07-魔法少年の登校日
早朝、朝日がすでに昇っています。食卓にゆーき少年とおかーさんが付いていて朝食中。メニューはハムエッグにポテトサラダ(昨日の夕食の残り)牛乳に、マーガリンを塗ったトースト、玉ねぎやキャベツを具材にしたコンソメスープ。
「とりあえず数日確認したけど、外出しても問題ないと思うのよ」おかーさんは、濃いめに入れたコーヒーを飲みつつ言います。
「大丈夫かな?」ゆーきくんは少し不安そうですね。
「たぶん?最悪でも人死には出ないと思うよ、そのあたりは無意識にリミッタがかかっているみたいだし、ちょっと高出力の才能を暴走させなければ、目立つこともないかな?と。かえって”変身”した方が、認識がぶれるから、暴走しそうになったら、迷わず、”魔法少女”に変身した方がいいかもしれないかな?後でもみつぶす時にいくらか有利になると思うし?」いや、”もみつぶす”という前提がおかしいですよ、おかーさん。
「……もみつぶせるの?」
「うん、たぶん?きっと……ちょっとは覚悟しておけ?」
「いやだー、外でたくなーい」
「はっはっは、そんな引きこもりみたいな台詞は吐かないでね、羨ましくなるから」軽やかに笑いながら、おかーさん。いい笑顔ですね。
「まあ、心配しなくて大丈夫。色々フォローはしておくからね」ウインク一つです。うん一児の母とは思えない可愛さですね。
「本当かなぁ、ああ、でもおかーさん、期待を裏切ったことは、良い意味でしか、ありませんでしたね」ちょっと安心するゆーき少年でありました。
「じゃ、元気に登校日だっけ?学校へ行ってらっしゃいね」
「はーい」モグモグ、シャクシャクと食べつつ、返事をするゆーき少年でありました。
「あ、パンくずついてる」ペロリと舐めとるいつものおかーさんです。
あまり恥ずかしそうでないのは、いつものスキンシップだからでしょうか……ああ、それとも語られていない行間に、この数日の間に、何かあったのでしょうか。
「「いやないから」」
さいですか。
嫌味なくらいに晴天、毎年の異常気象というアナウンスのため、すでに異常が日常となっている気象条件、で、日差しが、気まぐれに暑くなったり、冷たくなったりする、例年の夏。今日は猛暑一歩手前の日差しです。
ゆーき少年は通常の体力も常人離れしてしまったので、夏の日差しにも全然負けなくて、てくてくぽくぽくと徒歩通学中です。中途半端に区画整理された道、唐突に現れる鋭角、角地の神社の敷地、それを囲むように伸びる合流地点で、一人の少年を見つける、ゆーき少年です。
身長はゆーき少年より高め、短めの髪の中、ひとフサだけ、意図的に伸ばして、編み込みして明るい茶色で染めています。タンクトップと半ズボンからのびる肢体は、綺麗に黒く日に焼けていて、肉付もしっかりと、健康的です。綺麗なヒップラインからのびる長い足が得にキュートで、キュッと絞ったソックスを履いていない足首など色気を感じさせるくらいです。顔立ちは結構はっきりしていて、彫りが深く、基本モンゴロイドであるけれど、どこかアフリカーナな気配を感じさせています。そのニコニコとした笑みがデフォルトで、人懐っこく、いたずら好きですよ僕は、といったよく動くちょっと茶色みがかかった目の持ち主です。
ゆーき少年が白すぎるくらい白い肌、華奢な四肢の持ち主ですので、この子は、ちょうど対比して、健康的な美少年的な立ち位置で登場します。立ち位置?誰に説明しているのでしょうね私?
「ハイ、ユーキ。おはようね」そのまま大きな子猫のように、勢いでぴょんと抱きつく健康的な美少年さんです。
「うん、お早よ、リカルド。でもいきなり抱きつくのはやめようね、暑いし」ちょっと、そっけなくでも笑顔で応えるゆーき少年です。
「うーん、ツレないね!ツンだねいつデレる?」クスクス笑いつつ、正面に回っておでこをくっつけてしゃべるリカルド少年です、彼のほうが背が高いのでちょっと、覗き込むようにですね。
「誰だい、変な日本語教えたの?」
「ゆーきママだよ?後、クラスの、えーと。女の子たち?」クンクンと首筋にくちびるを近づけて、匂いを嗅ぐリカルドくんです。触れてはいませんよ?
