定、十四機のF4Fは護衛の戦闘機に阻まれ攻撃隊に満足な攻撃を仕掛けることが出来ず、十二機という壊滅的な犠牲と引き換えに撃墜できた爆撃機や攻撃機は数えるほどであった。
「く…っ、数が多すぎる…!」
そう愚痴るロードアイランドではあったが、彼女の歯がゆさを知ってか知らずかソードフィッシュやニューポールは悠々と投弾を行っていった。そしてその度に、駆逐艦や輸送船が次々と火に包まれてゆく。
ズズウウゥゥ…ン
再び、爆発音とともに一隻の駆逐艦が火柱を吹き上げる。その艦はなんと、これが初陣となるフレッチャー級駆逐艦の「シュバリエ」であった。
目の前で新鋭駆逐艦が余りにあっけなく炎上するのを見て、暫し唖然とするロードアイランド。だがそれが、彼女の対空砲火に一瞬の隙を作ってしまった。
この一瞬の隙を逃すまいと、三機のソードフィッシュが「ロードアイランド」の左舷から迫ってくる。そして、彼女とその乗組員はこの三機に気付いた頃には既に三機とも魚雷を投下した後であった。
「左舷より雷跡三、来ます!」
「取り舵一杯、前進一杯!」
「…駄目です、間に合いません!」
「総員衝撃に備えろっ!」
その直後「ロードアイランド」の左舷に三本の水柱が立ち、船体は大きく揺さぶられた。
それと同時に、艦魂であるロードアイランドも左脇腹から夥しい量の出血をした。
「はぁ…はぁ…っ」
彼女は痛みの余り声も出ず、ただ荒く息をするのが精一杯であった。不幸中の幸いだったのは、彼女はこれ以降命中弾を受けることは無く無事ノーフォークまで帰還できたということだろうか。
しかし、彼女が攻撃を受けなかったという事はその分他の艦に攻撃がなされたということでもあった。結局この戦闘で輸送船は十隻以上が失われ、戦死した陸軍兵士は五千人を超えた。またその他の艦も被害は甚大であり、「ロードアイランド」以下戦闘に耐えられないと判断された艦はそのまま分離されてノーフォークへと向かうことになった。この戦闘における両軍の損害は以下の通り。
三カ国連合艦隊
撃墜
シーファイア三機
フルマー六機
Bf109T二機
ソードフィッシュ六機
ニューポール九機
Ju87T四機
計三十機(うち戦闘機によるもの六機、対空砲火によるもの二十四機)
アメリカ大西洋艦隊
撃墜
F4F十二機
撃沈
駆逐艦
コンウェイ(旧「クレイブン」)、コナー、ストックトン、マンリー(平甲板型)
なお、「マンリー」の高速輸送艦への改装は行われていない
シュバリエ(フレッチャー級)
輸送船十二隻
ほか、「ロードアイランド」空母「レンジャー」等が戦線離脱
ちなみにこの戦闘で平甲板型駆逐艦が集中攻撃を受けたのは、旧式ということもあって輸送船団の護衛に当たっていたためである。確かににこれらの艦は三インチ高角砲や二十ミリ単装機銃で対空兵装の強化が図られていたが、数百機の攻撃隊の前には余りに無力であった。
戦闘終了後、「ロードアイランド」他数隻は艦隊を離れて十三日に一足早くノーフォークへと撤退。残った艦艇も、三カ国連合艦隊との戦闘を極力避けるべく本来の作戦目標であるカイコス諸島への上陸を終えて早々に避退するつもりであった。これはせっかく制圧したバハマ諸島やプエルトリコの守備隊を見殺しにするということでもあったが、他にアメリカ大西洋艦隊が出来ることは何も無かった。
だが輸送船を多数引き連れた艦隊の船足は余りにも遅く、航空機の脅威の少ないサンサルバドル島沖で上陸船団を切り離して追撃を行っていた三カ国連合艦隊にケイマン諸島の北で捕捉されてしまった。その艦隊はいくら輸送船団の護衛のために幾許かの戦力が削がれていたとはいえ、アメリカ大西洋艦隊の数倍の戦力は十分に持ち合わせていた。
ここに、輸送船団を逃がそうとするアメリカ大西洋艦隊とそれを撃滅せんとする三カ国連合艦隊との海戦の火蓋が切って落とされたのである。
七月九日、午前十時。
カイコス諸島の北方で、輸送船団と空母をグランドバハマ島フリーポート沖に残してきたアメリカ大西洋艦隊と、同じく船団や空母をプエルトリコ沖に残してきた三カ国連合艦隊がお互いをやや左舷よりの方向に認める形で相見えた。
およそ距離三万で相手を確認した両艦隊。しかし、この後の行動は対照的であった。
