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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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歓声


 27


「キャー」

 という甘い声が聞こえた。

 振り返り客席を見ればそこは観衆で埋め尽くされ、通路に立って見ている人もいた。

 その甘い声はどうやら対戦相手、幼い顔立ちに雛色の髪を優雅にたなびかせるグラウスとその後ろに控える藍色髪を後ろで束ねてまとめているルクスに向けてのものだった。

 そんな声援に手を振るグラウスは身の丈に合わない不恰好な鍍金鎧(ライヒェパンツァー)を着ていた。それをみっともないとして自重させようとするルクスは髪と同じ色の燕尾服ラウンジング・ジャケットを着ている。

 一方で、鼻息を荒げ「頑張れ」と叫ぶ男たちがいた。彼らがつける鉢巻(ヘッドバンド)には「マリアン」と書かれた刺繍。金髪ツインテールのマリアンを応援しているらしい。

 とうのマリアンは幼げな顔立ちで、豊かな立ち襟とスカートに刻まれた深い縦の溝が特徴的な華絹衣装(アーデルフロック)を身を纏い優雅に微笑んでいる。

 となれば当然残りのひとりマイカの応援もあった。「いたぶってください」が応援になればだけど。

 それが当然気に食わないらしいマイカは一般的にメイド服と呼ばれる垂幕羅紗服フォーリングバンドカートルに身を包みその場で少し顔を歪めていた。

 僕たちが壇上にあがるが、不自然と思えるほどに細々と声援が聞こえる程度だ。

 エリマさんから聞いた話の直後では当然だと思ってしまった。ここで負ければ好都合で、決勝では負けてもらわなければならないからだろう。

 今度のステージは第二回戦よりもさらに広い。第二回戦で使った四つのステージがふたつずつ繋がり正方形のステージがふたつできていた。

 ひとつは僕たちの、もうひとつはアエイウたちの準決勝の舞台だ。

「んじゃー、行っくよん! おなかもパンパンでも眠気に負けんな、相手に負けんな!」

 テンテンが相変わらず独特のテンションで言葉を紡ぐ。

「それじゃあレディイイイゴォオオオオオオオオ!!」

 声が飛び、準決勝が幕を開けた。


***



 ルルルカは試合前の休憩時に混雑する酒場の一角でアルルカとモココルに次は最初から本気を出してと伝えていた。

「今まで私のために我慢してくれてありがとう」

 同時に謝罪もした。

 少しだけ素直になった妹想いのルルルカの優しさを妹のアルルカは理解した。だから姉想いのアルルカはルルルカのために一生懸命頑張ろうと決めた。

 モココルもそうだった。元々ルルルカの性格を理解していたから不満はなかったが自分に感謝してくれた、少しだけ成長したルルルカを見て頑張ろうと思った。

「アイドルユニットの結成ですぢゃ」

 モッコスはそれを見てと呟いて豪快に笑った。その汚らしい笑いをルルルカは相変わらず好きにはなれなかったが、それでもいい奴には変わりがないのだろうと思った。

 そんな激変を遂げたルルルカは的狩の塔(ハンティングタワー)第ニ位のアエイウ相手に怯むことなく戦いを挑んでいた。

 準決勝の始まりの合図とともに走り出したのはアルルカとモココル。モッコスはルルルカを守り、そのルルルカは十本の匕首全てを操っていた。

 操剣士にとって操れる武器本数=強さではない。

 しかし操れる武器本数が多いほど難易度は高く、それが巧みに操れる操剣士は冒険者としての強さはともかく操剣士としての技術は高い。ルルルカはまさにそれ。十本もの匕首を全て操ることができた。

 しかもここにきてルルルカはチームワークを覚えていた。それはルルルカの持ち味を最大限に活かしはじめる。

 アルルカとモココルに前衛を任せ、自分は援護に回っていた。以前なら嫌がり拒むが、妹と戦える嬉しさを理解した今、ルルルカにそんな気持ちはなかった。

 やる気に満ちたアルルカの魔充剣タンタタンに熱気と冷気が入り混じる。三つの気を携えたアルルカは勢いに任せてミキヨシへと切りかかる。ミキヨシは軽やかなステップで半身をずらしアルルカの攻撃を回避。

