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第十章

 「豊前」の沈没後、第一艦隊及び第三艦隊は被害が甚大なためクェゼリンへと撤退。輸送船団を従えた第一及び第二航空艦隊はアメリカ太平洋艦隊へ航空攻撃を行った後、ジョンストン島の攻略を急ぐこととした。


 そして、翌朝にはアメリカ太平洋艦隊へと攻撃隊を放ったのである。この時の編成は八隻の空母からそれぞれ戦闘機が十二機、爆装した攻撃機が十二機、雷装した攻撃機が十二機の合計二百八十八機であった。


 三月四日、ジョンストン島の北東。


 アメリカ太平洋艦隊の上空に、「豊前」の仇を討たんとする三百機近い攻撃隊が姿を現した。


「また来たか…。さしずめバトル・オブ・ツシマ(日本海海戦のこと)で壊滅した後に日本軍の駆逐艦の襲撃を受けるロシアの第二太平洋艦隊のような状況だな」


 ニミッツが、戦没した「コロラド」に代わって臨時の旗艦となった「メリーランド」の艦橋でぽつりと呟いた。


 この時まだアメリカ軍の艦船には十分な対空火器が搭載されておらず、もちろんVT信管などあるわけが無い。また、艦載機の数や性能においても絶対的に劣っている。今回はそれに、艦隊の艦艇の大半が手傷を負っているという悪条件が重なっていた。


 攻撃隊を迎撃すべく、空母「エンタープライズ」及び「ヨークタウン」から戦闘機が出撃する。しかし度重なる戦闘によって消耗した戦闘機隊は、二隻合わせて十八機にまでその数を減らしていた。


 F4F「ワイルドキャット」の編隊が、懸命に艦隊を守ろうとする。とはいえ十八機対九十六機もの数の劣勢は如何ともし難く、次々と叩き落されていった。


 悠々と戦闘機の攻撃を突破した攻撃隊の大半がまず真っ先に狙ったもの──それは戦艦でも駆逐艦でもなく、今まで殆ど無視してきた空母だった。


 今まで開戦劈頭の第一潜水戦隊による攻撃を除いて空母を殆ど無視し続けた日本軍が、ここに至って何故空母を集中攻撃したか。それは、史実の「エセックス」級空母の完成を見込んでのことだった。


 確かに、史実では「エセックス」の竣工は一九四二年十二月三十一日なのだから今むざむざ手負いの戦艦部隊を見逃してまで空母を叩く必要は無いのではとも思える。しかし今ここで戦艦部隊を完膚なきまでに叩いてしまっては以後「エセックス」級や「インディペンデンス」級、さらには「ミッドウェー」級といった空母の就役までアメリカ側が艦隊を真珠湾で温存することが考えられ、そうなっては次の艦隊決戦の時には既に敵がこちらを上回る航空戦力を保有しているという状況になりかねない。


 それを避けるためには、定期的に敵空母部隊との戦闘をすることによって例え数隻ずつでも敵海上航空戦力を各個撃破していくしかない。そのため、敢えて手負いの戦艦群を見逃すような真似をしたのである。


 零式艦上攻撃機が、三機編隊で「ヨークタウン」めがけて急降下を仕掛ける。その三機は戦闘機の妨害を受けることもなく悠々と爆弾を投下し、高度数メートルという海面すれすれの低空を離脱していった。


 数秒の後、その内二発が「ヨークタウン」の飛行甲板を直撃。一撃で航空機の離着艦を不可能にし、同時にアメリカ太平洋艦隊の稼働空母をこの時点で「エンタープライズ」ただ一隻にした。


 これに続けとばかり、延べ五十機近い攻撃機が傷ついた「ヨークタウン」への集中攻撃を敢行。「ヨークタウン」には合計五発の爆弾と四本の魚雷が命中し、火達磨となった「ヨークタウン」は左舷へと傾斜し始めた。


 同じ頃、別の編隊は「エンタープライズ」への攻撃を開始。しかしこちらは殆ど命中弾を出せず、たった一発の爆弾命中と引き換えに七機もの攻撃機が対空砲火で撃墜されてしまうという大損害を被った。


 「エンタープライズ」に対する攻撃で思わぬ打撃を受けた攻撃隊はその後攻撃目標を戦艦や駆逐艦、及びウエーク島へ上陸する予定だった部隊を運んでいた輸送船へと変更。特に輸送船団は三十六隻中十六隻が撃沈され、一万人以上の陸軍将兵が戦わずして海没する惨事となってしまった。


 結局、この航空戦でアメリカ側は戦艦「カリフォルニア」が爆弾三発と魚雷五本を受けて沈没、炎上した「ヨークタウン」が自沈処分となるなど前日の砲撃戦以上の損害を受けた。この戦闘における両軍の損害は以下の通り。


日本軍

撃墜

戦闘機六機、攻撃機二十一機


アメリカ軍

撃沈

戦艦 カリフォルニア

空母 ヨークタウン(残余の艦載機も全て海没)

輸送船 十六隻、約十三万トン

撃墜

F4F十三機

損傷

戦艦は全てが大破ないし中破、「エンタープライズ」は小破。その他多数


 この攻撃で壊滅したアメリカ太平洋艦隊は三月十日に真珠湾へと帰港したが、開戦劈頭の真珠湾攻撃によって大幅に減少した燃料のストックが殆ど底をつき、以後の活動は潜水艦などの小型艦を除いて暫くの間沈静化することとなった。


 一方の日本軍も、この一連の戦闘で多数の艦載機を消耗。航空機搭乗員も百人以上を失い、陸上の基地から予備の搭乗員を掻き集めなければならなくなった。


 第一及び第二航空艦隊がアメリカ太平洋艦隊を攻撃していた頃、第一及び第三艦隊は上陸船団を切り離してメジュロへと向かっていた。また誠一はそれと同時に、かつて戦艦だった「富士」以下十隻の工作艦をトラックからメジュロへ向かわせ、第一及び第三艦隊に所属する艦船の修理のための準備をさせることも忘れていなかった。


 今回のジョンストン島沖海戦に関係する書類に目を通した後、誠一は「秋津洲」の予備会議室へと向かった。豊前を失い、自らも負傷して落ち込んでいるであろう艦魂たちに会うのはあまり気が進まないことではあったが、彼女たちには一日も早く元気を取り戻してもらわねばならなかった。


 会議室の扉の前に立ち、二回ほどノックをする。


「入っていいか?」


 そう聞いてはみたが、聞こえてきたのは秋津洲の「どうぞ」という小さい声だけだった。


 誠一が会議室の中に入ると、案の定その場にいた艦魂の大半が体のどこかしらに包帯を巻いていた。中にはその包帯に血が滲んでいるものも何人かおり、昨夜の戦闘における被害の大きさを示しているようにも見えた。


 そしてそれ以上気になったのは、やはりと言うべきかほぼ全員が暗い表情をしていたことであった。秋津洲が辛うじていつもの表情を保ってはいるが、他の艦魂は皆落ち込んでいる様子で、中でも美濃と伊予はすっかり俯いてしまっていた。


 想像以上に酷い艦魂たちの様子を見て、誠一は暫し何と言葉をかけようか悩んでいた。すると、安房が途切れ途切れに誠一に問いかけた。


「なあ…誠一さんよお…あんたは、豊前が死んで平気なんですか?」

「平気なわけないだろう?豊前とはかれこれ二十年以上の付き合いだったし、この戦争が始まってからだって僕が内地に行っていたとき以外は同じ第一艦隊で殆どいつも行動を共にしていたしな。これで平気だというほうがどうかしているよ」