輸送船団を守ろうとしているアメリカ大西洋艦隊が、取り舵を切って三カ国連合艦隊の針路を塞ごうとする。一方の三カ国連合艦隊は、同じく取り舵を切ってこれを回避せんとした。
そして、互いの距離が二万五千になった頃アメリカ大西洋艦隊の戦艦群が先に発砲。三カ国連合艦隊はこれに一応は応戦しながらも、あくまでバハマ諸島に向かっていった。
「生憎と、今貴様らに構っている暇はないのでなっ!」
今この瞬間も砲撃を続けている二番主砲塔の上で、ネルソンが吐き捨てるように言う。
彼女の言うとおり、三カ国連合艦隊は何が何でもこの戦艦部隊を始めとする艦隊でカイコス諸島を守り、プエルトリコ沖にいる上陸船団を以って奪われた自国の領土と敵の前線基地を制圧せねばならなかった。そうしなければ、お互いに相手の島を占領しあういたちごっことなって不必要に戦力をすり減らしてしまう恐れがあった。
だがそんな三カ国連合艦隊の思惑に反し、やはりと言うべきかアメリカ大西洋艦隊も面舵を切ってしぶとく追いすがろうとする。何せ、ここで三カ国連合艦隊を叩いておかねば輸送船団が史実のPQ17船団のように壊滅するのは目に見えているし、そうなればわざわざ輸送船団をケイマン諸島に向かわせた意味が無くなってしまうからである。
ちなみに、PQ17船団とは第二次世界大戦中に連合軍が編成したソ連向けの援助物資を積んだ船団の一つである。しかしこの船団は途中ドイツ軍による攻撃を受け、三十三隻の商船のうち実に二十二隻を失ってしまっている。
懸命に追いすがるアメリカ大西洋艦隊ではあったが、劣勢は如何ともし難く一隻、また一隻と返り討ちにあって沈んでゆく。このままでは、三カ国連合艦隊に輸送船団を叩きのめされるのは時間の問題であった。
そこで、アメリカ大西洋艦隊は巡洋艦及び駆逐艦による水雷突撃を実行。確かにこれではこちらの戦没艦も増えてしまうが、輸送船団を守る手立ては他には無いに等しかった。
三カ国連合艦隊の戦艦群に向け、巡洋艦部隊が全速力で肉迫する。一方の戦艦群は二十ノットそこそこを出すのが精一杯で、距離はじわじわと縮まってゆく。
勿論、こうしている間にも突撃をしているアメリカ側の駆逐艦は少しずつその数を減らしてゆく。とはいえそれでも、相変わらず脅威であることに変わりは無かった。
「く…っ、沈め!沈めぇっ!」
ネルソンの咆哮とともに、「ネルソン」に搭載された九門の十六インチ砲が矢継ぎ早に放たれる。だが全ての砲塔が艦首向きに搭載されているせいで、思うように自慢の砲撃力を発揮することが出来ない。
さらには敵が相当な後方にいるために、爆風の艦橋への影響を考えて三番砲塔は使えないという大きな弊害もあった。これによって、現在「ネルソン」が使用できる主砲の数は超弩級戦艦としては最低クラス(レナウン級などと同じ)の六門にまで落ち込んでいた。
そして遂に、アメリカ大西洋艦隊の駆逐艦群が「ネルソン」から四千メートルの距離にまで接近。その時健在であった殆どの軽巡洋艦と駆逐艦から、数え切れないほどの魚雷が放たれた。
「まずい!このままでは…!!」
「取り舵一杯、前進全速!」
ネルソンが呟くと同時に、艦長が回避の指示を出す。幸い魚雷は途中故障などで落伍したものもあったが、それでも相当な数であった。
なおも三カ国連合艦隊へ向け進み続けた魚雷は、まず「バーラム」「リヴェンジ」など比較的後方にいた戦艦へと命中。轟音とともに、高い水柱がそそり立った。
「バーラム!リヴェンジッ!」
僚艦の被雷を目の当たりにし、絶叫するネルソン。しかしその間にも、「ネルソン」目掛けて四本の魚雷が突っ込んできていた。
なお魚雷が命中した両艦にはこれにより大量の浸水が発生し、速力はそれぞれ十五ノット程度にまで低下。幸い沈没には至らなかったが、この戦闘が終了した後に戦線離脱を余儀なくされた。
二隻の被雷に気を取られていたネルソンが、ここでようやく自分に迫る魚雷に気付く。だがその時既に、魚雷と「ネルソン」の間の距離は千メートルにも満たなかった。
「もっと…もっと速く動けええぇぇっ!!」
最大出力でも二十三ノット程度しか出せない自分の機関へのもどかしさから、ネルソンが半狂乱になって大声を張り上げる。とはいえ、それは所詮気休めにしかなり得なかった。
そして次の瞬間、ネルソンの目の前で魚雷は「ネルソン」の船体に接触した。
ドドオオォォン!
