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ゴミになった男の話。
彼はよく何かにハマっていた。
幼稚園に入りたての頃はヒーロー。小学生の時は野球。中学生の時はカードゲーム。高校生の時には異性。
のめり込んでは時間をそれに費やした。
そして今、彼はあるものにハマった。いや、『挟まった』という方が適切なのかもしれない。
ゴミ箱だ。
学校の教室などによく置いてある青いあれだ。
なぜゴミ箱にハマったのか、その経緯なのだが、誰もが聞いても呆れる理由だろう。
単にゴミ箱にハマったのだ。正確に言うのであれば、ゴミ箱にハマることにハマったのだ。そのためにわざわざ夜の小学校に忍び込んだのだ。
夜の学校には――いや、どこもそうだ。不法侵入は罪になる。彼はもう二〇歳を超えた大人だ。警備員に見つかればただでは済まない。
しかし当の本人はそんなことなど気にせずにゴミ箱にハマっているこの状況を愉しんでいる。気持ちの悪い吐息をハァハァさせている。
そんな至極の時も長くは続かない。
彼が警備員に見つかるまで、およそ三〇秒。彼はそれまで何を考えていて、その後何を思ったのか。私たちには分からない。
ただ一つ、彼はゴミ箱にハマった男――否、『(社会の)ゴミになった男』であることだけは分かる。