「毎回思うんだけど、なんで嗅ぐの?」あまり嫌そうではなく好きにさせているゆーき少年です。
「……おちつくんだよねぇ、ゆーきの匂い」
「そう、まあ、いいけどリカルドだから」
その少年達の痴態(?)を周囲の、通勤途中のオネーさんとか、同年代のローティーンの学生とか、年下の女の子たちが、がっつり見たり、さりげなく、それでもちゃっかりと見たりして、悶えています。今更だけどもこの国大丈夫なのでしょうかね?
朝からの爽やかな、ジャンルの違う美少年同士の絡み、それに萌える。うん自然なことなので、全く問題ありませんね、その中に、女性だけでなく男性も顔を赤らめて、注視していても、まあ、予想の範囲内と言えるところに、この国の業の深さを感じるわけです。古来から可愛いは正義ともいうので、仕方ないですね。正義ですから、ジャステスなわけですから。
「そんなわけないでしょ」スパコンといういい音がするくらいの張り手を、大きくジャンプして高い位置にあるリカルドの後頭部に決めたのは、ちょっと小さめの身長で、茶色の長い髪をポニーテールにまとめて、今は飛び上がった拍子に大きく振れている女の子です。ちょっときつい目つきですが、その手の趣味の方々には、その目で、下げずんだ視線をいただけるとそれだけでご褒美となるようなそんな感じのそれです(どれです?)。ちょっとふっくらちんまりとした体型と、キュッと結ばれた意志の強そうな口元、可愛らしいほおのラインやら、全体的にリスを思い浮かべるような幼女……違った少女です。
「いたいよー、ナッチャンさん」ちょっと涙目のリカルド少年です。
「なつみよ、なつみ!なんでちゃんの上にさんなのよ!それより早く離れなさいよ!」
後頭部を強打されたリカルドは、力学上仕方なく、ゆーき少年に抱きついているわけです。ええ、自然現象だから仕方ありませんよね、ちょっとゆーき少年が体制を崩して、倒れそうになったいたのを支えるようにして、手が、いろいろ背中とかお尻とかに回されていて、中途半端に手がかかって、服が少しはだけて、ゆーき少年の白い肌、や華奢な鎖骨がちらりを覗いているとこなんて、何てもうけしからん、と思うのは、自身の心にやましいとろこがあるからでしょうか?ちょっと苦しそうにして悶えて、ゆーき少年のほおが赤くなっっていて、こうちょっと嗜虐心をそそる表情になっているのがなんとも。
あ、なんか、いろいろ周囲の人たちの反応がおかしくなってきたような?おそらく、高学年のおねーさんですかね、ええと、制服で、道路にうずくまって、だんだんと地面を叩いているのは、ちょっと怖いですよ?
ふらふらと、近づいていこうとしている青年を止めようとしている、友人さん、がんばれ!君のその努力が、健全な青少年の未来を保証していくのかもしれない!
色即是空空即是色、シキソクゼクウクウソクゼシキ。
……落ち着きました。
「おはよう、なつみちゃん」ちょっと奥襟を整えて、ほつれたサラサラ髪を整えながら、すうっという感じの笑み、そう、無邪気な微笑みと共に挨拶をするゆーき少年です。
「お、おはよう。ねえ、あのね、あれ、どうしたのゆーきくん、いつも以上に破壊力があるよ?」ちっこい顔を赤らめながら、なつみさんは尋ねます。
「そーだヨ、なんだかゲーシャさんみたい?セクシーだよゆーき!」サムズアップして明るく宣言するリカルド少年です。
「褒められた?」ちょっと笑いながら、小首を傾げるゆーき少年です。
「嬉しいの?いや確かにいつも以上に綺麗だけどもさ!」盛大に突っ込むなつみちゃんです。
「オウ!これはやはりナツはキャラクターをクラスアップさせるとゆー、格言ですネ!あれですね、ひとつのサマーがラインをオーバーランさせましたね!」
「えっと?」
「……一線を越えたといいたのかしら?」冷たい目をリカルドに向ける、リスのような、なつみ少女です。
これは、何というか、かわいいのではなく、獲物を鋭い前歯で狙う、リス。こう首を掻き切るようなそんな感じで。リスってそんな物騒な生き物でしたっけ?
