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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語(1)
882/894

破天

***

 

 最初に魔法陣から現れたのは十人程度だった。魔法陣がそれ以上の数存在しているというのに。

『Phecda Prosperity>ヤッホー♡ みんな見てるー♡』

 下着と誤解されても仕方ないようなドレスを着こなした右目の周りと左頬にハートマークをペイントしたアイドルのような人間が、どこかへと向けて声を投げかける。

 それは偵察用円形飛翔機(ドローン)にではなく、どこか別の場所のように思えた。

『Phecda Prosperity>私は無事だゾ♡ 帰宅困難区域ファイアーウォールのような罠じゃないみたいだゾ♡』

 そう彼女が告げると、次々に魔法陣から異形や人が出現する。紐だけで輪郭を作ったような人間に葉っぱを乗せた大小さまざまな狸、いわゆる力士のような姿をした者もいれば、まるでクローンのような同じ顔、同じ衣装の女性たちに、花の冠を被り服の袖が花のようになったものまで、ゆうに百を超える人、異形が現れた。

 おそらくPhecda Prosperityを含めた十人は斥候だったのだろう。

 レシュリーもアリーも、魔王レシュリーが仕掛けた魔法陣が何なのかを瞬時に理解する。

 同時に、地面が長く細かく揺れた。

「ここにきて世界改変(ヴァージョンアップ)か」

 魔王レシュリーが呟く。それがどちらに有利に働くものか誰も分からない。

『あれが、終極迷宮(エンドコンテンツ)にいるというPCでするか……』

 偵察用円形飛翔機(ドローン)で観ていたイロスエーサから連絡が入る。

 がそこで違和感にアリーが気づく。

「あんた、理解しているの?」

 終極迷宮(エンドコンテンツ)はランク7以上の冒険者にしか認知ができないはずだった。

 当然イロスエーサはランク7ではない。なのに、終極迷宮(エンドコンテンツ)に関する知識が備わっている。

「さっきの世界改変(ヴァージョンアップ)か……」

 世界が偵察用円形飛翔機(ドローン)によって映し出されたPCを誤魔化すのは冒険者たちの脳に負担になるとでも判断したのかもしれない。

 世界改変(ヴァージョンアップ)によって認知させれば、一気に説明の手間も省け、なんとなくそういう存在がいると認識できる。

 それが今後、冒険者にとって不都合な知識になれば再度の世界改変(ヴァージョンアップ)によって認知は剥奪されるだろう。

 世界はそうやって世界にとって都合の良いように、勝手に世界を改変していくのが常だった。

「なるほどね。一気にPCが現れる映像を見れば、冒険者の何人かの脳は処理できずにバグる……と予想していたけど、それは世界にとっても都合が悪かったんだね。即世界改変(ヴァージョンアップ)が入るなんて」

 なんとなく聞こえてきたアリーとレシュリーたちの会話から魔王レシュリーもそう判断する。

「まあいいよ。外の冒険者が理解したところで、何もできない」

 魔王レシュリーは玉座から立ち上がり、

「PCの諸君。よくぞ僕の導きに応じてくれた。ここはキミたちが待ちわびた世界。ここで冒険したかったら――あの偽物を倒してくれ」

『Phecda Prosperity>やったー♡』

 Phecda Prosperityが自身のステータス画面に、表示されているワールド名を見て喜びを露わにする。終極迷宮(エンドコンテンツ)に何度も挑戦し、そこにいるNPCに何度も敗れ、今まで一度の行けなかった世界に、PCたちは降り立った。

