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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語(2)
884/894

黒玉

***


「突撃!」

 号令とともに冒険者全員が走っていく映像が偵察用円形飛翔機(ドローン)を通じて、PCや魔王レシュリーに届く。

「裏切ったやつらはどうでもいい。ふたりを早くやれ!」

 魔王レシュリーの言葉はPC全員の総意でもあった。原点草原レベル0の冒険者たちが到達すれば、楽勝だった勝率が五分ぐらいになるのではないか、という予感があった。

『HUMA・Ntte117>どどどどうするだも?』

 レシュリーの【転移球】によってHUMA・Ntte117たちはレシュリーとアリーのすぐそばに転移していた。

 とはいえ数は劣勢。もうすぐ増援が来るのは確定しているものの、来るまでは、今の人数で対応しなければならない。

 それが何分になるのか分からずHUMA・Ntte117は慌てふためいていた。

『B0DH1・5ATTA>{紐人間}たちが{来}るね』

 虎柄の紐だったり、白だったり、あるいは牛柄だったりと様々な紐で輪郭を象った透明人間が、いのいちにやってくる。

 彼らは転送位置がよかったため、レシュリーたちに一番近い。

「紐によって何か効力とかが違うの?」

『Shr@vaka>いや、あれはただの装飾、外装、化粧っぽいらしい』

「つまりはただの飾りね」

『yahks>けど、一番槍が、ヒューマンボールブラックのプレイヤーっていうのは意外と厄介だぞ。あいつらはクリアステージ数でレベルを上げれるから、たぶんこっちの世界換算でランク5以上、レベルは500ぐらいじゃないか』

「詳しいデータありがとう。で対処方法は?」

『yahks>ない。というかあいつらダメージって概念がない』

 そもそも、ヒューマンボールブラックってのは、とyahksは続ける。博識を披露したいようなタイプだった。

『yahks>目的も分からず”そこ”にいる人間たちはずっとどこかを眺めていた。そんななか、人間たちはふと山の頂上に黒玉を見つける。その頂上に向かってみよう。人間たちは歩き出す。果たして誰がその黒玉にたどり着けるか』

『B0DH1・5ATTA>あらすじだけ{言}っても{分}かんないでしょ』

『yahks>いやまずはあらすじだろうよ』

『Buddhak's etra>何にせよ、ヒューマンホールブラックの仕様上、プレイヤーは無敵なのデスワー。穴に落ちる、こともありますが基本は特定の地点に戻るだけ。とにかく黒玉を目指すものと思ってもらっていいのデスワー』

「攻撃方法とかは?」

『B0DH1・5ATTA>{攻撃}とは{言}わないけど、あの{輪郭}の{紐}をくっつけたり、くっつけたものを{投}げたりできるから、たぶんその{仕様}が{引}き{継}がれているはず』

「全身【蜘蛛巣球】みたいなものか」

「動き封じられるのはきついはね。一体ならともかく何十体もいるわよ。とにかく触れるのは危険って感じね」

「ちなみに、紐人間同士が触れるとくっつくの?」

『yahks>ああ。基本的に多人数攻略のときはくっつくとしばらく離れないから、距離をある程度開けるのがベスト。まあチャット未搭載なうえに外部チェット使用は規約違反だから、意外とくっつかないのは難しかったりもするけど』

「なるほど。じゃあなんとかなりそうだ」

 そう言ってレシュリーはとある球を左へと投げる。

 高速回転するその球は球の中で黒い渦を発生させ、やがて目標地点で黒渦が拡大。

 それは一定距離にいる敵を引き寄せる【誘引黒球(ブラックホーラー)】。

『yahks>黒玉そっくりだ』

 yahksが呟くと同時に、レシュリーたちに向かっていった紐人間――ヒューマンボールブラックのPCが向きを変える。

 yahksが説明した通り、彼らは黒玉を目指すという目的がある。そういう仕様だ。それには逆らえない。

 さらに周囲にいたヒューマンボールブラック以外のPCが引き寄せられて紐人間たちとくっついていく。

『Dubhe Wolf>くそ。動けないだもんて』

 yahksの言う通りになったらしい。

『viride ver>これでなんとなると思ったでごじゃろう?』

 一息つく間もなく背後から声。

『viride ver>(しょれがし)、シノビデバッファー権現の力をくら――』

「遅くなったでござるな」

 背後に回った忍者のようなPCを蹴とばしたのはいち早く到着したコジロウであった。

『viride ver>とにかく突撃するでごじゃる。能力は発動した』

 壁に激突して深手を負ったもののviride verが大声で叫ぶ。異呪格闘技"ジャドー"のシノビデバッファー権現は圧倒的な速度で敵を弱体化させながら戦う呪格闘家だった。シノビデバッファーの能力を知っているものであれば、レシュリーたちがどうなったか分かるのだろう、何人かが、最初の援軍たるコジロウに怯まず追撃のために加速する。

『Phecda Prosperity>そーれ♡ 手助けだよ♡』

 魔王レシュリーの近くにいるPhecda Prosperityが踊って歌いだす。近くには同じような衣装のPCがおり同様に歌って踊りだしていた。

 プリズムスターライドルの綺羅綺羅(きらきら) 鬼々羅(ききら)の姿をしたPC、Phecda Prosperityは歌って踊ることにより、周囲のPCの能力を上昇させる。歌って踊っている限り永遠に。その恩恵を受けたPCたちはさらに移動速度を上昇させて、レシュリーたちに迫る。

 が急に追撃するはずだったPCは立ち止まる。

 その威圧感によって。

 威圧感の招待はレシュリーたちの前、そこに佇むひとりの冒険者アルにあった。その腰に差ししてある透明の柄。

 そこから発せられた威圧感によって、その刀は見ないけれど見える。初回突入特典〔伝家の宝刀レジェンダリーウエポン〕。

 一度たりとも抜いたことがないその刀だが、誰しもが抜かせてはならないと感じ取り、そして抜かせないために近づけない、というジレンマが発生していた。

「治療しますね」

 アルとともに現れたリアンが、癒術を詠唱。アリーが負っていた傷を完全に治療する。

『viride ver>はったりだ。どうせ抜かない。能力が無駄になるだろう』

『Phecda Prosperity>ごめん、疲れた』

 能力上昇は歌って踊ることが前提のため、途切れれば止まる。

 好機だったにも関わらず初回突入特典〔伝家の宝刀レジェンダリーウエポン〕の威圧感だけでアルはその勢いを止めた。

「他の冒険者は少し遅れるそうです。魔物が活性化したので」

 おそらく魔王レシュリーの仕業だろう。

「まあ、それでも俺は来たけどな」

「私もです」

 ディエゴが笑いながら登場し、アルルカが静かに姿を見せる。

「予感あってましたね」

 一瞥して、レシュリーに微笑みかけるとアルルカは幻映の湖面鏡(エテリアル・ミラー)を取り出す。

 当然、現れるのはルルルカ<3rd>だった。

『takayana Gross>おいおいおい』

『musa musa>笑えないだろ……』

『very wwwwwwwwwwwwwww>死んだ……』

 その三人の姿に、何人かのPCの顔が絶望に染まる。

 終極迷宮(エンドコンテンツ)において、遭ったら死ぬと言われている死神のような三人が目の前にいるのだ。

 特にルルルカ<3rd>だけは段違いでやばいと全員が記憶していた。

「ずっと入れないのは残念なの。けど五分間、全力でいくの」

「はい。姉さん」

「おいおい、全部取るなよ。こっちにも寄越せ」

 おそらく他の冒険者はまずは最大火力が出せる冒険者を優先で向かわせてくれたのだろう。


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