異世界転生しなければならない物語
「もうすぐだから……」
僕が背負うアリーは息をしていない。それでも僕はそう投げかけて誰もいない城下町を進んでいく。
中央には黒一色の城壁でできた城がある。その周りは異端の島に不釣り合いなほどの絶景で、アリーと一緒にまた見たいと思うほどだった。
けれど今はそんな景色を堪能することもなく、僕はその城へと入った。
城内は城下町以上に静かだった。殺意どころか誰かが息を殺して隠れている気配さえない。
入り口から敷かれる赤絨毯に導かれるように進み、中央の扉を開けると誰もいない王の間があった。
誰も座ってない空っぽの玉座。その横にある台座には驚くべきことに最後の――濃桃色の宝石〔それでも君が〕があった。
罠を疑ったけれど、引き返す意味なんて僕にはない。
僕はアリーを背負ったまま、その宝石に触り――消えた。
***
「おめでとうございます。十個の宝石を集めた冒険者はできうる限りのあらゆる願いを叶えることができます」
白い部屋――いや白い空間かもしれない。壁も境界もどこにあるか分からない。永遠に白い世界が続いている。
そんな中で声だけが聞こえた。
「アリーを生き返らせてくれ! 生き返ったアリーと僕は幸せに暮らす」
「それは……できません。死者は生き返りません」
「【蘇生】や【蘇生球】があるのに?」
「それらの技能はそう見えるだけで、本来はセフィロトの樹に魂が定着する前に、呼び戻しているだけです。世界の理として、魂がセフィロトの樹に定着してしまえば、死者を生き返らすことは不可能です」
「だったら、理を覆してよ」
「それが……願いですか? それが願いなら、セフィロトの樹に魂が定着しても、死者が生き返らせれるように変更はできます。けれど、あなたが生き返らせてほしいと願った彼女は生き返ることを望んでいますか。【蘇生】や【蘇生球】は、そもそも生き返ることを望んでいないと生き返りませんよ」
アリーは拒絶する。拒絶したから僕の【蘇生球】は元から成功率は低いけれど、成功しなかった。
「……他に手はないの」
僕が問いかけるとしばらく静寂があった。周囲をぐるりと見合わしても何も反応がない。白い空間が延々と続いているだけだった。
しばらくして、
「代償が伴いますが、それでもよいのであれば' 'たちから提案があります」
「なんでも言って」
「アリテイシアの魂はセフィロトの樹に定着はしましたが、魔剣化することで酷似した肉体にであれば魂を移し替えることが可能だと考えます」
「でも酷似した肉体なんて……」
「ええ、ですから世界を分割します。この世界を1として10の世界まで作り出すのです。そしてその世界には別のあなたとアリー、そして全人類が存在します。呼び方はそうですね……あなたが決めてください」
' 'たちの言葉は続く。
「とにかく<2nd>~<10th>までのあなたとアリーが作り出されるのです。そして、その世界であなたとアリテイシアはまた出会い、あなたとは違う人生を歩み始める。そうすればあなたがここにたどり着いたように<2nd>~<10th>までのあなたも、おそらくここにたどり着く。その中のあなたにはアリテイシアとともにたどり着くものもいるでしょう」
「誰もたどり着かなかったら? たどり着いてもアリーが死んでしまったら?」
「またやり直せばいいんです。<2nd>~<10th>を作り直します。たどり着くまで永遠に」
「この世界はどうなる?」
「今の時間のまま停止させます。誰も何も関与できないまま。けれどその永遠のような時間は一瞬ですよ」
「分かった。じゃあそれで僕はどうすれば?」
「<2nd>~<10th>いずれかのレシュリーがアリテイシアとともにここにたどり着いた時点で、あなたとレシュリー<2nd>~<10th>に試練を課します」
「内容は?」
「あなたをたどり着いたレシュリーの世界に送り、そこで――さしずめそうですね、魔王として戦ってもらいます。あなたは魔王として三日耐え、もうひとりのレシュリーはあなたを三日以内に倒す、という感じでしょうか。もちろん、あなたにはいろいろな権限を与えます。有利なように見えますが、あなたは基本ひとり。もうひとりのレシュリーは、状況によりますがアリテイシアと世界中の冒険者を使えます」
「分かった」
「そしてその勝者の願いが叶うというわけです。あなたが勝てば、アリテイシアの肉体に、あなたのアリテイシアの魂が、そしてそのままそこでレシュリーとして生きることになるのです。ですが負ければ――」
「いいよ、やるよ。勝ってやるさ」
「ではこれを」
頭上から、禍々しい、けれど美しい剣が落下し、白い地面に突き刺さり亀裂を生んだ。
それが何か一目でわかった。
「アリー……」
魔々充剣アリテイシアを僕は引き抜く。
***
「さて、それでは始まりますよ」
剣を引き抜いた瞬間、声はそう告げる。
きょとんとする僕に声は続ける。
「言ったでしょう、永遠のような一瞬だと。剣を抜いてすぐあなたを含めた<1st>次元は停止し、世界は分割され、そして選定は終わりました」
一秒にも満たない時間で、世界はいつの間にか目まぐるしく変化していた。
「相手はレシュリー<10th>です。ご武運を祈ります。レシュリー<1st>、いえ魔王レシュリー」
そう声は告げると、白い空間が崩壊していく。
恐怖はなかった。高揚しかなかった。
僕は<10th>次元へと移動するのだろう。
そこは僕が転生する世界。
僕がいた<1st>の次元と似てないようで似ている異世界。
僕はその異世界に転生する。
いや転生しなければならない。
これは僕が異世界転生しなければならない物語だ。
だって、これは僕が願った結果、生み出したのだから。
僕が幸せになる以外の結末以外はいらない。