 しかも、NPCの招待で。それはずるでもなんでもない。この世界のNPCが歓迎してくれたのだ。

『Dubhe Wolf>とはいえ。まだ一時的だもんて』

 紐で輪郭だけを象った、いわゆる紐人間の姿をしたDubhe Wolfが喜ぶPhecda Prosperityを諫める。

『Dubhe Wolf>よくわからんけど、あのNPCふたりを倒さないと冒険はできないらしいだもんて』

『Phecda Prosperity>でもこの人数だゾ、ラクショーじゃん♡ むしろカワイソーって感じだゾ♡』

『Dubhe Wolf>それもそうだもんて』

 二対百ぐらいの構図だ。数の暴力で簡単に終わる、誰もが簡単な依頼だと思った瞬間だった。

 何人かがいきなり吹き飛び、消滅する。

『zombarc>マジか……何してんだよ』

 誰が吹き飛ばしたのか、その姿を見て何人かが呆れる。

「何をしている……」

『Buddhak's etra>何をしているか、ですかって? それはこちらのセリフなのデスワー。わったくし、友達を殺せなんて命令クソくらえですの』

 それはかつてアリーと戦ったPCだった。終極魔窟(エンドレスコンテンツ)の時は不良番長の女番長八頭だったが、今は鬼の角を生やした女騎士というような姿だった。

 それでも喋り方は変わらず、だからかアリーにもそれが誰なのか認識できた。

 彼女は先の戦いにおいてNPCに加担して、戦闘を行ったが、その行為が思いの外、バズった。

 結果、彼女の配信の閲覧数は爆増した。今回、謎の招待に応じてこの騒動に参加したのは偶然だが、そこがアリーたちの住む世界で、アリーたちを殺せというのが、依頼主の依頼ならば裏切ることこそがBuddhak's etraの信念の現れ、美学だった。

『Buddhak's etra>そもそも、あなたが偽物ではなくて?』

 魔王レシュリーに向かってBuddhak's etraは言い放つ。

「何を根拠に?」

『Buddhak's etra>だって、わったくしのコンタクトリストに表示されているNPCのIDはあちらが一致してますもの』

 そんな機能があることをNPCは知らないだろうが、PCたちには基本技能として、出会ったNPCを識別するIDが確認できるようになっている。

 なぜなら終極迷宮(エンドコンテンツ)には同姓同名でも〈1st〉~〈10th〉の次元の冒険者が存在している。

 それらを区別する機能はあって然るべきだった。Buddhak's etraたちの世界でいうマイナンバーカードのようなものと思えば理解しやすいだろうか。

 もっともコンタクトリストを使っているPCは意外と少なく、IDが違おうが同姓同名だろうが、敵だから敵という認識のPCも多い。

 とはいえそういう識別方法で、Buddhak's etraはアリーをかつて共闘したアリーだと断言。

 だからこそ、転送はされてきたが魔王には従えないと突っぱねる。

「よく分からないけど、じゃあいいよ。そいつも殺して」

 魔王レシュリーが冷たく言い放つ。

『B0DH1・5ATTA>その{言葉}はキミっぽくないなあ』

 恰好をつけるのは相変わらずPCのひとりがそう告げる。

『B0DH1・5ATTA>コンタクトリストのIDなんか{見}なくても、やっぱりキミのほうが{偽物}っぽいよ』

 Buddhak's etraを押さえつけようとしていた豚顔のPCを斬り伏せて、B0DH1・5ATTAが指摘する。彼もまた、別の姿で終極魔窟(エンドレスコンテンツ)にてレシュリーとともに戦い、一騎打ちまでしたPCだった。

 Buddhak's etraを守るように何人かが、周囲を囲む。

 表示された名前にはyahks、HUMA・Ntte117、Shr@vakaとある。

 yahksはBuddhak's etraをライバル視する万年二位の男で、HUMA・Ntte117、Shr@vakaは終極魔窟(エンドレスコンテンツ)をともに戦ったPCだった。

「裏切るのはキミたちだけでいい?」

 魔王レシュリーが笑うのを堪えて問いかける。

「7対100近く。いや魔法陣からはまだまだ召喚できる。この世界に来たいPCはたくさんいるだろうからね」

 いや、笑いが堪えきれなかった。嘲笑が込み上げてくる。

「勝てるのかい?」

 数の差は圧倒的だった。自分の信念と勢いで裏切ったBuddhak's etraも少し顔が引きつっている。バズりを優先し、転生を軽視したからか、彼女に届く視聴者からのコメントも辛らつなのかもしれない。

「勝てるよ」

 レシュリーは嘲笑を跳ね返すように笑ってみせた。

「この人数差だぞ?」

 その笑いがむかついたのか、魔王レシュリーは問い返す。

「キミは、偵察用円形飛翔機(ドローン)を壊すべきだったよ。キミはきっと偵察用円形飛翔機(ドローン)から僕の敗北を見せることで他の冒険者の戦意を奪おうと思ったんだろう。この圧倒的な数も偵察用円形飛翔機(ドローン)越しに見ている冒険者たちの絶望への起爆剤になる。そう考えたから、偵察用円形飛翔機(ドローン)を壊さなかった」

 その通りだった。魔王レシュリーはそうすることで一気に戦意を奪い、願いを叶えた後の世界も自分で支配しやすくしようと目論んでいた。

「裏目だったわね」

 アリーも笑う。通じ合うようにアリーも理解していた。

「魔王のキミが知ってるかは知らないけど、この映像を見ているなかに、いるんだよね。僕が活躍すると嫉妬して、僕が危機に陥ったときに自分が助けたらアリーやコジロウが靡くんじゃないか、って目論んでるやつが」

