初狩
***
「あんたってどんくさいけど、何ができんの?」
そうやっていつもバカにしてくる彼女がゲームにドはまり。
実はゲームが得意なキミ(プレイヤー)はいつもバカにしてくる彼女をコテンパンにしてやろうと決意!
創作ミニゲーム集『彼女、初狩りします』は既存のミニゲーム40種類と創作したミニゲームで、“彼女”と戦うゲームだ。
“彼女”はゲームが得意なキミが初狩りできるほどに弱い。
けれど何度か戦っていくうちに学習し、徐々に強くなっていく。“彼女”の難易度設定は存在せず、キミが勝った分だけ“彼女”が徐々に強くなっていく。
さらにジャンルが同じゲームはやっていなくてもなんとなくコツを“彼女”を掴んでいるため“彼女”の成長速度は早い。
FPSが得意な人が違うFPSで戦ってもなんとなく戦えてしまう、そんな感じだ。
キミは多種多様なゲームで果たして“彼女”を何回初狩りできるのか。強くなった“彼女”に負けるとまたバカにされてしまうぞ。
***
Mizar Songに対面するBuddhak's etraは仕掛けられた創作ミニゲーム・バックドラフト119を突破して、彼が『彼女、初狩りします』のキミの姿だと判断する。キミの姿は自分でキャラクリエイトできるが、目の前のMizar Songは一般人の姿すぎて、正直、技を仕掛けられるまで何のPCか判断ができなかった。
『Buddhak's etra>バックドラフト119だなんてタイトルでしたから、火災現場の消火をするゲームかと思ったのデスワー』
現実時間2秒、ミニゲーム内時間10分でバックドラフト119を突破したBuddhak's etraは、近寄ってきたPCを蹴散らしながら、期待外れだとぼやく。
バックドラフト119はバックギャモンを元に途中で発火、消火という要素を加えた、変則バックギャモンだった。
基本的に『彼女、初狩りします』で作れるゲームはミニゲーム。短時間で何度も遊べるというのがコンセプトな以上、PC世界のボードゲームやカードゲームがもとになっている。
そしてこれが『彼女、初狩りします』のPCの攻撃方法である。ミニゲームを仕掛けることで、いわゆるミニゲーム空間に拘束しクリアまで一時的に動きを制限できた。ミニゲーム空間の時間と現実の時間は異なり、空間内での5分が現実時間での1秒に当たるが、仕掛けている間は確実に動きが止まる。
『Mizar Song>んでもって次はこれだ』
創作ミニゲーム・花並べを仕掛けられたBuddhak's etraは1秒で突破。
『Mizar Song>――ッ。んでもってこれ!』
創作ミニゲーム・すげえろっくを仕掛けられたBuddhak's etraは2秒で突破。
『Mizar Song>これっ! これだあああああ!』
創作ミニゲーム・一問多答を仕掛けられたBuddhak's etraは1秒で突破。
『Mizar Song>んでもって僕が初狩りされてる』
計4秒動きが止まるということはそれだけ他のPCに近づかれている証左。近づいてきたPCは動けるようになって即一刀両断しているが、いつか破綻する。
ミニゲームの連続クリアは意外と集中力を使う。
『Buddhak's etra>ホントっ、うっとうしいデスワー!』
鬼騎伝の職業、鬼騎士の姿で睨みつけると、Mizar Songはわずかに竦みあがる。まさに鬼の形相をしていた。
いちいち動きを止められてしまうBuddhak's etraは停止前と停止後のPCの位置が異なったり、ミニゲーム空間の行き来やらで、いつも以上に動きが鈍いと感じてしまうほどには頭の切り替えに時間がかかっている。
「手伝いが必要でござるか?」
動きを何度か止めているBuddhak's etraを見かねてコジロウが声をかける。
『Buddhak's etra>ええ、あそこにいるPC以外を倒してくださる?』
「あやつも倒せそうでござるが」
そう告げると、Buddhak's etraは首を横に振る。
『Buddhak's etra>内容的に、わったくしが“彼女”なのデスワー』
「つまり、どういうことでござる?」
『Buddhak's etra>“彼女”に勝てるのはキミなのですけれど、逆もまた然り。そして他人は干渉できないという仕様なのデスワー』
「よくわからんでござるが、周囲のPCを倒せばいい、ということでござるな」
なんとなくBuddhak's etraの要望を理解したコジロウはBuddhak's etraを守るように周囲のPCへと向かっていった。
『Mizar Song>おいおい、んでもって邪魔しないでくれよ』
