返信
札幌の冬は予想していた以上に厳しかった。
東京の友人はホワイトクリスマスなんていいじゃん、なんて暢気なことを言っていたが彼女もいないのにクリスマスなんて関係あるか。
そして北海道のクリスマスはホワイトクリスマスじゃない、ホワイトアウトクリスマスだ。下手したら街中ですら遭難する勢いだ。
歩道は凸凹のスケートリンクのようだし、滑ったと思ったら防ぐ余地もなくあっという間に転んでしまう。北海道の民は転ばない特殊技能でも持って生まれたんじゃないかと思うくらいさっさと歩いていくのに、俺はおっかなびっくり歩いて挙句転ぶ。
しかしさすがに長い北海道の冬が終わりに差し掛かる頃にはそれなりに転ばず歩けるようになった。
4月になってもまだ雪が残っていて桜も咲いていないことにも驚いた。こちらではゴールデンウィークの頃に花見をしながらジンギスカンを楽しむのだと会社の先輩から聞いた。
去年の初夏、北海道へ転職して引っ越してきてからもうすぐ一年になる。
こちらにきてから始めたカメラはなかなか楽しくて、写真を掲載する為に立ち上げたサイト経由で嬉しいメールをもらうことも時々あり、それがまた励みになる。
しかし最近PCの調子が悪く、デフラグやら何やらを試しても改善がない為に結局初期化をする羽目になり、バックアップからデータを戻す作業で手間取り一週間ほどメールがチェック出来ずにいた。
金曜日、運良く定時で上がれた為急いで帰宅し作業を済ませるとやはりメールがそこそこ貯まっていた。
その中にはサイトを見てメールをくれた人もいる。
「はじめまして。たまたま真田さんのサイトを拝見したのですが、あまりにも被写体が生き生きと鮮やかで時間を忘れて見入ってしまいました。素敵な時間をありがとうございます。サイトの更新を楽しみにしています」
思わず声に出して読み上げる。
「中嶋萌香さん、か」
受信日時を確認すると一週間ほど前だった。一週間も放置されていたら、向こうももう返信があるなどとは思っていないだろうが、こんな嬉しいメールを貰ったのだからどうしてもお礼がしたい。
取り急ぎ、返信が遅くなって申し訳ないと思っていること、感想を貰えて嬉しかったこと、差し支えなければ被写体になってほしいことなどを綴り祈るような気持ちで送信する。
さすがに返信はないだろうから期待はしていないが、どうしても感謝の気持ちは伝えたかった。
自炊するという高度なスキルを持っていない為、自然と食事はコンビニ弁当やスーパーの惣菜などに頼ることになる。今日はコンビニの幕の内弁当だ。
適当にテレビをザッピングしながら弁当を掻き込み、食べ終えると弁当殻をゴミ箱に捨てる。
シャワーを浴びてさっぱりしたところでビールを開ける。缶のまま一口呑むとメールが着ていたことに気づいた。
何気なくチェックすると中嶋萌香からの返信だった。
「嘘」
期待していなかっただけに喜びも大きかった。
「モデル、やってくれるんだ」
もちろん、彼女が何歳くらいでどんな外見なのかはわからないが、俺はとにかく被写体になってくれた人が心を開いて笑顔を見せてくれる瞬間がたまらなく好きだ。だからこれを逃す手はない。
それに彼女のこれまでのメールの文面からは落ち着いた品の良さを感じる。
早速自分の休みが土日なので、休みが合うようであれば都合の良い日を教えてほしい旨メールを送信する。
反応は早かった。明日。こんなにタイミングが合うなら絶対逃しちゃいけない。
またすぐに明日の何時に何処での待合せが良いか確認のメールを送る。
しかし今度はなかなか返信がこない。
「ちょっと引かれちゃったかな」
思わず呟いてまたビールを呑む。
30分ほど経ってから返信がきて、思わずPCにかぶりつく。
明日の13時、大通公園一丁目の一番テレビ塔寄りで塔に対して正面に向いたベンチ。ほっとした。
すぐに了解した旨返信する。
カメラの準備をしてベッドに入る。
いい笑顔が撮れるといいな。
思い切り伸びをして欠伸をするとあっという間に朝だった。
「さて、行くか」
どんな人なんだろう。すごくわくわくする。
逸る気持ちを抑えながら、俺はいつも通り一眼レフを首から下げてマンションを出た。
拙作をお読みくださりありがとうございます。
この作品は先に書き始めた『インセイン』と連動させて書いているので、そちらと併せてお読み頂ければと思います。
感想や評価など積極的に頂ければ幸いです。
よろしくお願いいたします。