「そうデス!やっぱり、ラブパートナーは、ゆーきママですか?!」
「この黙れ、自動猥褻言語拡散人間大砲!」左足を軸に右足で地面を降りけり、空中に勢いをつけて飛翔、天頂から、まっすく重力に引かれるように軸を作り、それを中心にスピン、回転をつけつつ、しかし右足はあくまで直線的な軌道を描き、横腹を狙って、振り抜きます。小柄な少女とは思えない重い一撃が吸い込まれるように黒い美少年へと叩き込まれていきます。
「人間って、こっちでも、並行に飛んでいくこともあるんだね」
真横に吹っ飛ばされるリカルドを見ながら、ちょっと呆れたようにつぶやくゆーき少年ですが、自ら飛んでダメージを最小限に抑えた、黒いスポーツ少年の大げさな悲鳴がそれに被さり、周囲には聞こえませんでした。
「ひどいよ、ナッチャンサン!それにだいたい、みんなゆーきママとゆーきはお似合いだと言っていたよ、クラスの男女問わずに、雰囲気いいから、いつか”アサチュン”するならこの親娘(?)だって!」
「いいから黙ろうねリカルド。できれば、その口から二酸化炭素も酸素も出し入れするな」
「息できないヨ!」
「むしろ!私が!この手で!止めてやる!それが!世界が!平和に近づく!唯一の方法!」
「デンンジャーで、バイオレンスだよ!」息もつかせない連撃をひょいひょいとかわしたり、受け止めたりするリカルド少年です。ちなみに”!”のところでなっちゃんさんの一撃が放たれています。
「えーと”アサチュン”って?」気になることを尋ねる、空気を読まないゆーき少年です。
「同じベットで朝を迎えることだヨ〜、一緒に、横になて、ちょっと触れ合って、暗転して(いろいろお楽しみをして)、チュンって言っているのは、鳥の鳴き声で、それは朝を表すネ!」器用に攻撃を捌きながら、律儀に答えるリカルド少年です。
「ええと?それくらいならいつもしているから、特別それが理由じゃないし、リカルドが、変なことを言ってることもないから、なつみちゃんもそう怒らなくてもいいんじゃないかな?」ピタリと黒い少年とリス少女の攻防が止まります。ええ、凍ったようにね、そうなんだよ、スティーブ(誰?)。
「ソーリー、確認するネゆーき。ゆーは、ゆーきママと一緒に?」リカルド、ゆーき少年に正対して、指を立てて確認を始めます。
「一緒に」ゆーき少年。
「ベットに入って」リカルド。
「ベットに入って」ゆーきくん。
「暗転して(色々お楽しみをして)」リカルド、()内は言葉にしない。
「暗転して(すぐに意識を手放して熟睡して)」ゆーきくんも()内は同じく。
「朝、小鳥の鳴き声で目をさまス?」両手の人差し指でゆーきしょうねんを指し示しすリカルド少年です。
「小鳥じゃなくて、おはようのキス(頰とか額に)で?」特に照れもせずに。無邪気な笑みで、しかしなんだか、色気がある笑みに見えるのは邪推するからでしょうね。
「わお!なんだ、ゆーき、大人じゃないカ、色々遠慮して損したかモ」ちょっと肉食獣的な目つきになるリカルド少年ですが、いや、ダメですよ。色々と倫理的に。
「?」疑問符で顔が埋まっていくゆーき少年です。
「ええと、だからね、なつみちゃん、リカルドが言っているのは、彼のいつもの冗談な上に、僕は何も気にしてないから、怒らなくてもいいよ?だいたい、そろそろ急がないと遅刻するし?て、あれ?」視線をなつみちゃんに向けると、きつめな彼女の目が何だか呆然と見開かれていて、ボロボロと涙が出ていました。
「どうしたの!どこか痛いの?」オロオロと慌てるゆーき少年です。