「何だ…、心配して損しましたよ。てっきり、冗談が通じねえあんたは私たちのことをただの兵器としてしか考えてないのかと思ってました」

「安房!宮沢大将に何たる無礼な…!」


 誠一に対し歯に衣着せぬ物言いをする安房に、備前がたまらず怒鳴りつける。


「いや、別に構わないよ。ただ、僕だって所詮ただの人間だ。そこまで冷血漢にはなれそうもないし、なりたいとも思わない」


 その時の誠一の口調はどこか投げやりで、目にも全く元気と言ったものが感じられなかった。


「宮沢大将、お休みになられた方が宜しいのではありませんか?」

「いや、大丈夫だ。ここで休んでしまっては、それこそ豊前に顔向けできない」


 そう言うと、誠一は仕事に戻るために会議室を後にした。


 この翌日、第一及び第二航空艦隊はジョンストン島への空爆を開始。二日間の空爆で駐留していた一個大隊、約千人の守備隊に大きな損害を与え、三月八日に一個連隊二八八〇名を上陸させてこれを占領した。この戦闘における両軍の損害は以下の通り。


日本軍(死傷者は上陸部隊のみの数字)

戦死 百二十名

負傷 二百五十五名

撃墜

戦闘機二機、攻撃機五機


アメリカ軍

守備隊は全員が戦死または捕虜

在ジョンストン島航空隊全滅(各種合計約三十機)


 ジョンストン島占領の後、第一及び第二航空艦隊はジョンストン島へ艦載機のうち七十二機(戦闘機及び攻撃機が半数ずつ)を陸揚げしてメジュロへ向け離脱。これまで前線の陸上基地に艦上機を置くということは滅多にしてこなかったが、ジョンストン島はハワイに極めて近い(即ち攻撃を受けやすい)ために臨時の措置を取ったものである。


 この悪い予感はすぐに的中することとなった。ジョンストン島が陥落したことを知るや、アメリカ軍は三月十日からハワイに配備されていたP-38「ライトニング」やB-17「フライングフォートレス」による攻撃を開始。この航空攻撃は当初ほぼ毎日行われ、日米ともに多数の航空機を失うこととなった。


 これに対し日本側は、「祥鷹」型護衛空母六隻のうち半分の三隻をメジュロからジョンストン島への航空機輸送にあてることを決定。当然「桑」型護衛艇の護衛も付けたが、やはり敵機や潜水艦による妨害は免れなかった。


 まず、三月二十三日に第三護衛艦隊の「沈丁花」「丁子」が潜水艦の雷撃により沈没。これを皮切りに、空だけでなく海上でも激しい消耗戦が幕を開けた。一九四二年上半期にジョンストン島を巡る戦いで失われた両軍の艦艇は以下の通り。なお、輸送艦船や特設艦船は含めていない。


三月二十三日 「沈丁花」、「丁子」(第三護衛艦隊所属、潜水艦の雷撃)

三月二十四日 P級潜水艦「パーチ」、「ピケール」(護衛空母搭載機の攻撃)

四月十日 「木蓮」、「野梅」(第四護衛艦隊所属、航空機の攻撃)

四月二十五日 「新樹」(第五護衛艦隊所属、航空機の攻撃)

五月十日 潜水艦「アルゴノート」(護衛艇の攻撃)

五月十一日 「白木蓮」(第三護衛艦隊所属、潜水艦の雷撃)

五月二十六日 「青桐」(第四護衛艦隊所属、潜水艦の雷撃)

六月十一日 P級潜水艦「シャーク」、「ポンペーノ」(護衛艇の攻撃)


 ジョンストン島近海での護衛艦艇の損害が一気に増えたことに対し、日本はそれまでに内地で竣工した甲型護衛艇を片っ端からメジュロやトラックへ回航することとした。以下に1942年上半期までに回航された艇の艇名を記す。


唐椿(とうつばき)、夏椿、花椿、浜椿、姫椿、雪椿、岩躑躅、岡躑躅、白躑躅、朝桜、薄桜、姥桜、江戸桜、樺桜、御所桜、里桜、四手桜、白桜、栂桜、庭桜、夕桜、峰桜、豆桜、総桜(ふさざくら)


 このうち「唐椿」と「夏椿」及び「雪椿」が第三護衛艦隊に、「花椿」と「浜椿」及び「岩躑躅」が第四護衛艦隊に、「岡躑躅」が第五護衛艦隊にそれぞれ戦没艇の代替として配備された。


 なお第一及び第三艦隊は三月十二日に、第一及び第二航空艦隊は十六日にメジュロへと寄港している。


 ジョンストン島上空での航空戦が始まった当初、零式戦闘機は速度で勝るP-38「ライトニング」に時には同数での戦いでも苦戦を強いられていた。しかし、一九四二年四月に後継機の二式戦闘機が配備された(本来は六月ごろ実戦配備の予定だったところを、急遽前倒しした)ことにより状況は一変。比較的小型の機体に二千馬力という大出力の発動機を搭載したことで旋回性能及び最高速度ともにP-38を上回り、零式艦上戦闘機から引き継がれた二十ミリ機関砲四門という大火力も手伝ってP-38やB-17「フライングフォートレス」を次々と撃墜していった。


 しかしいくら珊瑚礁で出来た平地とはいえたかだか面積が二・八平方キロメートルしかない島に配備できる航空機と高射砲には限りがあり、おまけにジョンストン島は淡水の確保が不可能ということもあって現地の将兵は相変わらず厳しい状況下で戦わねばならなかった。


 そして、それに追い討ちをかけるかと思われた出来事が起こる。五月十日、哨戒に出ていた日本の水上偵察機(二式攻撃機の水上機型)はいつものように米軍機の大編隊を発見。偵察員はそのことをすぐさまジョンストン島の航空基地に伝えようとしたが、B-17に随伴している戦闘機に違和感を感じ、よく目を凝らしてみた。


 その戦闘機は今まで来ていたP-38と違い単発で、機首の形状から液冷エンジンを搭載していることは分かった。しかし、P-40の航続距離ではハワイからジョンストン島までの往復はまず不可能なはずである。


 実はその戦闘機こそ、米軍が新たに実戦配備したP-51A「ムスタング」であった。この機体はアリソン製V-1710エンジン(千二百馬力)を搭載しているために高高度での性能ががた落ちしてしまうという特徴があり、それ故に今まで前線への投入は見送られていた。しかし今回ジョンストン島上空での航空戦で戦闘機が一機でも多く欲しいという要望に応えて急遽配備されたのである。


「敵戦爆連合ノ大編隊見ユ。数ハ百機程度、方位ハ北北東、距離ハ二百海里。尚、敵ハ新型液冷戦闘機ヲ有ス。P-51ト思ワレル」


 この連絡を最後に、この偵察機は撃墜された。ちなみにこの偵察員がP-51の存在を知っていたのは、日本軍上層部があらかじめ通信の傍受や誠一からの情報によってP-51の存在を知り、このことを前線の部隊に前もって通達していたからである。


 五月十日、午前十一時。ここジョンストン島の航空基地では、護衛空母によって運ばれてきた四十八機の二式戦闘機が迎撃のために次々と離陸していった。一方のアメリカ側は、P-51AとP-38がそれぞれ二十四機、B-17が四十八機という編成である。