「ぐはぁっ!」
爆発とともに「ネルソン」の舷側で四本の水柱がそそり立ち、同時にネルソンの右肩や脇腹に裂傷ができる。そして、間もなくそこから尋常ならざる量の血があふれ出た。
「はぁ…はぁ…」
痛みを懸命に堪えながら、肩で息をするネルソン。しかし一度深呼吸をして落ち着くと、その目は見る見るうちに憎しみを露にし始めた。
「貴様ら…植民地上がりの国の巡洋艦風情がいい気になってくれるなよ…。こうなったら、楽には死なせてやらん!生まれたことを後悔させながら、じわじわじっくりと嬲り殺しにしてくれるわあっ!」
そう言うと、ネルソンは目に狂気の色を浮かべながら狂ったように高笑いを始めた。もしこの場に他の艦魂がいたとすれば、まず間違いなく怯え、そして恐怖に戦いていただろう。
「…まずは貴様だ、覚悟しやがれええぇぇっ!」
ネルソンの咆哮にあわせて、六発の十六インチ砲弾が飛翔する。その後その砲弾はうち四発がブルックリン級軽巡洋艦「フィラデルフィア」に命中し、軽巡洋艦の薄い装甲を紙のように易々と破った後、弾薬庫で大爆発を引き起こした。
ズドオオォォン!!
鼓膜を引きちぎらんばかりの大きな爆発音とともに、「フィラデルフィア」の船体がばらばらに吹き飛ぶ。暫くして水柱や水煙が収まると、そこには既に「フィラデルフィア」という軽巡洋艦がいた痕跡は跡形もなく消え失せていた。
壮絶な、かつ余りにもあっけない爆沈である。これによって「フィラデルフィア」は、千名を超える乗員の全員諸共海中へとその身を沈めていった。
「ふはははは!…見たか!これが、これこそが十六インチ砲弾の威力というものだ!…さあ、死にたい奴は前に出て来い!この私が、一人残らず一瞬で楽にしてやるぞっ!」
ネルソンの笑い声は、その後も戦闘が終わるまで暫く辺りに響き渡っていた。
数時間後、甚大な損害を被ったアメリカ大西洋艦隊は三カ国連合艦隊の追撃を断念。空母及び輸送船団にも至急周辺海域を離脱するよう伝えた。しかし、輸送船団が離脱を図る頃には既に三カ国連合艦隊の射程圏内に捉えられつつあった。
「見つけたぞアメリカの輸送船団ども!積んでいる物資諸共海中に叩き込んでくれるっ!」
つい十数時間前まで巡洋艦や駆逐艦を嬲り殺しにしていた「ネルソン」の主砲が、今度は装甲も何もない輸送船へと牙をむく。二万メートルの遠距離から雨霰と飛んでくる巨弾に、輸送船団は為す術が無かった。
やがて、「ネルソン」らの戦艦群に加えて巡洋艦や駆逐艦なども輸送船の攻撃に参加。辺りには火柱と水柱が無数に立ち上り、そこここで起こる爆発によって夜であるにも関わらず周囲は昼間のように明るくなった。
そして夜が明ける頃、ようやく戦闘…いや、虐殺と呼んだほうがしっくり来るだろうか…ともかく輸送船団への攻撃は終結。後に残っていたのは、沈没・着底・座礁した輸送船の残骸ばかりだった。
この戦闘により、アメリカの輸送船団は文字通り全滅。さらには直前までその海域に留まっていた空母なども後に空襲を受け、「レキシントン」が沈没することとなった。一連の戦闘における両軍の損害は以下の通り。
三カ国連合艦隊
撃沈
軽巡洋艦
スキュラ(ディド級)
モーリシャス(クラウン・コロニー級)
駆逐艦
ライブリー、ロイアル(L級)
ほか、「ネルソン」「バーラム」「リヴェンジ」等が損傷
アメリカ大西洋艦隊
撃沈
空母
レキシントン
重巡洋艦
サンフランシスコ(ニューオーリンズ級)
軽巡洋艦
フィラデルフィア、ナッシュビル(ブルックリン級)
駆逐艦
モリス(シムス級)
デイビス(サマーズ級)
