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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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襟巻


 25


「ガハハハハッ!」

 食堂の手前でアエイウの笑い声が聞こえてきた。

 一歩後ずさる。一気に入りたくなくなる。

「待ってたわ」

 僕たちの気配を感じてか、ひとりの女性が出てくる。

「私はエリマ・キリザード」

 そうして彼女は自らを名乗る。

「アエイウが感謝してた。よくぞおれの女を守ってくれたって。まあ正確には生き返らせた子はアエイウの女じゃないけどさ」

 ふふ、とエリマは笑った。

「それでまあ、お礼ってわけじゃないけど……耳寄りな情報をあんたに教えようと思ってさ。あんまり聞かれたくない話だからアエイウに人払いをお願いしたんだけど、加減を知らないのさ、あの子」

「おかげで迷惑してるじゃん!」

「まあその代わり、貸切で奢りだよ。入って」

 エリマに促されて僕たちは入る。

「シュキアは居ないみたいね。ちょうど良かった。居たら居たでアエイウに頼むだけなのだけど手間が省けていいさ」

 ジネーゼとリーネが入ろうとした途端、エリマがわざとらしく扉を閉める。

「何するじゃん!」

「あらあら、あんたたちはお仲間じゃあないだろうに」

「待って。エリマさん。そのふたりも入れてあげて」

「本当にいいのかい?」

 それは聞いてしまったら、引き返せない。そういう意味合いを込めた問いだった。

「まあ決めるのはジネーゼたちかな。巻き込まれても僕は責任は取れない。今から教えてもらう情報がいい情報じゃないってぐらいしか僕には分からないし」

「入るに決まってるじゃん。お腹空いてるんじゃん!」

 僕が言うやいなや、ジネーゼは欲求そのままに食堂の中へ入っていく。お腹が空いたってのは覚悟を決めたのをごまかす言い訳だろうけれど、そんなに簡単に決めていいものなのかな。

 けれどエリマさんが拒絶しようとしたのを拒んだのは僕だ。僕にもその簡単に決めた覚悟とやらに責任を持たなければならないのかもしれない。もちろん、元より見捨てる気はないのだけれど。

 そんな僕の様子を見たアリーがため息を吐く。何もかも見透かされていた。

「良く来たな。しかも美人を四人もつれてくるとはさすが俺さまが認めた男だ、レシュリー・ライヴ。しかしハーレム王の称号は俺さま限定だから譲らんぞ。諦めて俺さまに女を寄越せ」

「あー、帰っていい?」

 食堂に入ってすぐそんなふざけたことを言うアエイウを無視して僕はエリマさんにそう尋ねた。

「アエイウ、自重しよう。話ができないからさ」

「うむむ。まあエリマがそう言うのなら黙っておいてやらんでもない。しかしだ、俺さまに命令するということは分かっているな?」

 気持ち悪いアイコンタクトに気づいたエリマが呆れたように

「あー、あー、分かったから黙っておいて」

「ガハハハ! それならばお口チャックマンにでもなんにでもなってやろうではないかっ!」

 ひとりお寒いことを言いながらアエイウは本当に静かになった。

「さてと、それで耳寄りな情報なんだけど……簡単に言えばあんたたちは決勝戦は勝てない」

「ええと……それって」

「つまり挑発ってこと?」

 困惑する僕に代わってアリーが睨みを効かせてエリマを問い質す。

「ああ、言葉が悪かった。……確かにアエイウの師匠という身分だから、アエイウたちに勝って欲しいと思うのは世の常だけどさ。そういう意味じゃないのさ。少なくともアエイウよりもあんたらのほうが実力は上。仮にもあんたら三人は[十本指ザ・ゴールデンフィンガー]に選ばれているわけだしさ。それでもあんたたちは勝てない」

 勝てない、と言われていきり立つアリーだが、少しだけ呼吸をして間を空けたエリマさんは制して続ける。

「ここには悪い風習が残ってる。残り続けてる。未だに、さ」

「どういうことですか?」

「だからそれを今から説明するのさ。でもまあ少し長くなるから、昼食を摂りながらといこう」

「そうだ、さっさと食べるじゃん」

 すでに昼食を貪っていたジネーゼも促してくる。言われるまでもなかった。

 僕はムルムル貝の半生パスタ ~未熟なベリコッコの卵添え~ とココアを注文する。

 見ればジネーゼもココアを注文していたようだった。

「うげ、どんな料理にでもココア頼むのジネーゼだけじゃなかった……死ねばいいのに」

 アメリア牛のビーフカレーを食べていたリーネがげんなりするようにぼやく。僕のココアを見てジネーゼが少し照れる。なんでだろう?

 アリーやコジロウもそれぞれが料理を注文し、その量にエリマが苦笑する。

 エリマの奢りということでアリーの注文は容赦がなかった。

 かつての光景を思い出し、思わず僕は微笑する。それこそがアリーらしいからだ。

 半生パスタが僕の席に届き、一口食べると、一瞬にして口の中で解けると同時にムルムル貝のクリームのような甘さが口のなかに広がる。美味い。

 僕が昼食を食べ始めると、

「それじゃあ説明させてもらうよ」

 全員の視線が集中したエリマは、動じることもなく話を始める。

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