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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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祓魔


 31


「さてそれではご退場願うでござる」

 コジロウが迫るベリトに手の平を突き出す。そこに描かれた印を見て、ベリトの乗る馬が止まる。

「オオゥ! 厄介ナモノ持ッテイルネ。思ワズ、尿ヲニョニョ、ット漏ラシチャッタヨ。マア排泄器官ナンテ無駄ナモノ持ッテナインダケドサ」

 その印は【祓魔印(サルヴェイション)】と呼ばれる対悪魔用忍術技能だった。投球技能にも似たような【祓魔球(エクソシズマー)】というのがあるけれど、悪魔士が召喚した悪魔にしか通用しない限定的な技能のため覚えてはない。

「ディオレスが、覚えろと言ってきたでござるよ」

 おそらく僕が疑問を覚えていると察したコジロウが呟く。

「どうやらディオレスは魔物だけでなく冒険者とも万能に戦えるように育てたかったらしいでござるな。渋々覚えた【祓魔印(サルヴェイション)】でござったが、よもやここで役に立つとは、意外でござる」

 【祓魔印(サルヴェイション)】を刻んだ拳がベリトの乗る馬を殴る、たったそれだけでベリトの馬は消え去った。

「アハッ! 恍惚ダナア。マア、恍惚ッテ適当ニ言ッテミタダケデ、普通ニ痛イダケナンダケドサ」

 ベリトが調子の良い声でおどけるがコジロウは警戒を解かない。

「アハッ! 緊張シテル感ジダネ! デモ実ハ僕、馬ニ乗ッテルホウガ速インダヨッ!」

 至極当然のことを言いながら、馬よりも速い速度でコジロウの後ろに回りこんでいた。

「アハッハッ! 嘘ダッケド~」

 笑いながらコジロウに攻撃しようとしたベリトだが、コジロウが拳を近づけるだけで、

「ウワー、ソリャナイワ。卑怯ダネー。ダカラ悪魔士ニ召喚サレタクナインダヨ~。ダッテソンナ技能デ消エチャウシ。アー、面倒クサッ」

 やる気をなくしたベリト。コジロウが少し警戒を緩めた瞬間、

「マア、ソンナワケナイノダケドッ!」

 一瞬に近づきコジロウの顔に膝蹴りを食らわす。

「拙者としたことが……」

 油断したことを悔やむコジロウ。確実に言葉に惑わされていた。

 一方、

「雷ハ不要ダナ。不要、不要、不要!」

 そう言いつつフルフルは近づくアリーに雷を落とす。しかしアリーのいた位置に実直に落ちる雷はアリーが少し動くだけで外れる。

「うっさいのよっ!」

 フルフルに辿り着いたアリーが狩猟用刀剣(ハンティングブレイド)で斬りかかる。

「自身にニ雷ヲ流スコトハ不要」

 フルフルが呟くとフルフルの頭上に紫電が迸る。そのまま胴体を導体として雷がアリーへと伝う。

「ぐがっ……」

 痺れる身体を押さえ、

「んなことだろうと、思ったわよ」

 反対に握るレヴェンティをフルフルに押しつける。

「ウヌヌヌヌッ……」

 斬られた瞬間身体を逸らしたフルフルだが、左半身が消失していた。

 援護魔法階級3【魔祓(エゾルシスモ)】を宿したアリーのレヴェンティがフルフルを捉えていたのだ。

「稲妻ハ……不要」

 一撃を加えて後退したアリーへとフルフルが稲妻を放つ。先ほどの雷よりも範囲威力ともに強大だ。

「まずっ……」

 という声とともにアリーの姿が消え、稲妻は不発。

「大丈夫?」

 僕が放った【転移球(テレポーター)】なんとか間に合った。

「あんたこそ、もう一匹は?」

「シュキアには悪いけどなんとか頑張ってもらってる。それよりもルクスを探そう」

「あのクソ執事ね」

 アリーがマイカのように呟きさらに言葉を続ける。

「でもどこにいるのよ、あいつ」

「ひとつ、気づいたことがあるんだけど試していいかな?」

「何する気?」

「話が通じるんだから、悪魔にルクスを呼んでもらう」

 簡単にだけどそれを説明すると、

「よくもまあそんなことに気づけたわね」

 アリーはにやりと笑って感心していた。

「やってみなさい。たぶんうまく行くわ」

「悪魔ども!」

 それだけで三匹の悪魔が僕に振り向いた。

「ルクスはどこにいる?」

「主人カ? 主人ハ、左ニモ右ニモ下ニモ不在ダ」

 中央に立っているフルフルがそう答え、

「魔界デハ質問ニ答エナイ悪魔ハ死刑デアルッ! 人間モ質問ニ答エナイト舌を抜カレルノデアロウ? 主人ナラバ我ノ遠クニハ存在シナイ。トコロデ魔界デハ質問ヲ無視シテモ実ハ何モ起コラナイノダヨ!」

 アイニが続け様に答える。

「アハッ! 主人ノ場所ヲ教エナイノガ召喚サレタ悪魔ニアル沈黙ノ掟ミタイダケド、ベツニ守ラナクテモ何モ起キナインダケドー。デモ教エナイ。主人ハアソコニイナイヨー!」

 そう言ってベリトが指す。そこがルクスのいる場所だろう。

 ルクスにはその光景が見えているのだろうか?

 それを懸念した僕は急いでコジロウとアリーをその近くへ転移させる。シュキアも何かに気づいたのかアイニをすり抜けそちらへ向かう。それに気づいた僕が【転移球(テレポーター)】でシュキアも近寄らせる。

 僕は三匹の悪魔の特徴をようやく思い出した。

 フルフルにアイニ、ベリトは三匹とも嘘吐きなのだ。

 フルフルは真実を話させる合言葉を唱えないとあらゆる者に対して嘘を吐き続け、ベリトは表裏のない性格で召喚者にでさえ嘘やごまかしを平然と述べる。アイニは法律に詳しいが嘘が多い、信用できない司法家のような悪魔だった。

 全員が全員嘘を吐く悪魔、だからこそ場所を尋ねればそこにはいないと嘘を吐き、本当の場所を教えてくれる。

「吹き飛べ、レヴェンティ」

 アリーが【風膨(バルーン)】を解放、コジロウが【苦無(スピアエッジ)】を乱れ撃ち、シュキアが大振りの横薙ぎ払いで周囲をかき乱す。

 その三者三様の攻撃が終わった後、その攻撃で場外に落ちてしまったルクスが姿を現す。場外に落ちては消えている意味もない。

「私の負けですか……。いやはやお強い。フォラスで消えてもさほど意味はなかったようですね」

 同時に壇上に残っていた嘘吐きな三匹の悪魔も消える。

 僕たちの勝利だった。

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