ほら、呼び声が聞こえる
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「おめでとうございます。十個の宝石を集めた冒険者はできうる限りのあらゆる願いを叶えることができます」
白い部屋――いや白い空間かもしれない。壁も境界もどこにあるか分からない。永遠に白い世界が続いている。
そんな中で声だけが聞こえた。
「私は死んだはずじゃ……」
「確かにあなたは死にましたが、肉体か精神、どちらかがたどり着けば問題ありません」
アリテイシアの肉体はどこも損傷なく、生前の姿のままだった。
「けど、そんな状況で願いなんて――」
そこでアリテイシアは少し押し黙って考える。
「レシュは何を願ったの?」
「あなたの再生です。生き返らせようとしました」
「可能なの?」
「不可能です。あなたの魂がセフィロトの樹に定着しましたから」
「じゃあここにいる私は何なの?」
「仮に今目覚めれば、他の死者と同様、セフィロトの樹にて魂として目覚めるでしょう。その感覚は' 'たちには分かりませんが」
「夢の中とでも思っていたほうがよさそうね」
「ええ。ですが何の中であれ、願いは叶えてもらう必要があります」
「私を生き返らせようとしたレシュリーは結局、何を願ったの?」
その問いかけに' 'たちはレシュリーに説明したことをアリテイシアにも説明する。
「なるほどね。じゃあ私を生き返らせるな、と私が願ったらどうなるの?」
「それも不可能です。レシュリーの願いは聞き入れましたから、レシュリーが試練に合格した時点で、あなたは他のアリテイシアの肉体を使って――言葉的には生き返ります」
「結局、レシュのわがままで私は生き返ってしまう可能性があるのね」
「生き返りたくないのですか」
「私は私のわがままで自ら命を絶ったの。絶望して。生きたくないって思ったの。なのにレシュはふたりで生きたいからって生き返らせようとしてる。私のわがままを自分のわがままで塗りつぶそうとしてる」
「気に食わないのですね」
アリテイシアの胸中を見透かしてか、' 'たちは言う。
少しそこに人間味を感じてアリテイシアは微笑んだ。
「あーあ、なんか台無しにしてやろうかしら」
レシュリーのわがままに付き合わされるのは、' 'たちが言ったように少し気に食わない。
そう思えばこそ、別のレシュリーやアリテイシアに肩入れしてもいいのではないだろうか、とも思ったのだ。
「私が自ら命を絶ったのはね、たぶん仲間が少なかったの。弟子も死んだし。悪女呼ばわりされて精神的にどうにかなりそうだった。なのに母さんもあんなふうに生かされてるのを知ってしまった。それが全部負担になって耐えきれなくなったの」
誰にも言えなかった心情を今だからアリテイシアは吐露していた。
「だからもう少し支えてくれる仲間がいたら――私はあんな目に遭っていた母さんに会っても、強くいられたのかもしれない」
いつの間にかアリテイシアの目には涙が浮かんでいた。
その涙をアリテイシアは拭って、強く頷く。
「決めた私の願いは――声を届けることにするわ。たぶん、他のアリテイシアやレシュリーも災難な目に会うと思う。それを切り抜けるための言葉を、私は届ける」
「なるほどです。具体的にどこにしますか」
「まずは四人の黒騎士と戦う手段を――。あの戦いで冒険者問わずたくさん死んだ。だからあの戦いをなんとかしないと私は耐えれない。だから、それを乗り越えれる可能性がある冒険者を誘導したいの。それと次に、と言ってもそんなに多く要求してもダメだと思うから次が最後、別のレシュリーがレシュに命を奪われそうになったとき、私の声を届けれるようにして」
「その願いを叶えることは可能ですが……」
「何よ?」
「その願い。特に最初の四人の黒騎士と戦う手段に関しては、ヒントを届けることでレシュリーが試練を行える可能性もぐっと高まりますよ」
「確かにそれはあるけど、別の私とレシュリーが、レシュに立ちはだかってもらわないと困るの。そうしないとレシュのわがままに対する最高の仕返しができないわ」
「くっくっく……」
おかしくて' 'たちも笑ってしまう。
仕返しのために願いを使うのが、人間らしくて可愛らしくもあった。
「だからね、ほら、私が呼ぶ声を届けて」
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