「何でもないの」震える声で。
あー、という表情で、天を仰ぐリカルド君。そのままひょいと、固まった子リスのような小さな少女を抱えて、ちょっとゆーきくんから離れます。で何やら、耳元で囁きます。
ゆーき少年から少し離れた場所で、ミネラルウォーターのボトル(地面に置いていた自分のカバンから取り出しました)を片手にリカルドが、なつみちゃんに囁きます。
「どうせゆーきのことだから、一緒に寝たって言ってもその言葉通りだと思うヨ、小さな子が親に添い寝をしてもらっている感覚だヨ(多分残念なことに)」ぼそぼそ。
「で、でも、キスとか」ちょっとしゃくりあげながら。こりすちゃん。
「親愛の情を示すくらいのことだヨきっト、ボクのとこでも軽くなら毎朝してるシ、そういうカテゴリだよ(多分、おそらく)」
「だってだって、あの家、ちょっと親子中が、怪しいくらいよすぎるのだもの」不安そうに見上げる小さな女の子です。
「そこはボクも思うヨ、だからこそ、だヨ。今更過激なスキンシップ程度じゃ、おどろかないヨ。だいたいあのゆーきママさん、ゆーきパパさんにベタ惚れなんだから、そういう対象でゆーきくんには接しないヨ、ウワキになってしまうもノ(いや割り切ったらわからないだろうけド、まあゆーきくんの今の反応だとナイネ)」
「本当?」
「まあネ。ゆーきくんのことはよーくわかるしね、ラブゆえニ」ニヤリと笑うリカルドくんです。
「うう、ヘンタイ」ちょっとにらみつけるなっちゃんさんです。
「ありがとうございまス」ご褒美もらったリカルドくんです。羨ましい(ちょっと待て)。
少し、水ボトルのやり取りをして、二人がゆーき少年の近くに戻ってきます。
「ゴメンゴメン、二人でじゃれている時に、砂が目に入ったみたいだヨ」わざとらしくらいの笑顔でリカルドが戻ってきます。
「そうなのよ、いきなり泣いてびっくりさせてゴメンなさい」ぺこりと頭をさげるなっちゃんさんです。
「そーなのかー。確かにちょっと埃っぽいものね?」ちょっと頰を赤らめているゆーき少年です、その雰囲気に、なんだかやはり色気出てきているなと思う、リカルドくんとなつみちゃんです。
「それでね、ええと、あのね」続けて、ゆーきくんが口を開きます。
「「何?」」
「そろそろ遅刻しそうだから急ごう、よ」あ、この”よ”なんかいい発音ですね。(何を言ってる私、落ち着くんですよ)。
ああ!、という表情をして、リカルドくんとなつみちゃんは、軽めの荷物(通学カバン)を拾い上げ背負ったりしました。
そして、ちょっと、早歩きになりながら、暑い通学路を進むなんだかやっぱり仲良しっぽく見えるその実ちょっと色々、人間関係に、駆け引きが見えかくれする、三人でありました。
『それにしても、あの距離くらいだと、内証話筒抜けなんだよね。やっぱりちょっとスキンシップが子供っぽいのかなぁ……もっと大人にならないといけないね、けど”そういう対象”てどうゆう対象なんだろうかな???』ゆーき少年、ニコニコと笑いながら、内心反省+疑問点の整理中です。
もっとも、的確に進んでいくと、一足跳びに”大人”になりそうな気がするので、ゆーき少年はこのまま、まったりしていただいた方が、安全度が高いのではないかな、という気がいたします。
***
あれ、学校にたどり着きませんでしたよ。
ふふふ、安定の展開速度です。
謝りませんよ、予想の範囲内ですから(それもどうなんだろう?)。
次回は、登校日(教室到着編)です。
ちゃんと教室にたどり着けるといいですね(他人事!?)。
それでは次回に続きます。