「あまり女性に手をあげたくないんだけど」

「よく分かっているではないか、ミキ。俺さまとて俺さまの女を傷つけたくはない。ガハハハ! ようはやりようだ!」

 ミキヨシの問いかけにアエイウが答え、アルルカへと長大剣(ロングロンガーソード)を振るう。

 それはアルルカが避けるまでもなく、なぜか手前で空を切った。

 しかしそれがアエイウの狙い。長大剣(ロングロンガーソード)を振り回した際に起こる風圧は尋常なものではない。それで押し出そうと目論んでいた。

 アルルカはそれを予測してか、むしろ長大剣(ロングロンガーソード)へと突っ込んでいた。横薙ぎに振るわれた長大剣(ロングロンガーソード)の下へと盗塁士の技能【低姿勢滑走(ステイディング)】なみに滑り込み、アエイウへと迫る。

「ガハハッ! よくぞ見破ったな!」

 それでも余裕のアエイウは【筋力増強ドーピング】によって強化された腕力で強引に長大剣(ロングロンガーソード)の振りを止め、無理矢理方向を変えるという力技でアルルカのほうへと剣先を変える。

 しかしそれが隙。

 ルルルカの持つ、匕首〔ちゃっかりイチベエ〕がアエイウの首を狙い、匕首〔どっぷりニヘエ〕が右足を、匕首〔どっきりサンベエ〕が左足を目標に定める。

 それだけではない。

 匕首〔がっちりヨンベエ〕が右手、匕首〔びっくりゴヘエ〕が左手、匕首〔しっかりロクベエ〕が右目、匕首〔ばっちりシチベエ〕が左目、匕首〔がっかりハチベエ〕が右膝、匕首〔ひったくりキュウベエ〕が左膝、匕首〔野牛ジュウベエ〕が眉間を狙っていた。

 刹那、その全てが狙い通りに的中する。しかし、刃先が皮膚に突き刺さって以降、奥へ進むことはなかった。ルルルカに疑問が浮かぶ。

 仕組みは至極単純。アエイウは【鋼鉄表皮(アイアンメイデン)】によって身体を極薄の鋼のように硬質化させ、自身の身を守っていただけだ。

 けれど、アイドルになることばかり力を注いでいたルルルカには何の技能を使ったのか、判断できていなかった。いや、技能を使ったことさえも分かっていない。

 【鋼鉄表皮(アイアンメイデン)】は皮膚を鋼鉄化するが、見た目は鋼色ではなく元々の肌の色が適応される。そのため、【鋼鉄表皮(アイアンメイデン)】がどういう技能か分かっているのなら、使用しているかどうかの判断は武器を突き立てたときに皮膚にひびが入っているかどうかで判断できる。

 この技能を使用していれば、常に防御力が上がっている状態を維持できるように思えるが、弱点もある。

 皮膚を硬質化させたことにより、関節を覆う皮膚でさえ硬質化し動かすのが非常に困難になるのだ。

 そのため、アエイウは自身の持つ長大剣(ロングロンガーソード)の制御がままならずにいた。もっと熟練度の増した【鋼鉄表皮(アイアンメイデン)】であれば、硬質化を調節することもできたが、アエイウにはまだ不可能だった。

 ゆえに身を守るだけのアエイウにアルルカが近づくのは容易。

 アエイウにアルルカが魔充剣を叩き込む。第二回戦でのアロンドと同じ戦法だ。

 匕首はルルルカの操作によりアエイウの皮膚に未だ食い込もうとしている。ゆえにアエイウは【鋼鉄表皮(アイアンメイデン)】を解除できない。

 そこにアルルカがアロンドの盾を破壊したときと同じ戦法で連打を叩き込む。硬質化された皮膚は鋼と成分が似ているため、アロンドの盾を破壊したときと同様の仕組みで破壊できた。

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