「いいか!敵の新型は高高度での戦闘が苦手だ!うまく上の方に誘い込んで、叩き落してやれ!ペロハチ(P-38のこと)はいつも通り、低空での格闘戦で仕留めるぞ!」

「「了解!!」」


 隊長の号令の元、戦闘機隊がそれぞれの攻撃目標へと向かう。彼らは最初こそ二式戦闘機やP-38に匹敵する時速六百キロメートル以上の高速を持つP-51に手を焼いていたが、すぐさま高高度での戦闘に持ち込み、これを次々と撃墜していった。


 結局、日本軍は九機の喪失と引き換えにP-38を八機、P-51を十二機、B-17を十六機撃墜。さらに日本側の勢力圏での戦闘という事もあって撃墜された米軍機の搭乗員が全員戦死または捕虜となったのに対し、日本軍のそれは大半が救出されることとなった。


 この戦闘でP-51がP-38を上回る犠牲を出したことにより、米軍はP-51の生産を縮小。以後実戦投入された機体もマーリンエンジンが無いことによって史実のような高性能を発揮するには至らず、二式戦闘機はおろか時には零式戦闘機にさえ苦杯をなめることもあった。


 メジュロへ寄港した後、戦艦「豊前」喪失を始めとする予想外の損害を受けた日本軍はミッドウェー諸島攻略を延期。喪失した戦力の回復に努めることとした。


 まず最初に、開戦後に竣工してメジュロに回航されていた「秋風」型駆逐艦の「文月」「星月」を戦没した二隻の代替として第三艦隊へと編入。ついで第一戦隊に所属していた「美濃」を第二戦隊に転属すると共に、「安房」に代えて第二戦隊の旗艦とした。


 また、十隻の空母に搭載されていた艦載機を零式から二式へ変更。しかしさすがに八百機もの航空機を一度に更新するのは不可能であり、損傷した艦艇の修理とあわせて数ヶ月の時間が必要であった。


 それでも「富士」を始めとした工作艦部隊の活動により、修理は順調に行われた。その結果、六月半ばには損傷の激しかった戦艦を除く大半の艦の修理が完了したのである。


 さらには講和条約を締結したイタリアから研究も兼ねて一部の艦艇を期限付きで接収し、ミッドウェー攻略の間がら空きとなってしまう南洋諸島の警備を担当させた。このとき接収された艦は以下の通り。


軽巡洋艦

アルベルト・ディ・ジュッサーノ、アルベリコ・ダ・バルビアーノ(アルベルト・ディ・ジュッサーノ級)

駆逐艦

トゥルビーネ級、フォルゴーレ級、フレッチア級


 そして、六月二十日にフィリピン攻略を終えた第二艦隊と第四艦隊、さらに第三艦隊、第一航空艦隊及び第二航空艦隊の合計五個艦隊はメジュロを出港。ハワイ攻略への最後の障害であるミッドウェー諸島の攻略に向かった。なお、誠一は第一航空艦隊の「潜龍」に乗艦している。


 一方、アメリカ側も通信の傍受によって大艦隊が出港したことには気付いていた。しかし史実のミッドウェー沖海戦の前と同じく、日本の攻撃目標を予測しかねていた。


 そこで、「ミッドウェーは水不足である」という内容の電文を平文で発信。この通信は案の定第一航空艦隊に傍受されることとなる。


「まさか、史実と全く同じ手を使ってくるとはなあ…」


 そう言いながら、誠一が苦笑いをする。ここは「潜龍」艦内に設けられた長官室であり、誠一は山口多聞中将と今後の対応を話しているところであった。


「私も史実のことは聞いていたので、驚きました。…しかし、どうします?傍受していないふりでもしますか?」

「いえ、万が一本当だったら困りますから一応各艦隊や内地の方に伝えておいて下さい。…但し、勿論平文でね」

「そちらの罠には引っかかるまいぞ、ということですか」

「ええ。むざむざアメさんに空母撃沈という戦果を献上する義理はありませんから」

「わかりました。そうしておきます」


 結局日本側の攻撃目標を知りかねたアメリカは、日本艦隊がハワイに来た時には航空部隊で迎撃することにしてミッドウェーの南方海域へと艦隊を派遣。しかし戦艦の中には未だ修理途中の艦も多く、戦力の強化とハワイから避難するということも兼ねて旧式の平甲板型も随伴させることとなった。ハワイを出港したのは六月二十三日で、編成は以下の通り。


戦艦 テネシー、ネバダ(メリーランド、ニューヨーク、テキサスはハワイで修理中)

空母 エンタープライズ

重巡洋艦 ノーザンプトン級三隻、ウィチタ

軽巡洋艦 オマハ級隻、アトランタ級四隻

駆逐艦 平甲板型五十五隻、グリッドレイ級四隻、バグレイ級五隻、ベンソン級四隻、ブリストル級二十隻


 こうして見ると、アトランタ級やブリストル級の本格的な就役が始まったおかげで軽巡洋艦と駆逐艦はそれなりの数がそろえられている。しかしその多くは完成間もない艦であり、乗組員の練度に関してはどうしても妥協せざるを得なかった。


 さらに深刻なのは、戦艦及び空母の絶対的な不足である。日本側が戦艦六隻と中型空母十一隻を有するのに対し、アメリカ側は戦艦二隻と大型空母一隻に過ぎなかった。


 この状況を重く見たニミッツは、正面きっての艦隊決戦は不可能と判断。少数の駆逐艦や潜水艦による波状攻撃を仕掛け、少しずつでも日本側の戦力を削っていくことにした。


 そこで、ニミッツは太平洋艦隊が保有する全潜水艦にも出撃を命令。とはいえジョンストン島沖でこのおよそ四ヶ月の間に五隻の潜水艦が失われていることや開戦劈頭のS級潜水艦の大量喪失もあり、新しく就役を始めたガトー級十六隻を含めても満足できる数は用意できなかった。


 しかしこれが功を奏し、六月二十六日午後二時にガトー級潜水艦「グローラー」が第二艦隊を発見。「グローラー」は、第二艦隊の戦艦群に向け魚雷六本を立て続けに放った。


「二時の方向より雷跡六、来ます!」

「面舵一杯、前進一杯!」


 突然の敵潜水艦の攻撃に、慌てて回避運動を取る第二艦隊の戦艦群。しかし比較的密集した陣形を組んでいたこともあって、全速力での回避は先頭の「筑前」を除いて困難な状況にあった。


 そして魚雷の発射から数分後、「筑前」の後方で四本の水柱が立った。


 爆発音とともに、水柱がそそり立つ。


「くっ…誰が食らった!?」

「『越後』『志摩』『伊豆』が被雷した模様!」

「損傷は?」

「待ってください。…幸い、三隻とも航行に支障はないそうです」

「そうか…」


 全艦損傷は軽微という水兵の報告を受け、誠一が安堵する。三ヶ月前の「豊前」の二の舞は、もう御免だった。


 この時の魚雷命中数は「志摩」が二本、他の二隻が一本ずつ。さらに何れも防水区画が張り巡らされた部分に命中したため、少量の浸水が発生したに留まった。


 その後、「グローラー」は第二艦隊に所属する駆逐艦の攻撃により沈没。いくら新鋭のガトー級とはいえ、ヘッジホッグなどの対潜装備を満載した数十隻の駆逐艦に袋叩きにされてはひとたまりもなかった。


