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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語(2)
885/894

狸暮

***


「俺は右に行く」

「では姉さん。私たちは左へ」

「正面は俺が牽制します。コジロウさんもお手数ですがお手伝いを。増援はまだまだ来ます」

『Buddhak's etra>ちょっと! やる気十分なのはいいデスけど、わったくしもいますのよ!』

「俺は大勢と戦うのは得意ではないのですので、たぶん取りこぼします」

『B0DH1・5ATTA>だから{牽制}なんだろうね。{大丈夫}、{君}を{無視}した{奴}はボクっちゃたちが{担当}する』

 そう告げた矢先に、アルならば倒せるのではないのか、と考えた薔薇を頭に咲かせたPCが通り抜けようとして、胴体を真っ二つに斬られる。

『yahks>これ出番あるか?』

『Shr@vaka>あそこで回復、治療、治癒している女の子もただ者じゃなさそうっぽいらしいし』

 Shr@vakaもリアンから底知れぬ魔力でも感じたのか思わず身震いしていた。

 中央はコジロウが跳びまわり、周囲をひっかき回していることもあり、味方になってくれたPCの出番はまだまだ先になりそうではあった。


***


 一方で、右方向へと向かったディエゴは近くにいた“雑魚がごとき”のPCたちへと向かう。

 ディエゴが右方向を選択したのは人の数が多かったから、というのが理由だったが、その理由を形成しているのは“雑魚がごとき”のPCたちだった。

 見れば、数百人いるにも関わらず彼らはほとんどが同じ顔をしていた。

 “雑魚がごとき”は「ざぁこ」と勇者に言われた人型スライムが自らを分裂、増殖、繁殖させることで、勇者に復讐する工場シュミレーション型タワーディフェンスだった。

 要するに弱いけど数で圧倒しよう、を体現したものだ。

 “雑魚がごとき”のPCたちのいわば本体は数人程度で、数百人いるのは、本体から分裂、増殖、繁殖した分体とでもいうべき個体だった。

『Hi kowrow>ほらほら、どんどん増えるよっ!』

 分裂でステータスを半分にして大量に分体を作成、その後、ステータスをそのままに寿命を少し減らすことで、分体の色を変えて分裂ほどではないにしろ大量に分体を作成。その後、色の違う分体がぶつかることで繁殖。最大3体までだが、ステータスを大幅に上昇させた分体を作成。基本の手順はこうだが、そこにトッププレイヤーならではのコツを教えることで“雑魚がごとき”のトッププレイヤーの先導で、最効率と言われる手順を“雑魚がごとき”のPCたちも取っていく。

 結果、短時間で数百人まで増えることができていた。

「どの程度から見てやるよ」

 ディエゴが【弱火】を無詠唱で放ち、分体を数体まとめて焼き尽くす。

「カッ!」

 思わず喉を鳴らす。「ここに来るまでに、すげえ戦ったからな。また熟練度が上がってやがる」

 自身の成長にディエゴは喜びを露わにする。「再生力が自慢ならよ、へし折ってやるよ」


***


「ちょっとかわいいから倒すのに抵抗があるの」

「でも敵ですよ、姉さん」

 ルルルカの躊躇にアルルカはそう告げるが、確かに倒すのは抵抗があるかわいらしさだった。

 一言でいえばデフォルメされたタヌキだ。背丈は二足で立っても膝下程度と小さい。

 それぞれのタヌキのおでこには紅葉に、銀杏、槐に桂と、個性を現すように葉っぱを乗せている。

 必死に跳ぶ姿も、四足で走り回る姿もとても愛らしく、敵でなければ持って帰りたいと思わせるほど。

 ただ、そんなタヌキたちも槍を持っていたり槌を持っていたりして、叩きつけた床には平然とひびが入るほどなので、それなりに力強さはあるようだった。


***


「あれ、大丈夫なのかしら……」

 大丈夫なのだろうけれど、アルルカたちがタヌキを倒すのに躊躇しているのが見てとれて、アリーは心配になる。

『HUMA・Ntte117>すすす少しだけ、ああああアドバイスしたほうが良い?』

「そもそもあのタヌキ強いの?」

『yahks>強さの基準が快適度でMAXは100。つまりその快適度のまま、ここに戦いに来ていたら、ランク7ぐらいにはなるんだっけか?』

「それであの数だったら少し大変かも」

「だとしたら助けに行ったほうが……」

 yahksの言葉を聞いて少しだけリアンも不安になる。

『Buddhak's etra>いえ、そうも行かないみたいデスワー』

 数人のPCがレシュリーたちのすぐそばまでやってきていた。

『B0DH1・5ATTA>よく{潜}り{抜}けたね』

『Merak Gate>知らぬ。気づけばここにいたでごわす』

 相撲取りのようなPCが代表して答える。

 遠くでは魔王レシュリーが魔々充剣を振るっていた。

「〔超蝶現象(バタフライエフェクト)〕だ」

『Buddhak's etra>?』

「魔王の特典。詳しくわかってないけど、何が起こるか分からない、みたいな?」

 レシュリーが特典の効果をそう推測したのは〔超蝶現象(バタフライエフェクト)〕が発動するたびに魔王レシュリーがいい効果だのしょぼい効果だの、評価していたからだ。

『yahks>なるほどな』

 似たような効果の呪文にでも思い当たったのかすぐに納得して、

『yahks>じゃあそれで転移してきたってわけね』

 もっとも【転移球】の上位版(名称不明)を魔王レシュリーは使えるはずなので、〔超蝶現象(バタフライエフェクト)〕を使ったらたまたま、それと似たような効果が出たとみるべきだろう。とはいえ転移してきたのは厄介だった。

