殴合
『Buddhak's etra>殴り合いでもするのデスワー?』
レシュリーとレシュリー<1st>が閉じ込められた【絶封結界】は外側から見ると黒半球状だった。
その光景を見てBuddhak's etraはふと呟いた。
『yahks>どうしてそう思うんだ?』
治療が終わり、復帰したyahksが襲い掛かるPCを蹴散らしながら問いかける。
『Buddhak's etra>わったくしが最近やったゲームはなぜか男主人公と魔王の最終決戦が大抵殴り合いになるのデスワー』
そのゲームに思い当たる節があるのか、yahksは苦笑。
主人公は味方とともに剣と魔法を駆使し、魔王側は何度も変身を繰り返す。なのに最後には初期形態の魔王と、魔王の足掻きで武器がどっかに飛んでいった主人公の殴り合いになる。
結局最終的にそこに行き着くのが王道なのか、それとも単にその時の流行だったのかは分からない。
けれども誰も邪魔できない、干渉されない空間で、レシュリーとレシュリー<1st>が一対一の状況。
殴り合いになっていてもおかしくない。
『Buddhak's etra>そうなったらアツいのデスワー』
『yahks>ああ、そういう展開が好きなのか……』
Buddhak's etraが妄想して鼻息荒く興奮する。
「……たぶんなってないわね」
そんな会話が耳に入ってきてアリーは【絶封結界】を見つめる。
***
【絶封結界】の中は、殴り合いではなく投げ合いになっていた。
ある程度の距離を保って、お互いがお互いに球を避け、球と球をぶつけ合っている。
PCの世界で例えるなら障害物のない雪合戦、あるいは終わらないドッジボール。
レシュリー<1st>とレシュリーが同時に【超速球】を放つ。
自らだからこそ、自分たちが撃ちそうな場所を推測して相打ち。
まるでふたりとも、相手がどう動き、どう考えるのかを探っているような動きだった。
【煙球】で視界を隠し、【火炎球】で変化をつける。【蜘蛛巣球】で動きを阻害を試してみたり。
けれどやはり自分自身なのか決定打にはならない。
「やっぱり――」
ふたりとも確信する。
「どちらもが持っている球じゃダメか」
この戦いは今までの冒険の積み重ね。
ここに至るまでに【合成】してきた球の数が勝敗を分ける、と。
自分が作った球を相手も作っていたらあいこ。
自分が作った球を相手が作っていなかったら、負け。
その数の多さで勝負が決まる。
しかも自分が作った球を相手が作っていないという保証はどこにもない。
それでもレシュリーは先にしかけた。
「【転移球】とは舐めてるな」
転移先にレシュリー<1st>が待ち構える。球は作らず、レシュリーの腕を掴む判断。
レシュリー<1st>は自分の【合成】した球が少ないために、早々に奇襲を仕掛けたと推測していた。
がその推測は外れ。
【転移球】から出てきたレシュリーは鳥の翼のように手を大きく後ろへと伸ばし、その指先には糸のようなものがついていた。
何かを察してレシュリー<1st>は腕を掴む判断を止めて、二歩下がる。二歩下がったのは直感だった。
レシュリーの後ろに伸びた手、そして指先から繋がる糸の先、そこには球がついている。
【回転戻球】だった。
それがレシュリー<1st>の鼻先まで届いて、止まる。
「いい勘してる」
その球が糸に導かれてレシュリーの手元に戻る。
「なっ!?」
そのまま振り下ろすように今度は放たれる。
槍のように飛んできたと思ったら、今度は斧のように振り下ろす。
糸で球を変幻自在に操っていく。
かろうじてレシュリー<1st>は回避するが、レシュリー<10th>は距離を詰めて、怒涛の連撃。
「近距離攻撃はあるの?」
「黙れ」
「苛立つ感じ、ないよね?」
レシュリー<1st>の頬を【回転戻球】が掠める。どうしても投げる姿勢が必要な投球技能において、【回転戻球】は中遠距離に投げる必要がないので、そもそも投球技能においては異質であった。
近距離はアリー<1st>に頼りきりだったレシュリー<1st>が作ってないのも当然と言えば当然。
それでもレシュリー<1st>は魔王の身体能力を使って両腕から繰り出される【回転戻球】による傷を最小限に抑え、
「覚えた」
そう呟いたレシュリー<1st>の両手には【回転戻球】があった。
レシュリーが投球技能のみで【合成】した球であればレシュリー<1st>も【合成】できる。
レシュリー<1st>は回避に専念したうえで、【合成】して見せたのだ。
【回転戻球】と【回転戻球】がぶつかる。
お互いの【回転戻球】が手元に戻ってこず、たまらず解除。
手元に戻らなければ隙が大きいのが【回転戻球】の弱点だった。下手をすれば指先についた糸が絡まることもある。
レシュリーが深呼吸。
相手にはまだ転移先が分からない名称不明の【転移球】がある。それを考えて焦りすぎたかもしれない。
それでもまだ球はある。レシュリーはもう一度深く深く呼吸をする。
魔王を捨てたレシュリー<1st>はここに来て覚醒したのか、随分と余裕があるように思えた。