 この今まで殆どなかった潜水艦の襲撃を受け、誠一は周囲に潜水艦が多数潜伏している恐れがあると判断。艦隊全体を駆逐艦の輪で囲み、第二波の襲撃に備えた。


 また空母の搭載機や水上艦に搭載された水上偵察機も使用し、大規模な敵潜水艦の捜索も実行。その結果、艦隊の針路上であるミッドウェー諸島の南方に数十隻の潜水艦が潜んでいることが判明した。


 これを聞いた誠一は、直ちに駆逐艦や爆雷を搭載した攻撃機による対潜水艦掃討作戦の実行を提案。山口中将や角田中将もこれを受け入れ、第十及び第十二水雷戦隊の全駆逐艦と第一及び第二航空艦隊の攻撃機合計四十八機を使用した大規模な掃討作戦を行うこととした。


「半年振りの対潜水艦戦…でも、今度はあの時のようにはさせない!」


 そう気勢を上げるのは、昨年十二月に実施されたアリューシャン列島攻略作戦の帰途において潜水艦の襲撃を受け、二人の姉を失うこととなった「雪雲」の艦魂であった。


 彼女は対潜水艦掃討作戦を行う旨を聞いた時、初め半年前と同じようなことが起きてしまうのではないかと不安になった。しかしアメリカがガトー級の大量建造に踏み切ってしまっている以上、これを野放しにしておいてはそれこそ半年前の件とは比較にならないような被害が出てしまう恐れがあると考え、作戦に参加することへの迷いを断ち切ったのである。


 確かに、艦魂である彼女の意思に関わらず駆逐艦としての「雪雲」は今回の掃討戦に参加することとなる。だがその艦の艦魂の感情如何によっては作戦に見えない影響を及ぼすことも考えられ、決して無視は出来ないことだった。


 二十四隻の駆逐艦が、駆逐隊ごとに分かれて捜索を行う。上空には攻撃機が控えており、潜水艦を発見した場合はすぐに駆逐艦に報告するとともに自身も爆雷を投下する手はずになっていた。


 そして三十分後、攻撃機から「我敵潜水艦三隻見ユ」の報告が入った。そしてその潜水艦に最も近い位置にいたのは、偶然にも「雪雲」が所属する第三十六駆逐隊だったのである。


 この時発見されたのは「ダーター」「ガードフィッシュ」「アルバコア」の三隻。なおこれはたまたま三隻が近い位置にいたところを捕捉されたのであって、この三隻がウルフパックを組んでいたわけではない。


 第三十六駆逐隊が接近する前に、二機の攻撃機が合計八発の六十キロ爆雷を投下。この内二発が「ガードフィッシュ」に命中しこれを撃沈したが、残りの二隻には一発も命中させることが出来なかった。


 攻撃機の爆雷投下を掻い潜った二隻の潜水艦に向かって、第三十六駆逐隊の四隻が全速力で突進をする。しかし、米潜水艦は回避どころか何もせずその場に潜望鏡を突き出したまま動かずにいた。


 実は、この二隻は駆逐艦を限界まで引き付け、魚雷を撃っても回避できない程度に距離が縮まってから魚雷を撃つ腹積もりであった。確かにこれでは潜水艦も撃沈される恐れが少なからずあるが、彼らはより確実に駆逐艦を仕留められる方法を選んだのである。


 彼らにとって不運だったのは、この戦術が史実で使われてしまっていたことであった。この戦術で一九四三年七月二十七日に「ソーフィッシュ」が敷設艇「平島」を、また一九四四年六月七日に「ハーダー」が駆逐艦「早波」を、さらに翌日には「谷風」を沈めている。


 このことを知っていた誠一は、距離が五千を切った時点で潜水艦の正面からは離れるように指示。これにより、米潜水艦の目論みは頓挫する形となった。


 距離五千で一斉に転舵し、舷側に備え付けられた爆雷投射機(いわゆるK砲)で潜水艦を沈めようとする駆逐艦たち。しかし、近くにもう一隻の潜水艦が潜んでいることに気が付いていなかった。


 このことが、第三十六駆逐隊に悲劇をもたらすこととなるのである。


 第三十六駆逐隊の近くに潜んでいた潜水艦──それはガトー級潜水艦「ドラム」であった。


 「ドラム」は第三十六駆逐隊の四隻が「アルバコア」と「ダーター」に気を取られている隙にゆっくりと接近。そして、三千メートルの距離から六本の魚雷を放ったのである。


「九時の方向に雷跡六、来ます!」

「面舵一杯、前進一杯!!」


 突然の襲撃に、慌てて回避運動をとる四隻。しかし、潜水艦を攻撃すべく互いに近距離で航行していたさなかに全速力での回避を試みたため、四隻は大混乱に陥った。


 そして、「巻雲」の船体中央右舷側に後続の「山雲」がほぼ直角に衝突。「山雲」が全速力で航行していたために「巻雲」の後部缶室は一瞬で大破し、「山雲」の艦首は見るも無惨にひしゃげた。


 さらにそこに「ドラム」の発射した魚雷が接近し、「巻雲」の後部機械室と「山雲」の船体中央部及び後部の左舷側に命中。「山雲」は両方の機械室を破壊されて航行不能になり、「巻雲」も被雷と衝突によって大量の浸水が発生していた。


 その後なんとか被害を免れた「夕雲」が「ダーター」「アルバコア」への攻撃を続行。さらには救援に駆けつけた第三十五駆逐隊も合わせた五隻の駆逐艦の攻撃により二隻は撃沈されたが、残る「ドラム」は不敵にも魚雷を再装填し、未だ無傷の「夕雲」「雪雲」に攻撃を仕掛けようと目論んでいた。


 それに気付いた「雪雲」は「ドラム」への突撃を開始。全速力で突っ走る「雪雲」の艦橋の上では、艦魂の雪雲が涙を流しながら無言で「ドラム」が潜んでいるあたりの海面を睨みつけていた。


 その涙は目の前で再び姉を傷付けられたことに対する悲しみから流れたものなのか、はたまたそれを防げなかった自分に対する怒りなのかは分からない。ただ一つ確かなのは、彼女がこの戦闘が終わるまでの間口を真一文字に結んで殆ど身動きをしなかったということだけである。


 一方の「ドラム」は魚雷の発射が間に合わないと判断したのか、急遽反転して遁走を企てた。とはいえ駆逐艦と潜水艦では速度に雲泥の差があり、二隻の距離は見る見るうちに縮まっていった。


 そして遂に「雪雲」は「ドラム」を爆雷投擲機の射程内に収め、満を持して十六発の小型爆雷を発射。その爆雷は狙い過たず「ドラム」を包囲するように着水し、爆発。水柱が収まる頃には、「ドラム」は既に海中深くへと沈んでいった。


 「ドラム」の沈没を見届けると、緊張が解けた雪雲はその場にがくりと崩れ落ちた。戦闘が終わった後同じ第三十六駆逐隊の夕雲が「雪雲」に訪れたが、ぐったりとしている雪雲を見て言葉を交わすことなく自艦に戻っている。


 結果として、日本は八隻の駆逐艦の奮闘により米潜水艦を四隻撃沈することに成功した。しかしその代償として大破した「巻雲」「山雲」が復旧不可能と看做され撃沈処分となり、第三十六駆逐隊は以後メジュロに帰還するまで二隻のみの状態が続くこととなった。