輸送船 六十隻(輸送していた兵員のうち約四万五千名が戦死)
ほか、戦艦「ロードアイランド」(中破)等八割以上の艦が損傷
この戦闘の後、アメリカ大西洋艦隊の残存艦は全て十四日までにノーフォークへ寄港。しかしどの艦も多かれ少なかれ手傷を負っており、再びまともな艦隊が組めるようになるには最低半年は必要であると見積もられた。
これは即ち、アメリカが大西洋における本土を除く全ての領土を占領されるということとほぼ同義であった。そしてこれ以降、アメリカ大西洋艦隊は潜水艦を使った遊撃戦に頼らざるを得なくなるのである。
「ネルソン」等からなる戦艦部隊がアメリカ大西洋艦隊を叩きのめしていた頃、三カ国の空母はプエルトリコやタークス諸島などへの断続的な空襲を実行。敵が航空兵力を全くといって良いほど保有していなかったこともあって、現地の基地施設は僅か数回の空襲で壊滅の憂き目を見ることとなった。
そして七月十二日、アメリカ大西洋艦隊との戦闘から戻ってきた「ネルソン」等の艦砲射撃の援護の下で上陸部隊計一万五千名がプエルトリコに上陸。三日間の戦闘の後、十五日に守備隊を降伏に追い込んだ。
その後三カ国連合艦隊の空母は十八日よりバハマにいるアメリカ軍陸上部隊への空爆を開始。艦砲射撃も並行して行われ、二十一日より順次各島への上陸を敢行。半月近い戦闘の末、八月三日にはバハマ全土の奪還に成功した。
一方この間上陸船団はフロリダ半島のマイアミなどから飛来した航空機の攻撃(B-25「ミッチェル」など)を受け、輸送船十八隻と護衛艦艇数隻を喪失。この攻撃で上陸前に輸送船諸共沈んだ陸軍将兵の数は一万人を超えた。
しかし三カ国連合艦隊も負けじとフロリダ半島のマイアミやデートナビーチ、ジャクソンヴィルといった港湾都市への空襲を行い、停泊していた商船を多数撃沈した。同時に空襲の目標は港湾施設にも及び、三箇所の港湾施設は数ヶ月の間使用不能に陥った。なおバハマ奪還戦からの一連の戦闘における両軍の損害は以下の通り。
三カ国連合艦隊側損害
撃沈
コルベット
アービュタス、キャンディタフト、ゴデチア(フラワー級)
輸送船十八隻、約二十一万六千トン
撃墜
シーファイア三機
ソードフィッシュ五機
フルマー四機
ニューポール六機
Bf109T一機
Ju87T三機
計二十二機
他、バハマやプエルトリコでの戦闘で約三千名が戦死
アメリカ側損害
撃沈
商船二十四隻、約十八万六千トン(千トン以上の船舶のみの合計)
その他港内の小型船多数撃沈破
撃墜(空襲迎撃時及び輸送船団襲撃時のもの)
P-40「ウォーホーク」八機
P-38「ライトニング」六機
B-25「ミッチェル」十二機
A-20「ハボック」六機
計三十二機
他に三箇所の港湾施設が甚大な被害を受け、バハマやプエルトリコでの陸戦で約六千名が戦死し、九千名が捕虜となった
なお、今回三隻が失われた「フラワー」級コルベットは第一次世界大戦での戦訓から捕鯨船を基に設計された船団護衛用の小型艦である。史実ではイギリス向けの艦だけで百四十四隻(加えて改良型が二十五隻)が建造された他、イギリス連邦の各国やアメリカ(アメリカでの呼称は『テンプトレス』型)にも貸与されている。基準排水量は九四〇トンで、速力は十六ノット。
バハマを奪還した後、三カ国連合艦隊は八月十五日にブレストへと帰還。アメリカ側と異なり大きな損傷を受けた艦も数えるほどであったため、三ヶ月も経つ頃には被雷した「リヴェンジ」「バーラム」を除いたほぼ全艦の修理と整備が完了した。