Mizar Songがコジロウに向かって創作ミニゲームを発動。しかし――コジロウの身には何も起きずに周囲にいた"ジャドー"やレクハ、鬼騎伝のPCたちが倒されていく。
『Mizar Song>んでもって、なんで?』
『Buddhak's etra>理解してないだなんて、お笑い種デスワー』
『Mizar Song>はぁ? ぶざけんな』
“彼女”にバカにされたような気がして激昂。
『Buddhak's etra>ようするにあなたが仕掛ける創作ミニゲームは、1対1。正確にはキミ対“彼女”。あなたがキミでわったくしが“彼女”。創作ミニゲームでわったくしが負けたのならともかく、負けてもないのにキミが引き下がれるわけないのデスワー』
『Mizar Song>さっさと負けろ』
創作ミニゲーム・マグロ叩きを仕掛けられたBuddhak's etraは1秒で突破。
『Mizar Song>――ッ。なんで!』
創作ミニゲーム・ロイヤルスピードを仕掛けられたBuddhak's etraは1秒で突破。
『Mizar Song>負けろよぉおおおおおお!』
創作ミニゲーム・運かませを仕掛けられたBuddhak's etraは1秒で突破。
『Mizar Song>くそおおおおおおおおおおおおおお!!』
ちなみに創作ミニゲーム内でBuddhak's etraが負けると、勝つまでそのミニゲームを行う必要があり、その分、動きが止まる時間が長くなる。
一方で、創作ミニゲーム内でBuddhak's etraが一発で勝つ――つまり、Mizar Songが初狩りされると、再び“彼女”と対決する必要があるため、Mizar Songはミニゲームを仕掛ける対象を変更できない。
つまり、Buddhak's etraが負けるまで、コジロウに対象は移せず、結果、周囲のPCが一方的に減る結果になっていた。
『Buddhak's etra>初狩りメダルはいくつ稼いでいますの?』
Mizar Songに問いかける。初狩りメダルは、ミニゲームで“彼女”に勝利したときに会得できるメダルで、そのメダルの多さでMizar Songの強さは決まる。
つまりそれなりの初狩りメダルを持っていたら、それなりにMizar Songは戦える。もちろん、ミニゲームを発動するという能力しかないので、見様見真似の体術か誰かが落とした武器を使っての戦闘になる。
それでも、そのほうがマシなんじゃないかと思ってのBuddhak's etraの問いかけだった。
『Mizar Song>自分で戦えってか? 誰が戦うかよ。んでもって、みんな聞け。奥の手を使うっ!』
『Buddhak's etra>やれやれ、状況が見えていませんのね』
『彼女、初狩りします』の“彼女”はミニゲームをすればするほど強くなっていく。では強くなり過ぎた“彼女”に勝てない場合はどうするのか。
それが、Mizar Songの言う奥の手。
「――という夢を見た」
『彼女、初狩りします』では初狩りメダルを消費することで“彼女”の強さを初期化することができる。最初のよわよわ“彼女”をまたはじめから初狩りするのである。
Mizar Songの手から初狩りメダルが地面へと落下。衝突と同時にどこかに消え、現“彼女”のBuddhak's etraが弱体化する。
『Mizar Song>おい、使ったぞ。んでもってコイツをやれえええええええ』
なぜMizar Songが自らの手を下さず、他のPCに応援を要請したのか。理由は簡単だった。
初狩りメダルの所持数がMizar Songの強さである。そのメダルを消費した分、Mizar Songも弱体化していた。本来の設定にはない欠点であった。
そしてMizar Songの声はこだまするだけで、周囲のPCの耳には届かなかった。
いやそもそも、
『Buddhak's etra>だから状況が見えていないのデスワー』
周囲にPCはいなくなっていた。
初狩りしようと夢中になっていて周囲の状況把握を怠った結果だ。
コジロウの殲滅速度を侮っていた。
それにアルルカ、ルルルカ、ディエゴが増援にきた影響で、PCが一時的に様子見してこちら側にやってくるのを中断したのも原因だろう。
絶えずPCが来ていれば、Buddhak's etraは確実に倒せた。
PCが様子見しているのは推測できて、数が増えていないことにも気づいていた。
だからもっと何かやりようがあった。
頭の中で敗因の言い訳がどんどん思い浮かんでくる。
『Buddhak's etra>“彼女”なりにキミにこの言葉を捧げるべきですわね』
鬼騎士の姿たるBuddhak's etraが、鬼刃刀・大騒動を振り下ろしながら、こう囁いた。
『Buddhak's etra>ざぁこ、デスワー』