 その後、日本艦隊は敵潜水艦の哨戒網を突破しなおもミッドウェー諸島への進撃を継続。これを知ったニミッツは、最後の賭けとして艦隊に所属する全駆逐艦及び巡洋艦による夜間攻撃を仕掛けることを決意。その露払いとして「ニューヨーク」「テキサス」の参加もいったんは考えたが、低速に過ぎるため断念された。


 六月二十六日、午後六時。


 この時、重巡洋艦「ウィチタ」を先頭とする艦隊が日本艦隊に向け三十ノットを超える速力で航行していた。一方の日本艦隊は第二艦隊を先頭に第三艦隊及び第四艦隊が続き、最後尾に第一航空艦隊と第二航空艦隊が控えていた。航空艦隊を最後尾にしていたのは、突然の敵艦隊の来襲に備えるためである。


「電探に感あり!北東より、敵と思われる大艦隊が三十ノットを超える速度でこちらに突っ込んできます!」

「今の距離は?」

「二万五千!」

「全艦、取り舵一杯!同時に他の艦隊にもこのことを連絡しろ!」

「了解!」


 大川内中将の下、砲戦の準備を整える第二艦隊。やがて敵艦隊接近の報告を聞いた第三及び第四艦隊も、第二艦隊に倣って取り舵を切ると同時に砲雷撃の用意を始めた。


「『筑前』より入電。『我敵艦隊ヲ発見セリ。方位ハ北東、距離二万五千』です」

「よし。第十六戦隊と第二十六戦隊、それに第十一水雷戦隊を応援に向かわせろ。第二艦隊にこの旨を連絡しておけ」

「了解」


 山口中将の指示に、誠一が驚きの表情を見せる。


「随分思い切ったことをするな、などとお思いになりましたか?」

「いえ。第二十六戦隊だけなどと言うならまだしも、まさかこれ程とはねえ…。まあ、それを承知であなたにこの第一航空艦隊を任せたわけですが」

「今頃二航艦(第二航空艦隊のこと)の角田さんも、同じようなことを考えていらっしゃるかも知れませんよ」

「史実の南太平洋海戦のことを考えると、おそらくそうでしょうなあ」

「止めようとはお思いにならないのですか?」

「思いませんよ。初めから予測できたことですからね」


 二人の予測通り、同じ頃角田中将も第十二水雷戦隊を残して全ての巡洋艦と駆逐艦を第二艦隊以下への増援として送り出していた。これにより日本側の戦闘に参加する戦力の合計は戦艦六隻、重巡洋艦二十四隻、軽巡洋艦二十隻、駆逐艦九十六隻へと膨れ上がった。


 ちなみに誠一が言った「南太平洋海戦のこと」とは、この海戦で用いられた艦載機が往復できない距離から空母「隼鷹」より攻撃隊を出撃させ、攻撃隊が帰還するまでの間に「隼鷹」を敵空母へと向かわせる。そして、艦載機の燃料が尽きる前にこれを収容可能な位置まで進んでおくという角田中将の本領発揮とも言える策のことである。ちなみにこの戦法を使った波状攻撃によってこの時は空母「ホーネット」の撃沈に成功している。


 第二艦隊が取り舵を切ったのを見て、巡洋艦部隊の司令官であったフランク・J・フレッチャー少将は驚いた。いくら丁字戦法が日本海海戦やジョンストン島沖海戦で成功を収めたとはいえ、さすがに同じ戦法をそう何度も使うとは考えていなかったからである。


「各艦、面舵一杯」


 そう言ったところで、フレッチャーに一つの考えが浮かんだ。何も、わざわざこちらが不利になるであろう日本艦隊との砲撃戦に付き合う必要は無い。こちらはさっさと魚雷を撃ったら、あとは全速力で逃げればいいだけの話なのである。


 そう考えたフレッチャーは、各艦に日本艦隊へ向け直進し、距離五千で魚雷を放った後は最大戦速でこの海域から離脱するよう指示を変更。同時に露払いである重巡洋艦部隊には日本の巡洋艦や駆逐艦に対してのみ砲撃を行うよう命令した。


「まずいな…」

「どうしたのですか?」


 そう呟いた誠一に、潜龍がいぶかしむように尋ねた。


「いや、敵が丁字で砲撃を食らうリスクを負ってまで突っ込んできているということは、まず間違いなく魚雷をぶっ放して撤退するつもりだろう。そのことに、大川内中将が気付いているか…。」

「なら、そのことをお伝えにならなければ…。」

「ああ。だが、どうやって伝えるか…」

「私が大将を『筑前』まで送って差し上げましょうか?」

「出来るのか?この艦と『筑前』は大分離れているぞ」

「やれるだけのことはやってみます」

「分かった。頼むぞ」


 幸い、誠一は潜龍と共に「筑前」艦上への移動に成功。急いで大川内中将のいる場所へと向かった。


「大川内中将、ちょっといいですか?」

「宮沢大将、何故ここへ?」

「潜龍に送ってもらったのです。それより、お伝えしたいことが」

「何ですか?」

「敵艦隊は、今も直進を続けているんですね?なら、敵はおそらく魚雷を発射したらすぐに逃げる腹積もりでしょう。ですから、攻撃を敵の駆逐艦に集中していただきたい」

「先のジョンストン島沖海戦のようなことになる、とお考えで?」

「ええ。そんなところです」

「了解しました。やれるだけのことはやってみましょう。第三艦隊と第四艦隊にも伝えておきます」

(かたじけな)い。それと、もう一つ」

「何ですかな?」

「暫くの間、ここにいても宜しいですか?」

「構いませんが、史実の山本長官のような目に遭われる危険があるのでは?」

「大丈夫でしょう。今までも『秋津洲』に乗って殆どずっと前線にいましたから」

「史実の第一艦隊とは、まるで正反対ですな」

「ええ。良い意味でも悪い意味でも、ね」


 誠一の言う「良い意味」とは、燃料の工面が史実より楽であるために主力艦も十分に活用出来ていること。そして「悪い意味」とは、そのせいで史実より早く戦艦から戦没艦が出てしまったということである。


 二人が話している間にも、日米双方の距離は刻一刻と縮まってゆく。そして、遂に距離が二万を切ったことを水兵が告げた。


「よし、撃ち方始め!」


 大川内中将の号令の下、第二から第四艦隊に所属する駆逐艦を除く全艦の主砲が次々と放たれる。ちなみにこの水上艦隊に所属する空母を除く軽巡洋艦以上の艦が主砲を斉射した場合、合計三百五十二発もの砲弾が敵艦隊めがけて飛んでいく計算である。ましてその内四十八発は十四インチ砲弾なのだから、その威力は推して知るべしだろう。


 立て続けに放たれた無数の砲弾は、射撃用電探の助けもあって初弾からかなり近い位置へと着弾した。しかしそれは、FC Mark3(大型艦を十八キロメートルの距離で補足可能)を使用して一万五千の距離から砲撃を始めたアメリカ側も同じことだった。


