拒絶
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「……呼び声が聞こえたの。私の声で、呼び声が」
「どういうこと?」
意味が分からず、レシュリーは泣きながら笑うしかなかった。
生き返ってくれたこと、助けることができたこと、安心と安堵で感情が揺れ動いて、まともに思考できてなかったかもしれない。
「誰も、魔王レシュリーの攻撃に気づいてなかった。けど、私は言われたの、私に。レシュリーが狙われている、危ないって。たぶんきっと、あの声は<1st>の――」
魔王レシュリーが握る魔々充剣アリテイシアに視線を向けて
「私の声よ」
それを聞いて、魔王レシュリーは愕然としていた。
アリーが助かったことに魔王レシュリーも安堵する一方で、レシュリーはアリーを支え、ヴィヴィとリアンは回復に専念している。
殺そうと思えば魔王レシュリーはレシュリーを殺せる位置にいた。
それでも、アリー<1st>の声が聞こえたという答えに魔王レシュリーは動けずにいる。
「もしかして、私を導いた声も……」
アリーの言葉を聞いて治療中のリアンが、ある推測を立てる。
リアンも呼び声に導かれて、終極迷宮に行った。
そのタイミングで覚えた初回突入特典〔極光の一夜城〕がなければその後にあった、獄災四季の戦いにおいて、冒険者の死者数が増大したに違いなかった。
「可能性はあるわね」
リアンが声に呼ばれた話はアリーも聞いていた。誰かの特典、あるいは能力と推測していたアリーだったが、自身が自分の声に呼ばれたとなってはその可能性のほうが高くなってくる。
「どうしてだ……」
そう呟いたのは魔王レシュリーだった。
レシュリーに危険が迫ることをアリーにアリー<1st>が教えること自体、魔王レシュリーには分からなかった。
なぜアリー<1st>がアリーとレシュリーたちの味方なのか、なぜ自分に味方してくれないのか理解できなかった。
「どうしてだ?」
「分からないの?」
アリーが問いかける。
「……」
魔王レシュリーは答えが見つからず黙ったままだ。
「気に食わないからよ」
アリーは言った。アリー<1st>が願いを決めたときに思った感情と奇跡的に一致した言葉を。
「私があんたの攻撃からレシュを庇ったのは。レシュが生き返らせてくれると信じてくれたから。でもあんたは違うんじゃない?」
魔王レシュリーはまだ黙ったままだった。
「あんたは独りよがりに生き返らせようとしてるんじゃないの? そっちのアリーが生き返りたいと思えるほど、あんたとそっちのアリーは信頼を築けていたの?」
魔王レシュリーは言い返せないでいた。
アリー<1st>と魔王レシュリーは互いと互いが好きでいるぐらいには確かに信頼関係はあった。それでもアリー<1st>は魔王レシュリーがいてもなお、耐えきれず自死を選んだ。
だとしたらアリー<1st>と魔王レシュリーは好きであるはずなのに、埋まらない何かがあったのだ。
魔王レシュリーはそれが分かっていなかった。
自分が生き返らせたいのだから、きっとアリーも生き返りたいのだろうと信じて疑わなかった。
その信じていたことを、アリー<1st>はアリーとレシュリーに味方する――正確にいえば、レシュリー<1st>以外のレシュリーとアリーに味方する、という行動で拒絶した。
それが魔王レシュリーには一番の攻撃だった。
「なんで、なんでなんで?」
理解したくないから、否定する。それでも事実は変わらない。
「何のために、僕は――」
絶望し言葉を吐くが、それでも気づく。
「ハハハハハハハハ」
気づいて狂ったように笑う。
「それでも僕は願った。勝てば願いが叶う。アリーが気に食わなくたって、僕が勝てば願いが叶う。決着をつけよう」
「それはこっちの台詞だよ」
アリーをヴィヴィとリアンに任せて下がらせる。
レシュリーは周囲に誰もいないのを確認して、魔巻物を展開する。
このときを待っていたわけではない。
もし可能な場合は使おうという想定をして、持っていただけだった。
それが今だった。
魔巻物に込められていたのは【絶封結界】。
使用者と指定した人間のみを取り込み封じ込める結界。
レシュリーはその魔法によって強制的に一対一の状況を作り出す。
「ここなら誰も邪魔をしない。決着をつけよう」
レシュリーに言われ、魔王レシュリーは握りしめていた魔々充剣アリテイシアを床へと突き刺す。
裏切られたから魔々充剣を使わないのではない、そもそも裏切られたとは思っていない。
「そこで見ていてよ、アリー」
魔々充剣アリテイシアへと魔王レシュリーは言葉を投げかける。その剣にはアリー<1st>の魂が移り、そこから魔王たる自分を見ているはずだった。
魔王レシュリーは、目の前にいる冒険者レシュリー・ライヴ<10th>と、冒険者レシュリー・ライヴ<1st>として戦おうと決めたのだ。
そうでなければ、自分のわがままで生き返るアリーも納得してくれないだろう、そんな気がしていた。
「行くぞ、レシュリー・ライヴ」
魔王レシュリー、いやレシュリー<1st>は両手で球を作り出してレシュリー<10th>へと向かっていく。