そこで、英独仏の三カ国は先の二隻を除いたほぼ全海軍戦力を持ってアメリカ東海岸への艦砲射撃と航空攻撃を行うことを決定。一九四二年十二月十五日にブレストを出港し、一路ノーフォークへと向かった。
なおこの出撃に際し「陸軍部隊を上陸させてはどうか」という意見も一部からは聞かれた。しかし部隊を上陸させるには船団を海岸の至近距離まで護衛する必要があり、上陸出来たとしてもそれほどまでに大きなリスクを背負う価値があるだけの戦果は見込めないと判断され、今回は見送られている。
これに対し、三カ国連合艦隊が出港したという情報を手に入れたアメリカは未だ修理が終わっていないのが多数存在する水上艦艇ではなく、本土にいる航空機と今まで温存していた潜水艦部隊で迎撃することを画策。三隻一組で「ウルフパック」を組ませた上で西経六十度の辺りを哨戒させることとした。
アメリカ大西洋艦隊の潜水艦は十二月十八日より相次いで東海岸の基地を出発。三カ国連合艦隊を、今や遅しと待ち構えていた。
そして遂に、十二月二十五日にT級潜水艦「グランパス」「グレイバック」及び「ガジョン」からなるウルフパックが三カ国連合艦隊を発見。気付かれないよう潜望鏡深度まで潜水した上で四千メートルの距離まで近づき、満を持して三隻合計で十八本の魚雷を放ったのである。
「左舷前方より雷跡六、来ます!」
「右舷前方より同じく雷跡六!」
「右舷後方からも雷跡六!」
見張り員の絶叫が、相次いで「ネルソン」の艦橋に響き渡る。
「く…っ、取り舵三十!」
十八本という多数の魚雷による突然の攻撃に驚きつつも、艦長は精一杯の回避運動を試みる。幸い魚雷は三カ国連合艦隊の先頭を航行していた戦艦群の中央に向けて発射されたため、「ネルソン」が被雷することは無かった。
この時、当然三カ国連合艦隊には多数の駆逐艦が随伴していた。それにも関わらず魚雷を発射される前に潜水艦の接近に気付けなかったのは、艦隊の陣形が影響していた。
当時三カ国連合艦隊は戦艦部隊の単縦陣を先頭にし、その後ろに巡洋艦と駆逐艦に囲まれた形で空母を配置していた。即ち、戦艦部隊は潜水艦に対し殆ど無防備だったのである。これは、純粋に三カ国連合艦隊司令部の慢心と油断が招いた失策に他ならなかった。
とはいえ、無論何の根拠も無しに油断していたわけではない。というのも大西洋艦隊に配備されている潜水艦の大半を占めるO級とR級はたかだか水上排水量にして五百トン程度の小型艦であったし、千五百トン近い水上排水量を持つT型は十二隻しか存在しなかったからである。
つまり、英独仏はO級とR級を過小評価していたことになる。しかしこの二クラスは十ノットでおよそ四千海里という存外に長い航続距離を持っており、航行性能や居住性にさえ目を瞑れば大西洋での作戦は十分に可能であったのだ。
ちなみに史実の第二次世界大戦及び大東亜戦争で商船の撃沈総トン数が一番多いのはT級の「タウトグ」(一三万三七二六トン)なのだが、それを知っているのは誠一を始めとしたごく一部の日本軍上層部の面々だけである。なお、「タウトグ」は他にも駆逐艦「白雲」や「磯波」、及び潜水艦「伊二六」等も撃沈している。
その後「ネルソン」の後方を素通りしていった魚雷は「リベンジ」級や「クイーン・エリザベス」級、さらにはフランスの「リシュリュー」級や「ダンケルク」級へと襲い掛かった。
先ほどまでの「ネルソン」と同様、魚雷を回避すべくそれぞれの方向に舵を切る戦艦群。しかしその方向は艦によっててんでんばらばらであり、各艦は大混乱に陥った。