 距離が近づくにつれ、お互いに少しずつではあるが砲撃が正確になってゆく。とはいえ、やはり先に砲撃を開始できていた日本のほうがより正確であった。


 先に命中弾を出したのは、やはりと言うべきか日本側であった。距離一万三千で「筑前」の放った一弾がブリストル級駆逐艦「ダンカン」に命中したのである。


 十四インチ砲弾の直撃を受けた「ダンカン」は、船体を粉々に吹き飛ばされて轟沈。また突然近くで大爆発が起こったことにより、アメリカ駆逐艦部隊は大混乱に陥ってしまった。


 これを好機と見た南雲中将と小沢中将は、航空艦隊からの増援艦も含めて敵駆逐艦部隊へと突撃を開始。米駆逐艦部隊の混乱は一層酷いものとなり、周辺は史実の第一次ソロモン海戦のような様相を呈しつつあった。


 自軍の体たらくを見かねたフレッチャー少将は露払いとしての戦闘を放棄。第三及び第四艦隊へと目標を変更し、ここに両軍の巡洋艦部隊同士による乱打戦が繰り広げられることとなった。


 第三艦隊と第四艦隊に向かって、アメリカ軍の巡洋艦部隊が肉薄してくる。


「来たか…」


 白根はそう言うと、嬉しそうにほくそ笑んだ。


「開戦から此の方待ちに待った艦隊決戦…相手が一万トン級重巡洋艦なら、悪くはないな。全力で当たらせてもらう!!」


 そして一度深呼吸をし、一息に名乗りを上げた。


「我こそは大日本帝国海軍白根型重巡洋艦一番艦『白根』!いざ、尋常に勝負!」


 白根の名乗りと同時に、六門の八インチ砲が初弾を放つ。その砲弾は命中こそしなかったものの、ブリストル級駆逐艦「ラフェイ」への至近弾となった。しかしそれと同時に、白根が驚いたような表情を見せる。そして直後にその顔は、見る見る怒りの表情へと変わっていった。


「何故だ!目の前に重巡洋艦がいるというのに、何故駆逐艦風情を撃たねばならん!」


 ただただ少しでも大きな艦を仕留めたいと願う白根にとって、巡洋艦が目の前にいながらより魚雷の搭載数に勝るからといって駆逐艦などという小物を狙うのは理解できないことだった。そして自分の主砲がなおも駆逐艦ばかりを狙い続ける状況に耐えかねた白根は、とうとうその場にどっかりと胡坐をかいて座り込んでしまったのである。


「宮沢大将は何を考えていらっしゃるのだ!敵巡洋艦群を一網打尽にする機会をみすみす見逃そうとは、血迷いなさったか!?」


 やけくそになった白根はすっくと立ち上がると、誠一に直談判をすべく「潜龍」へと移動した。


「宮沢大将はおられるか!…あれ?」


 「潜龍」艦内を探し回る白根だったが、誠一は一向に見つからない。だがそのうち、露天艦橋で潜龍を見つけることが出来た。


「潜龍さん、宮沢大将はどこですか?」

「宮沢さんなら、私がさっき『筑前』に送っていったよ」

「そうですか…。ご教授、感謝します」


 白根は艦橋を去ると、「筑前」へと移動した。


「宮沢大将!宮沢大将!」

「うわっ!?…なんだ、白根か。どうした?」

「何故私に敵巡洋艦群を撃たせて下さらないのです!」

「今ここでアメさんの駆逐艦を無視していたら、何れ魚雷が何十本何百本と襲い掛かってくることになる。それだけは何としても避けたい」

「しかし…」

「お前が大型艦を仕留めたいのはよくわかる。だが、戦争は感情論では出来ないんだ。それを、どうかわかって欲しい」

「くっ…。了解した」


 白根が去ったのを見届けると、誠一はため息をついた。


「…待ってろ。いつか必ず、本懐は遂げさせてやるからな」


 誠一がこの言葉を白根に言ったのか、それとも自分に言い聞かせたのかは定かではない。


 二人が話している間にも、両軍の砲撃戦は続いていた。アメリカの巡洋艦部隊が日本の重巡洋艦を目標としたのに対し、日本は戦艦から駆逐艦までの全ての艦が米駆逐艦を集中攻撃。米駆逐艦部隊は、急速にその数を減らしていった。


 しかし数十隻の駆逐艦を全て追い払うには至らず、何割かの駆逐艦はその殆どが傷つきながらも突撃を続行。中には、艦全体が炎に包まれながらなおも突撃を止めようとしない艦もあった。


「くっ…これ以上近づかれては…」


 高速で接近してくる駆逐艦をまた一隻屠りながら、白根は焦燥していた。


 この時の両軍の距離は、およそ七千メートル。いつ魚雷を発射されてもおかしくない距離である。「ダンカン」の轟沈によって混乱が発生して陣形が乱れたとはいえ、駆逐艦がこれだけの数で攻撃を試みてきているのが脅威であるということに変わりはない。ならば、全艦は無理でも一隻でも多くの駆逐艦を仕留めておかねばならなかった。


「ええい、沈め!沈めえっ!」


 自暴自棄になり、持っていた軍刀を滅茶苦茶に振り回す白根。しかしその時、遂に軽巡洋艦「オマハ」が魚雷を発射するのが目に入った。


「…まずい!筑前さん!宮沢大将っ!!」


 「筑前」の方に向け、魚雷が接近してゆく。それを確認した「筑前」の見張り員が急いで魚雷の接近を告げ、艦長は「取り舵一杯」を下令。「筑前」が舵を切り始めた。


 だが二万トンもの巨艦である「筑前」は舵の効きも遅く、ゆっくりとしか方向転換が出来ない。


「宮沢さん、このままじゃあ…!」

「分かってる。だが…」


 泣きそうな表情の筑前に対し、誠一が諭すように言う。


「これが、この艦の限界なんだ…」

「そんな…」


 筑前の顔から一粒の涙がこぼれた瞬間、爆発とともに「筑前」の船体は大きく揺さぶられた。


 ズズウウゥゥ…ン


 低い音とともに、「筑前」の巨体が揺さぶられる。


「くっ…。筑前は…?」


 誠一の目の前には、右足から血を流しながら倒れている筑前がいた。


「筑前!大丈夫か!?」

「大丈夫…です。このくらいの痛み、ジュットランド沖海戦で負った傷に比べれば…小さなものです」

「そうか…。『筑前』の被害は?」


 誠一が、近くにいた水兵に尋ねる。


「魚雷は右舷艦尾に命中しましたが、浸水は幸い防水区画の範囲内に留まっています」

「…なら、戦闘に支障は無い、か」

「…有り難う御座います。宮沢さんが私の船体に二重に防水区画を作ってくれていなかったら、今頃どうなっていたか…」

「気にするな。それより、今はじっとしておいたほうがいい」

「…はい」


 「オマハ」に続けと、なおも突撃を続ける米艦隊。しかし艦数が絶対的に劣勢な状況では魚雷を命中させることどころかきちんと狙って発射することさえ困難であり、結局魚雷を発射できた艦は半数以下という無惨な有様であった。それでも「筑前」以下複数の艦艇に魚雷を命中させ数隻を沈没に追い込めたのだから、犠牲が大きすぎることを考えなければこの突撃は全くの無駄ではなかったと言えるだろう。


