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私には妻がいる。すごく聡明で美人だ。
ただ一つ、妻の性格に気になるところはあった。
それは『されたことは同じことでお返ししないと気が済まない』というところである。
お中元は暑中見舞いなどを相手が送ってきたことがある。
「あら、三丁目の〇〇さんからお中元。貰いっぱなしはだめだわ。こちらも何か送らないと」
これはこれで良いのだ。いや、普通な発想だ。
しかしこれが『贈り物』じゃなかった場合だ。
俺が隣に住む子供にからかわれて蹴られたときのことだ。
「え、何ですって!? お隣の□□さんのお子さんから蹴られたですって!? 待ってなさい」
そう言って妻は家から飛び出した。それからすぐ隣のインターホンの音が聞こえ、数秒後バンッ!と大きな音がした。
妻はすぐ帰ってきたが、その後すぐうちにインターホンの嵐が来て、廊下中に子供の泣き喚く声が響いた。
それに腹を立てた妻がまた隣に行って、今度は気が済むまでインターホンを押してきた。
『やられたらやり返す』。これが妻のモットーとも言えるだろう。おかげで近隣住民との関係は最悪である。
そんな妻とも結婚してから三年が過ぎた。
最近、妻の一つ一つの行動にイライラすることが増えてしまった。所謂倦怠期なのだろう。妻から何か言われてもそっぽを向いて返事をした。
「ねぇ、何で最近塩対応するん?」
しかし俺は適当に答えた。
そして俺が塩対応して一週間が経ったある日のことだ。いつものように妻が晩御飯を作ってくれた。
「今日はね、少し味付けを変えてみたんだ」
楽しそうに話す妻を俺は適当に返事をして流した。
そしてご飯を一口、口に運んだ。
「しょ、しょっぱ!!」
あまりのしょっぱさに俺は椅子から転げ落ちた。そんな俺を妻は笑顔で見つめている。
「あなたが悪いのよ、私に塩対応するから。だから私もあなたに塩対応するの。食べ残しは許さないから」
その笑顔に私は狂気を感じた。