そして、必死の回避運動も空しくクイーンエリザベス級の「ヴァリアント」とリヴェンジ級の「ラミリーズ」、それに加えてリシュリュー級の「リシュリュー」及び「ジャン・バール」が立て続けに被雷。命中した魚雷の数は二本が命中した「リシュリュー」を除いてそれぞれ一本に留まったが、それでも突然の四戦艦損傷は三カ国連合艦隊の司令部に大きなショックを与えた。
「いいか!必ず敵潜水艦を一隻残らず葬り去って来い!分かったな!」
露天艦橋の上で仁王立ちしながら、ネルソンが潜水艦を攻撃せんとしている駆逐艦に檄を飛ばす。本人は発破をかけているつもりなのであろうが、端から見るとどう考えても怒っている様にしか聞こえなかった。
駆逐艦が、潜水艦がいるであろう辺りに虱潰しに爆雷を投下する。さりとてこの時期の対潜戦術は史実のように潜水艦が猛威を振るっていないこともあって史実にも増して稚拙であり、ソナーや爆雷などの開発・研究もさほど進んでいないのが現状だった。
そのため、駆逐艦を三十隻以上も動員したにも拘らず撃沈できたのは「グランパス」「グレイバック」の二隻に留まり、「ガジョン」は取り逃がしてしまった。
「…くそっ!何で二隻しか撃沈出来なかったんだ!明らかに三隻以上はいただろうが!」
戦闘終了後の夜になっても、「ネルソン」にある自分の部屋でネルソンが怒りを露にする。
「敵潜水艦二隻撃沈確実」の報告にも、ネルソンは我慢が出来なかった。潜水艦に魚雷を放たれるまで艦隊のうち誰一人として三隻以上もの潜水艦の接近に気付かず、結果として四隻もの戦艦を手負いにされたことは、彼女にとってはとんでもない失態にしか考えられなかったのである。
「…アメリカの奴らめ、潜水艦で待ち伏せをするとは小癪な真似を…っ!」
そう言うと、怒髪天を衝いたネルソンはバンッ!とテーブルを勢い良く叩いた。そしてそのまま、ベッドに転がり込むように倒れ伏した。明らかな不貞寝である。
さりとてこの様に精神が昂ぶっている状態でそうやすやすと寝付く事が出来る筈も無く、結局ネルソンが眠りについたのは日付が変わった後の事であった。
潜水艦による襲撃の後、三カ国連合艦隊は被雷した戦艦四隻を分離した上でアメリカ本土各地への航空攻撃を実行。途中空襲や潜水艦によって「グローリアス」「ペーター・ストラッセル」等を撃沈されるといった少なくない被害を被ることにもなったが、同時にアメリカへ少しずつではあるが出血を強いていることも事実であった。ちなみにアメリカ本土からの空襲及び潜水艦の攻撃による三カ国連合艦隊の戦没艦は以下の通り。
空母
グローリアス(カレイジャス級)
ペーター・ストラッセル(グラーフ・ツェッペリン級)
重巡洋艦
ザイドリッツ(アドミラル・ヒッパー級)
軽巡洋艦
アルゴノート(ディド級)
そして一九四三年一月八日、遂に三カ国連合艦隊はアメリカ大西洋艦隊の主力が停泊しているノーフォーク基地への空襲を実行に移したのである。この時の航空隊の編成は以下の通り。
イラストリアス級
それぞれシーファイア三機、ソードフィッシュ十二機
インドミタブル
シーファイア三機、ソードフィッシュ十八機
アーガス
シーファイア三機、ソードフィッシュ六機
アーク・ロイヤル
シーファイア六機、ソードフィッシュ二十四機
カレイジャス
インドミタブルに準ずる
ベアルン
フルマー三機、ニューポール六機
ジョフレ級
ベアルンに準ずる
グラーフ・ツェッペリン
Bf109T四機、Ju87T八機
合計戦闘機三十三機、爆撃機二十五機、攻撃機百二機(計百六十機)