 とはいえたかだか戦力の数パーセント程度の損耗で日本軍がミッドウェーの攻略を諦めるはずもなく、米艦隊の目論みは失敗に終わった。


 巡洋艦部隊による日本艦隊の撃退に失敗した米海軍は、ミッドウェーにあるF4Fなどの艦上機を空母に搭載して撤収させた上で真珠湾へと避退。一方の日本海軍は、ミッドウェーまではまだ距離があることから航空攻撃によって米艦隊に更なる打撃を与え、暫くの間再起不能にした後にミッドウェー諸島の攻略に取り掛かることを決定した。なお、この戦闘における両軍の戦没艦は以下の通り。


日本軍(括弧内は所属部隊)

軽巡洋艦

遠賀(第四艦隊第二十四戦隊)

駆逐艦

時雨月(第三艦隊第六水雷戦隊第十七駆逐隊)

表潮(第四艦隊第八水雷戦隊第二十二駆逐隊)

出潮(第八水雷戦隊第二十四駆逐隊)

中潮(出潮と同じ)


 他、戦艦「筑前」等が損傷


アメリカ軍

駆逐艦

ラドロー、ウルジー(グリーブス級)

ラフェイ、アーロン・ワード、ダンカン(ブリストル級)

ミード、ベイリー、シュブリック(平甲板型)


 他、軽巡洋艦「オマハ」等が損傷


 海戦が終わった後、「筑前」の見張り員が遠くに停止している一隻の駆逐艦を発見した。


「あれは…アメリカの平甲板型か?」

「そのようですね。撃沈しますか?」


 誠一は暫く考えた後、見張り員にこう告げた。


「いや、威嚇射撃や発光信号で取り敢えず反応を見てくれ。反応がなかったら捕獲する」

「へ?…りょ、了解」

「大丈夫ですか?罠という恐れもありますが」


 誠一の命令に対し、大川内中将が異議を唱える。


「大丈夫でしょう。それに、あの混乱の中でわざわざ罠を仕掛けている余裕があるとは思えません」


 案の定、その駆逐艦は一切の応答をしなかった。そこで誠一は「筑前」の内火艇で水兵を何人か派遣し、駆逐艦の内部を調査するよう指示。それでも駆逐艦の中には怪しいところが無いどころか、なんと人っ子一人いなかった。


「どうやらあの艦は『スチュワート』という名だそうです。機関が故障して航行は殆ど不可能ですが、損傷は軽微で特に浸水もしていませんからある程度の距離の曳航にも十分耐えられるでしょう」

「そうか、わかった。それじゃあ、小沢さんに曳航してもらうよう頼んでみるか」


 その後、誠一は「身延」に移動し小沢中将に「スチュワート」の件を相談。その結果、被害が大きかった第二十四戦隊及び第八水雷戦隊の戦線離脱のついでに「幌別」がメジュロまで曳航することとなった。


「…まさか、よりによって史実と同じ『スチュワート』だったとはなあ」

「奇遇…と言うには出来すぎている感じもしますけど、撃沈せずに済んでよかったです」


 ここは「筑前」艦内の筑前の部屋である。あの後曳航されてゆく「スチュワート」を見送った誠一は、傷ついた筑前の様子を見に行ったのだった。


「筑前、傷はまだ痛むか?」

「いえ、今はもう大分楽になりました。…ところで、あの艦の艦魂には会わなくて良かったのですか?」

「まだ鹵獲されてすぐだから、気持ちの整理がついていないだろう。それに、いきなり僕みたいな特殊な経歴を持つ人間が行ったんじゃあ、余計驚かれると思ったからね」

「…あ、もうこんな時間ですか。私が『潜龍』まで送りましょうか?」

「有り難う。出来れば怪我をしている筑前に迷惑はかけたくないけど、そうしないと戻れないからね」

「了解です」


 米艦隊へと針路を一時変更した日本艦隊は、翌朝各空母から戦闘機十二機、攻撃機(爆装と雷装が半々)の攻撃隊を出撃させ、米艦隊に追い討ちをかけんとした。


 六月二十七日、午前八時。


 「潜龍」以下十一隻の空母から、三百九十六機の航空機がカタパルトを使って矢継ぎ早に発艦してゆく。ジョンストン島沖で米艦隊を攻撃した時より数は少ないが、それでも史実の坊ノ岬沖海戦で「大和」以下合計十隻の艦隊に差し向けられた攻撃隊(三百八十六機)を上回っていた。しかも爆撃機と攻撃機の合計は前者が二百六十四機に対し後者が二百六機(爆撃機七十五機、攻撃機百三十一機)だから、既に開戦時から戦力が半分以下となっている米太平洋艦隊にはオーバーキルな感じもあった。


 第一航空艦隊の旗艦である「潜龍」の防空指揮所で、潜龍がいつものように歌を口ずさんでいた。


「いざ来いニミッツ、マッカーサー~…っと、マッカーサーはもう捕虜になったんだっけか」

「潜龍、それを聴くとこっちの航空隊が返り討ちにあいそうで怖いよ」

「さすが宮沢大将、何の曲かこれだけでわかりましたか」

「そりゃ、僕が教えたんだからね。『比島決戦の歌』だろ?」

「ご名答です」

「それ、大川内中将の前では歌わない方がいいぞ…」

「…さすがにそこまで馬鹿ではありませんって」

「…ならいいけど」


 午前十時、攻撃隊は米艦隊の上空に到達。CXAM(米海軍が使用していた対空レーダー)によって九十キロメートルの距離から攻撃隊を捉えた「エンタープライズ」から出撃した十二機のF4Fを一蹴し、手負いの駆逐艦へと狙いを定めた。


 攻撃隊は、未だVT信管などといった有効な対空兵器を殆ど有しない米艦隊に向け四方八方から攻撃を行った。米艦隊はこれに対処しきれず、特に旧式な平甲板型駆逐艦は次々と葬り去られていった。


 また、被害は駆逐艦だけには留まらなかった。一部の搭乗員は独断で二隻の戦艦や「エンタープライズ」、ウィチタ以下の巡洋艦部隊へと攻撃を開始。二隻の戦艦や巡洋艦数隻に爆弾と魚雷をあわせて二十発以上の命中弾を与えたものの撃沈できた艦は無し。また「エンタープライズ」には二十機以上の攻撃機が攻撃を試みたにも拘らず、またもやたった一発の命中弾を与えるのがやっとだった。


 結局、この戦闘においてアメリカ太平洋艦隊はさらに多くの駆逐艦を喪失。生き残った艦も無傷の艦は巡洋艦以上にはほぼ皆無であり、比較的損傷の軽かった「エンタープライズ」も出撃した十二機の戦闘機のうち十機を失う大損害を被った。この戦闘におけるアメリカ側の戦没艦は以下の通り。


駆逐艦

バートン、ビーティ(ブリストル級)

マクラナハン、エドワーズ、バンクロフト、オーリック、チューナー(平甲板型)


 アメリカ太平洋艦隊に少なからぬ被害を与えた第一及び第二航空艦隊は翌日からミッドウェー諸島への爆撃を開始。これに対し敗北を覚悟したミッドウェー守備隊は何とかして一矢報いようと保有する全航空機による第一及び第二航空艦隊への攻撃を行った。なおこの攻撃隊の編成はP-40とB-25がそれぞれ十八機である。


「北方より敵編隊、距離十万、数は戦爆連合計四十!」

「直掩機を全空母から六機ずつでいいから出撃させろ!」

「了解!」


 山口中将らの指示で十一隻の空母から出撃した直掩機は計六十六機。来襲した攻撃隊の二倍近い数であり、加えて相手の護衛機が旧式化しつつあるP-40ということもあって戦闘は日本側優位に進み、攻撃隊は航空艦隊の上空に到達するまでに過半数が失われた。