「靡くわけないのに」

「――誰のことだ?」

 魔王レシュリーにはピンとこない。彼の冒険はアリー以外を大切に生きた記憶がない。仲間はほとんどが死んでしまっている。

「だけど、いたとしてどうなるのさ? ここに来るまでに結界で戦った冒険者はそれ以上進めない。そもそも、ここはランク10の冒険者がいなければ、誰もたどり着けない」

 だから、原点草原レベル10にはアリーとレシュリーしかたどり着けなかった。もしふたりがいう冒険者がここに来るまでに結界内で戦っていないのだとしても、ここに来るなら、アリーかレシュリーが迎えにいくしかない。当然そんな時間はない。

「残念だけど、その人に結界の類は通用しない」

「イロスエーサ、偵察用円形飛翔機(ドローン)でそっちの映像映せるなら、そいつがいる草原の映像映してくれる?」

 アリーがそう告げると、偵察用円形飛翔機(ドローン)がその冒険者の姿を映し出す。ジネーゼが一瞬映像に映ったことから、その冒険者が原点草原レベル0にいることが分かった。


***


 その冒険者――は、上半身裸で赤鬼外套(レッドマント)を羽織り赤鬼防水着レッドブーメランパンツという格好で鍛え上げた肉体を見せつけながら、原点草原レベル0の強敵区域(ボスセクション) 結界伸展エクスパンションフィールド再々構築(リブート)】に向けて長大剣〔多妻と多才のオーデイン〕を振り上げていた。

「ガハハハハハハハハ!! 全世界の美女よ刮目せよ。これがアエイウ・エオアオ様の力だぁああああああああああああ」

 腕の筋肉が膨れ上がり、長大剣を振り下ろす。結界内で戦った冒険者の通行を阻むだけになっていた結界伸展エクスパンションフィールド再々構築(リブート)】に刃がぶつかった。同時に闘気も膨れ上がっていく。

 固有技能【偽装押倒(ギミックブレイカー)】。

 罠やバリアを突破するという規格外の力を持つアエイウ・エオアオ限定の技能が原点草原に展開する結界に作用するのかという検証は数値や過去の事例のみで進められてきた。

 通用するという検証結果は得られたものの、男だらけの検証班が依頼してもアエイウが固有技能を使ってくれるはずもなく、本当に結界を突破できるかの実証は得られなかった。

 もちろん、レシュリーが原点草原攻略のために、それを依頼してもアエイウは突っぱねた。理由は嫉妬である。その後、アリーやコジロウを含め誰が依頼してもその裏にレシュリーの存在を察したアエイウは協力しなかった。

 もしアエイウが最初から攻略に参加し、検証結果が実証されていれば、原点草原攻略は一日もかからなかったかもしれない。

 それでも攻略を進めていくうちに、これ以上活躍されてたまるかという嫉妬で、アエイウは動き出した。レシュリーたちはアエイウがそういう男だと理解していた。

 レシュリーとアリーがいない今、他の冒険者たちが最深部へ到達するには結界を壊す必要がある。

 それをできるのは現時点でアエイウしかいない。

 そう言われれば一瞬でもレシュリーを超えた気になって、有頂天にもなる。

「ガハハハハハハハハ!!」

 結界が破壊されまいと途轍もなく反発しているであろうにアエイウは笑っていた。

「目立っている、目立っている。目立っている。今はこの俺様が一番目立って、活躍しているうううううううう!!」

 全世界にアエイウの映像が映し出されていた。確かにこの一瞬だけは、アエイウ・エオアオはどんな格好をしていても主役だった。

 結界伸展エクスパンションフィールド再々構築(リブート)】に罅が入り、

 バリンっ、と割れる。一つだけではなかった。

 バリン、バリン、バリン、バリン、バリン、バリン、バリン、バリン、バリン。

 連鎖して割れる音が遠くからアエイウたちの耳に届く。

 原点草原レベル1~9で観測していた冒険者、あるいは集配員から全ての結界が同じように割れたと報告が入る。それは結界伸展エクスパンションフィールドだけでなく、元々あった見えない結界――ランクによって侵入を阻む結界さえも破壊したという報告だった。

 イロスエーサがアエイウへと視線を送ると

「俺様よりは目立つなよ!!」

 意味を察して怒号が飛ぶ。

「突撃っ!!」

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