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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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賭金

 33


「やっぱり賭け金は0だったじゃんよ」

 僕がジネーゼに会いに行こうとした矢先、ジネーゼ本人が僕のもとへやってきて囁いた。どうやら僕たちの試合中にこそっとみてきてくれたらしい。

「ま、出来レースだって知ってる人間がほとんどみたいだからね」

 僕が周りに聞こえないように呟く。

 シュキアはさっさとどこかへ行ったので聞かれる心配もない。

 もっともシュキアがどこに行ったのかはエリマさんの話から既に分かっているので放っておいても問題はない。

「で、どうするじゃん? 用があったから引き止めたってわけじゃん?」

「まあその通りだよ」

 アリーとコジロウとは既に別れて行動している。ジネーゼに会いに行く際どう説明しようかと迷っていたが手間が省けた。

「とりあえず【念波(テレパス)】で繋いで欲しい人がいるんだ」

「誰じゃん?」

「アビルアさん。原点回帰の島の、アビルアさんだよ」

 おそらく代理を立てるうえで一番信用できるのはこの人だった。

 ランク0で落ち込む僕を励まし、部屋まで貸してくれた。さらに言えば島で行なわれていた賭博で唯一僕に賭けてくれた。僕を信じてくれていた。

 アルやリアンに頼むことも考えたけれど、ユグドラ・シィルの復興もある。手を煩わせることはできない。

「だったら【念波(テレパス)】よりも【念談話(コミュニティ)】じゃん」

「なんで?」

「ま、巻き込んでそれはないじゃんよ」

「いや、それはキミが勝手に……まあいいや。じゃあ【念談話(コミュニティ)】でお願い」

「分かったじゃん」

 僕とジネーゼは半透明の緑色の壁に包まれる。どうやらこれで話ができるらしい。

『……誰だい?』

 突然の接続に怪しみながら問いかけるアビルアさんの懐かしい声が脳裏に響く。

『じゃんよ!』

 出だしがそれだった。

『ああ、ジネーゼかい』

 しかも分かった。

『なんだい? またホームシックってやつかい?』

『違うじゃん。しかもまたってどういうことじゃん!』

『なにを焦っているんだい? いつもこうして話かけてくるだろうに!』

『そ、そそ、それは今はいいんじゃん! 関係ないじゃん! そ、それよりもアビルアさんに頼みごとがあるってやつがいるじゃん』

『頼みごと?』

『お久しぶりです。アビルアさん』

 ようやく僕が会話に参加する。

『おお、久しぶりだね! あんたの活躍はいろいろと聞いてるよ。リンゼットからもね、あいつはあんたの自慢ばかりで嫌になるよ。おおっとあいつが嫌になるだけであんたは違うよ。そうそうあんたの賭け金使って宿を増築したんだ』

 酒場のマスターをやっているから当然だけど、アビルアさんはおしゃべりが好きだ。

『あの……ですね』

 口を挟むのもどうかと思ったけれど、時間もない。

『おおっと、そうだったね。で何だい、用ってのは?』

『一発逆転の島の戦闘の技場(バトルコロシアム)の賭博って知ってます?』

『ああ、知っているよ。良くない噂も聞くけどね』

『その良くない噂ってのを潰すために、僕に協力して欲しいんです』

『あんたの頼みなら断る気はないが……危ないことかい?』

『いえ、代理を頼みたいだけです。僕のお金を、僕のチームへアビルアさん名義で賭けて欲しいんです』

『それだけでいいのかい?』

『ええ。ただひとつ加えるなら、タイミングが重要です』

『でもタイミングなんて分かりっこないだろう?』

『ジネーゼの【念談話(コミュニティ)】が通じたら振り込むってのでどうですか?』

『なるほど。いいアイデアだ。確かにジネーゼぐらいだからね、【念談話(コミュニティ)】を使って話しかけてくるのは』

『う、うっさいじゃん!』

『と言うことだけどジネーゼはいいかな?』

『手伝うってのはそういうことじゃんか。でもレシュリーはどうやってジブンに伝えるつもりじゃん?』

『いやタイミングはジネーゼ任せ。かなりシビアだけどさ、どういう状況の前に送るのか、あとでジネーゼに教えるから』

『分かったじゃん』

 そういうジネーゼは頼られたことが嬉しいのか、照れていた。

『アビルアさん、それじゃ僕の口座教えます』

『おいおい、軽率だね』

『アビルアさんは信用できますから』

『やれやれ……その素直さは裏切れないね。もっともあんたたちを裏切るような真似はしないけどね』

『ってジブンに聞こえてもいいじゃんか?』

『あ、それもそうかも』

 まあジネーゼも悪用しないと思うけれど、気遣ってくれるならそのほうがいい。

『だろうと思ったじゃん! でも安心するじゃんよ。ジブンがこの【念談話(コミュニティ)】を操っているから、遮断も何のそのじゃん』

 ジネーゼは自慢げに言う。ようは口座を言う時だけ、聞かないようにするってことだろう。

『じゃあ、それでよろしく』

『もっと驚いてもいいじゃんか……』

 僕の返事が淡泊すぎたのか、ジネーゼは少し残念そうだ。どう驚けばよかったんだろう?

『まあ、いいじゃん。じゃあ遮断するけど終わったら手をあげて欲しいじゃん』

『分かった。それじゃあアビルアさん、口座なんですけど……』

 僕は口座番号を伝え、右手をあげる。ジネーゼが頷く。おそらくこれで遮断は解けたのだろう。

『じゃとりあえず、この口座の金額を全部賭ければいいんだね?』

『ええ、かなりの額ですけど躊躇わずに入れてください』

『分かった』

『それじゃアビルアさん、【念談話(コミュニティ)】を切るじゃん』

『ああ、ジネーゼ。ひとつだけ』

『何じゃん?』

『レシュリーと合流できて良かったな』

『な、何を言ってるじゃん!』

 ジネーゼが無理に【念談話(コミュニティ)】を遮断した。

「あー、どいつもこいつも変なこと言いまくりじゃん。レシュリー、気にしちゃダメじゃん」

 顔を真っ赤にしながらジネーゼが忠告してきた。

「うん、気にしないよ」

 即答した。

「即答も……少し困るじゃん」

 じゃあどうしろっていうんだろう……。

「それよりもそのどういう状況で【念談話(コミュニティ)】を送るのか教えるじゃん!」

「改めて訊くけど、手伝うの嫌がらないんだね……?」

「ここまで来て今更すぎるじゃん。それに出来レースなんてぶっ潰したいに決まってるじゃん。だから仕方なく、手伝ってやってるんじゃんよ!」

「そっか。ありがとう」

「照れるからお礼はいいじゃん」

「じゃ、その状況について話をするんだけど……」

 ジネーゼにその状況とやらを説明する。かなり難しい仕事だがジネーゼにならできるはずだ。

「じゃあ僕は決勝が始まるし、もう行くよ。シビアだけどよろしく」

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