空母の数だけなら、当時の日本海軍の全正規空母の合計である十二隻にほぼ匹敵する十一隻が参加している。しかし相次ぐ航空戦(アメリカ本土への空襲や本土から来襲した攻撃隊への迎撃など)によって航空機の数は大きく減少しており、手負いの艦が多いとはいえアメリカ大西洋艦隊の主力を攻撃するには些か力不足な感は否めなかった。
午前八時、空母「イラストリアス」艦上。
「航空機の数が大分減っちゃったのが気がかりだけど、相手は所詮停泊中の水上艦!直掩の戦闘機さえいなけりゃ、こっちのもんだよ!」
今までと異なる停泊中の艦艇への一方的な攻撃とあって、大はしゃぎするイラストリアス。しかし彼女の甲板上に待機している航空隊は、出港時のそれから比べるとやはり寂しいものであった。
今回の攻撃では、「イラストリアス」はシーファイア三機を残して搭載している全ての航空機を出撃させる手筈になっている。それでもこれだけの航空機しか用意出来ないということは、即ちそれ以外の搭載機が全て戦闘で失われたということを意味していた。
とはいえこのように敵地に程近い洋上で損耗した航空機を補充する手立てがあるはずもなく、現在生き残っている航空機を可能な限り出撃させるしか為す術はなかった。
午前十時、ノーフォーク海軍基地上空。
三カ国連合艦隊が放った攻撃隊が、動けない戦艦や空母に襲い掛かる。直掩用に数機の戦闘機が出撃したが、数に勝る制空隊に一蹴されてしまった。
「まさか…こんなとこにまで来るなんて…っ!」
半泣きになりながら、露天艦橋に立って攻撃隊を睨みつけるロードアイランド。彼女としては自艦に搭載されている対空火器を以って迎撃に参加したかったのだが、生憎と彼女の船体は損傷の修理が終わっておらずドックに入ったままであった。そのため結果として攻撃を受けずに済んだのであるが、さぞ無念であったろう。
そんな彼女をよそに空母「レンジャー」や「ラングレー(水上機母艦へ改修済み)」、戦艦「ウエストバージニア」及び「アイダホ」等が次々と被弾、炎上してゆく。その大型艦が次々と被弾・炎上する様子は、まるで史実の真珠湾攻撃を見ているようであった。
「『アイダホ』さん!『バージニア』さんっ!」
目の前で戦友が炎上するのを目の当たりにし、たまらず泣き叫ぶロードアイランド。ちなみに彼女は大西洋艦隊の現旗艦であるために立場上先の二隻の艦魂よりは格上なのだが、相手の方が年上(アイダホは一九一九年、ウエストバージニアは一九二二年竣工)であるということで彼女は敬語を使っている。
しかしそんな彼女の叫びも空しく、「アイダホ」は魚雷四本と爆弾二発を受け大破着底。「ウエストバージニア」も魚雷一本と爆弾三発を受け大破した。とはいえ「レンジャー」は魚雷三本と爆弾一発を受け大破横転、「ラングレー」に至っては爆弾二発と魚雷五本を受け沈没しているのだから戦艦部隊はまだましだったのかも知れない。
この後「アイダホ」と「ウエストバージニア」は終戦まで前線に戻ることは無く、「レンジャー」は浮揚されたものの損傷が酷すぎたため廃艦処分となった。せめてもの幸いはこの四隻に攻撃が集中したために他の艦が攻撃を殆ど受けず、駆逐艦不足に拍車がかからずに済んだことだろう。なお三カ国連合艦隊の航空機の喪失は以下の通り。
シーファイア三機
フルマー三機
BF109T二機
ソードフィッシュ三機
ニューポール六機
JU87T二機
計十九機
この空襲の後、三カ国連合艦隊は航空隊の損耗が激しいためにブレストへ帰港。二十二日には無事到着したが、損傷艦の修理や艦載機の補充等に手間取り暫くの間両軍の間ではバハマやフロリダ半島上空での小規模な空中戦のみが行われることになった。