 アルの牽制もすり抜けて、少なくないPCが転移してきたのだから。

『yahks>とりあえず……やることをやるか』

 覚悟を決めたように、yahksは大きく息を吸って、ルルルカたちのほうを向いた。


***


 葉っぱを乗せたデフォルメタヌキ――ぽんぽこLifEのPCたちの強さの基準はyahksが言う通り、快適度にある。

 そもそもぽんぽこLifEは、同じ穴に偶然集まってしまったがために、心地良いようで心地良くない生活をせざるを得なくなったタヌキたちが、その穴を快適に暮らしやすくしようと改良して、快適度を上げていくスローライフシュミレーションだ。

 今もタヌキたちだけが表示できる画面には各々の快適度が表示されていて、中には100と表示されているタヌキもいる。

 それはNPC側には見ることもできないため見た目では判断できない。

 ただし同じ葉っぱを持つタヌキは一体だけが本体で、残りは“雑魚がごとき”で言うところの分体で、基本的に本体に従順で命令によって快適度を保つ役割を与えることができた。

 その分体は本体と快適度は共有されている。つまるところ、“雑魚がごとき”と同様、数十体いるタヌキの中に本体は数人だった。一方で無限に強くなれる“雑魚がごとき”と異なり、快適度によって強さが統一されるため、そこそこの成長しかしてない“雑魚がごとき”の分体と比べると一体一体は基本的に強い。

「さて、いよいよ攻撃しないと数減りませんよ。姉さん」

「そういうアルルカも攻撃してないの」

 かわいらしさが邪魔をしていた。

 とはいえ、十分タヌキたちの敵視は集めているので、役割は果たしているともいえる。

 ただ時間制限があるルルルカはもっと強敵を倒したいという焦りもあった。

『yahks>おぉおい! 聞こえるかっ!』

 そんななかの大声にルルルカとアルルカは一瞬だけ反応してみせる。ぽんぽこLifEのPCの攻撃は侮れないので、それ以上は無理だった。

 けれど反応があったことでyahksは言葉を続ける。

『yahks>そのタヌキたちの強さは快適度。つまり不快感を覚えると勝手に弱体化するぞ』

 具体的にはどうすればいいのか、ルルルカとアルルカにはピンと来てない。

『yahks>ネタバレになるが要するにゴm――』

 そこでyahksの言葉途切れる。

 yahksのネタバレによって左方面が不利になると判断したMerak Gateの張り手によって吹き飛ばされていた。


***


「えっ?」

 yahksの行動にも驚いたが、yahksが吹き飛ばされたことにリアンは唖然としてしまう。

 yahksの強さを知っているわけではないがその風格には強者たるものがあった。

 そんなyahksが一撃で吹き飛ばされ、壁に激突し、そのまま埋もれてしまうほどの威力がその張り手にはあった。

 リアンが慌てて駆け寄るとyahksが二言三言に呟いて気絶。Shr@vakaが回復するリアンを護衛するように後退。

『Buddhak's etra>HUMA・Ntte117さん。同じ"ジャドー"のPCとして彼の強さはどうなんデスワー』

『HUMA・Ntte117>Merak Gateは"ジャドー"のトッププレイヤーだよ。ぼぼぼぼぼくとの相性もあんまままりよくないよ』

『B0DH1・5ATTA>ボクっちゃも{護衛}に{回}れば{良}かった』

 ちょっと羨ましげにShr@vakaを見た。

『Buddhak's etra>ということはレクハでも相性最悪なんデスわね。当然、わったくしの鬼騎伝もあまりよくはないのデスワー』

『HUMA・Ntte117>"ジャドー"のののののどどどどドスコイソーサラー拳握ののののとととと特徴は知ってるるるるる感じででですか』

『B0DH1・5ATTA>{仲間}だと{結構}{強}いからね」

「時間稼ぎだけでいいよ。yahksからの伝言が本当なら、簡単に倒せる仲間がもう少しで来る」

 レシュリーがそう告げると同時か、それよりも少し早く、

『Merak Gate>八卦余韻(はっけよい)――残った、残った!』

 本来ならおそらく自分では言わないであろう、取組を進行するようなかけ声を発して、Merak Gateは味方のPCへと向かって突進する。

 Merak Gateの勢いに乗じて〔超蝶現象(バタフライエフェクト)〕でやってきたPCも後に続く。


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