 しかし、なおも攻撃隊は攻撃を続行。そのため、第一航空艦隊及び第二航空艦隊の各艦は高角砲や機銃による対空戦闘を開始。さらに多くの機体が撃墜の憂き目に会ったが、誠一はその最中に一機のB-25が火を噴きながら駆逐艦「逆波」に向かっているのが見えた。


「おい潜龍、あの機体はまさか…」


 誠一がそこまで言ったところで、「まずい!」と叫んだ潜龍がP-40に向け軍刀を振り翳す。その瞬間「潜龍」の対空砲火によってB-25の左翼が吹き飛ばされ、無事撃墜出来たかに見えた。


 だが、なおもそのB-25は「逆波」目掛けて突撃し、そして──


 ズズウウゥゥ…ン


 「逆波」の艦橋に体当たりし、周囲に火災を発生させるB-25。「逆波」で発生した火災は見る見るうちに拡大し、間もなく艦の前半をすっぽりと覆った。もはや、鎮火がほぼ不可能であることは誰の目にも明らかであった。


「そんな…」

「まさか、被弾したとはいえ本当に体当たりを仕掛けてくるとはな…」


 突然の出来事に潜龍は唖然とし、誠一は苦々しげな表情を浮かべながら思わず頭を手で押さえた。二人とも、敵機が体当たりするのを見るのが初めてだったからである。


 三十分後に攻撃隊を撃退した第一航空艦隊の各艦は、それまでにさらに爆弾二発を被弾し総員退艦が発令された「逆波」乗組員の救助にあたることにした。とはいえさすがに艦を横付けするのは危険なため、付近の海面に漂流している人間を内火艇やカッターで救助するという形をとった。


 幸い乗組員の救助は順調に進み、八割以上の乗組員が助かった。その後「逆波」は撃沈処分となってしまったが、乗組員の大半を助けることが出来たのは不幸中の幸いであろう。もしB-25が艦橋ではなく魚雷発射管の近くに体当たりをしていたら、最悪の場合轟沈して乗組員の大半が戦死する恐れもあったからである。この戦闘における両軍の損害は以下の通り。


日本軍

大破後撃沈処分

駆逐艦「逆波」


アメリカ軍

撃墜

P-40十二機、B-25十六機


 これによりミッドウェー諸島攻略には若干の遅れが生じたものの、同時にミッドウェー諸島の航空隊も壊滅。翌日からの爆撃に、全く有効な迎撃手段をとることが出来なくなった。


 ミッドウェー基地航空隊を返り討ちにした翌日の二十八日より、第二艦隊以下の五個艦隊は艦砲射撃や空母艦載機によるミッドウェーにある米軍基地への攻撃を開始。航空隊などによる支援を受けられなくなったミッドウェーの基地は数日で壊滅し、七月一日には日本軍一個連隊(二八八〇名)の上陸を許した。


 そして、三日に守備隊が降伏。これによってハワイを守る最後の要衝であるミッドウェー諸島も陥落し、残るアメリカ太平洋艦隊の太平洋上の基地はいよいよハワイのみとなった。


 ミッドウェー占領に成功した五個艦隊はその後、空母艦載機の一部をミッドウェーの防衛戦力として陸揚げした上でメジュロへと出発。ミッドウェー諸島沖海戦後に撤退した第二十六戦隊以下の艦艇に続いて十日にメジュロへと到着した。なお、第二十六戦隊以下の艦艇は四日にメジュロへと帰還している。


「…はあ」 


 誠一が、「秋津洲」にある自分の部屋でため息をつく。


 メジュロへの到着後、誠一は鹵獲した「スチュワート」の処遇をどうしようか悩んでいた。あの時は後先を考えずに鹵獲を命じてしまったが、如何せん戦闘艦艇を鹵獲するということがこの戦争が始まって以来初めてのことである。


 というのもアメリカは中国に砲艦を数隻派遣していたが開戦後にこれを鹵獲したのは中国軍であったし、フィリピンやグアム及びウェーク等にいた戦闘艦艇は全て自沈ないしは撃沈や抑留の運命を辿っていたのだ。


 また、誠一は「スチュワート」の艦魂に自分が会ってもいいものか否かということでも悩んでいた。これまでスチュワートに会った艦魂たちの話では大人しい印象であるとの事だったが、本来アメリカが勝っていたこの戦争の結果を変えようとしている自分に会っても冷静でいてくれるという保証は無い。


 結局その後誠一は暫くの間スチュワートに会うことは無く、この時は渡された「スチュワート」の図面を基に改装案を提出したに留まった。改装後の「スチュワート」改め「初霰」の要目は以下の通り。


船体の寸法には変更なし

機関 タービン二基二軸、二四〇〇〇馬力

(竣工時は二五〇〇〇から二七〇〇〇馬力)

速力 三五ノット

(竣工時は三七ノット)

航続距離 一八ノットで三六〇〇海里

(機関を小型化して生まれた空所に燃料タンクを設置したため、航続距離が延伸)

乗員 一八〇名

(電探や対空兵装などの装備により増加)


兵装

 五十口径十二・七糎単装両用砲 四基四門

(『秋風』型の主砲を単装にしたもの。四インチ砲を装備してあった場所に装備)

 五三・三糎三連装魚雷発射管 一基三門

(竣工時に三番及び四番魚雷発射管があった場所の中間に装備。両舷に発射可能)

 四十粍四連装機関砲 二基二門

(竣工時に一番及び二番魚雷発射管があった場所に一基ずつ装備)

 二十粍単装機銃 八基八門

(艦橋の前に四門、四番主砲の両脇に片舷二基ずつ装備)

 爆雷投下軌条 二基

(艦尾に装備)


 駆逐艦には類別されたが同型艦の無い「初霰」は連合艦隊に編入されることは無く、海上護衛総隊の附属艦としてメジュロの防衛にあたることとなった。


 そして八月二十三日、「初霰」の改装が完了。これを受け艦魂たちの中で初霰の歓迎会を行ってはどうかという声が出たため、急遽「秋津洲」の会議室で行うことが決定。最初は悩んだ誠一も最終的には参加することにした。


 八月二十四日夜、戦艦「秋津洲」予備会議室。


 この日仕事を終えた誠一は、会議室の扉の前で入ろうかどうかまだ悩んでいた。部屋の中から聞こえる声の様子から、既に歓迎会は始まっているのだろう。


「果たして、本当に入ってもいいものか…」

「おお、誠一さんじゃないか。あんたも初霰の歓迎会に来たんですか?」

「安房か。…いや、僕みたいな特殊な経歴の人間に出会ったら初霰の艦魂がどういう反応をするかが気になってね」

「なら心配いらないんじゃないですか?もうあいつも誠一さんのことは知ってますし」


 安房が何気なく言った一言に対し、誠一が驚きの表情を見せる。


「それは本当か?」

「ああ。…というか、私が教えたんですけどね」

「…で、初霰は何て言ってた?」

「さすがに最初は驚いてたが、歴史を変えたからといって誠一さんを恨んだりするようなそぶりは見せませんでしたよ」

「…そうか。なら、一安心だな」

「ま、こんな所で立ち話するのもなんです。入った入った」

「ああ」


 誠一は、意を決して会議室の扉を開けた。

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