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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語(2)
889/893

佳境

***


 プリズムスターライドルの綺羅綺羅(きらきら) 鬼々羅(ききら)姿(アバター)であるPhecda Prosperityをはじめとしたプリズムスターライドルの動きが再び止まる。

 疲れて中断していたとはいえ、すぐに再開しバフをばら撒いたにも関わらず、味方の数は減り続けている。

『Phecda Prosperity>ふざけんじゃねーゾ♡ もうすぐそこにも接近されてんじゃん』

 少しブチギレ気味に叫ぶ。Phecda Prosperityは中央で戦うPCの援護を中央のやや後方にて行っていたが、

 先ほどアルたちの攻撃でやや押され気味だった。心なしかPCの数も少ない。

 そんなアルたちに代わって出張ってきたのが、増援にやってきたNPCだった。

 その中にレシュリーによく似た顔を見つけてPhecda Prosperityは接近されていると苦情を言ったのだ。

「いやボクはレシュリーじゃないよ。レイシュリーだ」

 空中にいるからか視線を浴びたのに気づいて、レイシュリーはそう呟く。

 顔がよく似ているから仕方がないとはいえ、PCにまで間違えられたことにやや嘆息。

「識別できるはずなのになぁぜ、なぁぜ?」

 ナァゼが疑問を投げる。PCはそういう術を持っているとナァゼもレイシュリーも知っていた。

「知らないよ。いちいち見ないんじゃない。ほら、ナァゼも説明書見ないタイプでしょ」

 軽口を叩いて、ふたりで九輝石の機虹杖〔聖櫃に架かるビフレ〕を握りしめる。

 空中にはレシュリーが【転移球】で送り届けていた。中央の戦線にはアルがいるおかげで、転移時にはあまり注目がいかなかった。

 Phecda Prosperityが気づいたのは偶然。疲れて、ふと動きを止めてなんとなく空を見上げるように上を向いた。

 そういうことはある。

「今度は気絶しない程度に行くよ。ナァゼ」

 無言でナァゼが頷くやいなや、詠唱は終わる。機杖による無詠唱、超高速の魔法展開。

「【炎熱波(ドラウト)】!」

 レイシュリーたちが受けた任務は後ろにいるプリズムスターライドルたちを無力化すること。

 九重展開された【炎熱波(ドラウト)】の熱波がライドルたちを襲う。

『Phecda Prosperity>ちょ、何……熱ぅ。 なにこれ、皮膚が…… えっ? 鏡?」

「えっ? 鏡?」は自身の配信のコメントを見て思わず呟いたのだろう。

 自分だけが見れる鏡みたいなものを表示して、その顔を見て、Phecda Prosperityは絶句。熱波の中にいるというのに泡を吹いて倒れ、そのまま消滅。

 ほとんど似たような顛末を迎えた他のライドルたちの中には倒されなかったものもいたがその姿に戦意喪失していた。

 容姿が重要のライドルの姿(アバター)にとって、ナァゼの特典は酷だったのかもしれない。

「役目は果たした。あとは倒れない程度に後退しながらPCを叩こう」

 援軍としてやってきたヴィヴィが展開した【緩和膜(クッション)】に着地したレイシュリーとナァゼは周囲のPCに向かっていく。


***


 援軍としてやってこれたのはレイシュリーとナァゼの他にヴィヴィとシャアナだけだった。

 思いの外、魔物の数が多く、運よく通り抜けれた冒険者が援軍にきたとシャアナが説明してくれた。

 ヴィヴィは後方支援となるなか、レイシュリーとナァゼは先の作戦により空中へ。

 シャアナもPCを倒すべく動き出そうとして

「やっほ~」

 HUMA・Ntte117を見つける。

『HUMA・Ntte117>シャシャシャシャシャアナさん!』

「何、驚いてるの。相変わらずだね」

『HUMA・Ntte117>あああああ、ええええと』

「また味方として戦ってくれるんだね。見てたよ」

『HUMA・Ntte117>あああ、そうだもです。はははい』

「そういえば、好きな人できた?』

『HUMA・Ntte117>……ッ! ぼぼぼぼぼくはまだ……シャ』

 そこで言葉が詰まるが、赤面したことで想いは伝わる。

「ハハハ。まだ好きなんだね、嬉しいよ」

 シャアナも想いに気づいて顔を真っ赤にしていた。

 体中が火照り、初回突入特典〔炎上勝報(オンファイア)〕が発動。

 今すぐ軽装に着替えたいが、なぜかHUMA・Ntte117の前だと恥ずかしくなる。前はそんなでもなかったのに。

「また一緒に戦おう」

 シャアナはHUMA・Ntte117に並び立つ。目の前にはディノゲノムリローデッドのコボノサウルスが複数体存在していた。

 コボルトとティラノサウルスのディノモンスターだった。

 コボルトの下半身がティラノサウルスになったような姿のため、大きさとしては本来のティラノサウルスよりもかなり小型。コボルトのサイズ感。

 そのためか扱いやすく複数体で使うのが主流だった。

『Alioth Honesty>行けっしょい! さっさと倒して前進だっしょい』

 プリズムスターライドルのバフがなくなった焦りもあって、その指示には少し粗さがあった。

 パンチングカッター伝助の姿(アバター)たるHUMA・Ntte117は前に出ず風術を展開。

 それなりの強風だがコボノサウルスの体格ならびくともしない。

 けれど、HUMA・Ntte117の狙いは違う。

 シャアナが【炎轟車(パーガトリミル)】を展開。攻撃階級4だが、特典の効果で無詠唱となった炎の車輪が、何個も出現。

 パンチングカッター伝助の風術で繰り出した風が追い風となって、炎の勢いを増していく。

『Alioth Honesty>やばっしょい!』

 コボノサウルスの突撃命令を急いで切り替えるも間に合わない。炎の勢いも想像以上で気づけば眼前に炎の車輪がやってきていた。

 Alioth Honestyをコボノサウルス諸共轢いて、炎の車輪は通り過ぎていく。


***


「おかしい」

 魔王レシュリーは戦いを見ながら、違和感に気づく。

 PCの姿が明らかに少なくなっている。魔法陣はまだ開いているのに、そこから出てくる様子がないのだ。

「……そうか。僕の優しさが仇になったな。強制転移にしておけばよかった」

 魔法陣から、こちら側へ向かうかどうかはPC次第にしてある。

 その結果、NPCの増援アルルカ、ルルルカ、ディエゴがやってきた際に、ほとんどのPCが様子見を選択したのだ。

「今から切り替えるか……いや」

 絶好の機会はおそらくもうすぐやってくる。

 魔王レシュリーは今までの感覚からそう予感していた。

 その予感に向かうかのようにPCがこちら側へやってくる。

 五分が経過し、効力が切れたルルルカの姿が消えていったからだろう。

「事態は好転するよ」

 希望に縋るようにも思える言葉を魔王レシュリーは腹の底から吐き出し、戦場を挟んで向かいにいるレシュリーへと魔々充剣アリテイシアを向ける。

 魔王の特典〔超蝶現象(バタフライエフェクト)〕によって青色の蝶々がはばたき、何かが起きようとしていた。

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