秘策
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結界の消滅とともに、
「なんだ?」
世界が一瞬バグる。
それこそ、冬からいきなり夏になったように、景色が一変するように
「暗くなった?」
昼が夜にと変わる。
結界内の戦闘で確かに時間は消費したが、それでも夜になるにはまだ余裕があったはずだった。
なのにその景色がいきなり変移したのだ。
「これどういうこと?」
結界の消滅とともに近づいてきたレシュリーが問いかける。
「さっきまで昼だったのに」
「他のところ、というか全世界同時で一気に夜になったようであるな」
イロスエーサが各地の集配員から連絡を受けてそう告げる。
「結界消滅とともにそういう罠が仕込まれていた、としか思えねぇな」
「四季を変えることができる結界だった、と考えればそういう罠があっても確かにおかしくない」
初回突入特典〔昔々、先行く所に〕を持つトワイライトが告げる。
時を止めることができる特典があるぐらいだから時を進める罠があっても確かにおかしくない。
「問題はどう夜を過ごすかだな」
夜になった、なってしまったということはもう取り返せない事実だ。
ディエゴが言う意味を全員が理解していた。
殺気がひしひしと伝わってくる。
昨夜、何が起こったかは全員が把握していた。
昼に襲ってきたモールワームは全滅させたはずだが、そもそも夜行性の魔物もいるのだろう。
「〔休憩室〕に逃げることもできますが、それだと……」
「そもそもランク6以下は入れねぇからなしだ」
「ですよね」
黒騎士キングのときディレイソルをそもそも一人にしてしまったのはディエゴにとっても反省点ではある。
想定外の臭さに逃げ出したとはいえ、超級の冒険者がやっていいことではない。
仮に入れる冒険者だけ〔休憩室〕に退避しても、他のランク6以下の冒険者が夜通し戦うことになる。
「さて、踏ん張りどころか」
ディエゴは久しぶりに訪れた魔力切れの警告頭痛を無視して、迫る殺意に殺意で挨拶する。
より強大になって殺意が届き、狂靭化した魔物たちに届く。
「あの……」
声を発したのはデデビビだった。
魔物の殺意を受けて少し腰が引けていて、レシュリーとアリーのちょうど後ろに隠れるように立っていたが、それでも意見を出そうと声を上げた。
「レシュリーさんたちは今日の夜、これから先に進もうって考えてますか?」
「いや……さすがに進行は無理だよ。欲を言えば原点草原レベル9の結界まで進みたかったけど」
「そうね。普通の魔物ならともかく狂靭化した魔物と戦い続けるのは無理がある。昨夜を考えれば数だって多いはずだし」
「だったら、戻りませんか?」
デデビビが言う。
「何か策があんのか? ここから原点草原レベル7に戻るのだって一筋縄じゃいかねぇぞ。だからこそ最善でもないが、ここで立ち向かおうとしてんだぞ」
「あります。僕だけが使える技能なら……」
「そうか……でもそれだとデビの負担が……」
「覚悟のうえです。明日の結界の戦いだって参加するつもりですよ」
「軽い気持ちで言ってないわよ。デビは。それにユリエステもいるし、ソハヤの薬だってある」
「美味い飯もあるでござるよ」
アリーとコジロウがそう続ける。デデビビの覚悟を後押しするように。
「それに私思うのよ。魔王が夜に狂靭化した魔物を差し向けるのは、私たちに対処させて疲弊させようという魂胆よ」
「そうでござろうな。昨夜はそうでもなかったでござるが、原点草原レベル8の敵の強さと結界の罠を合わせれば、その効果は絶大でござる」
「明日――つまり最終日に万端な状態で向かわせない、って少し卑劣だけど有効だわ」
「でも、僕の技能なら――きっと平穏に明日を迎えられます」
「分かった。やろう。結局、朝にしか行動できないならデビの覚悟を優先するよ」
「さっきからキミたちだけで何を納得しているの? どういうことさ?」
シャアナはデデビビが札術士だと知ってはいるが、札術士の技能をそこまで知らない。
「使えばわかります。僕は大変なことになると思いますが、皆さんは慌てないでください」
そう告げるとデデビビは札術士の技能【構築】によって山札を創造。
「さあ僕に捕まって。仕組みは【転移球】と同じです」
つまり転移する冒険者に触れておけば全員が転移する。レシュリーが右肩にアリーが左肩に触れ、そのふたりに触れるように、全員が誰かに接触。
「準備できたよ」
レシュリーがそう告げると、デデビビは山札に手を置いて告げる。
「【降参】」
それは潔く自ら負けを認める言葉を模した技能だった。
瞬時に設定された場所――原点草原レベル6の拠点へと、全員が転移する。
きっと魔王レシュリーも唖然としているだろう。
本来なら戦わせたかった場所から全員が逃げ出した。
たった一人の冒険者の降参で。
――その代償として、デデビビは深く傷つき、拠点に到着した時点で倒れた。
「うわああああああ!」
ちょうど討伐当番の休憩中だったクレインが突然現れた一団と傷つき倒れたデデビビの様子を見て悟る。
「デビってば――【降参】使ったの? あんまり使わないでっていったのに!!」
慌てて立ち上がり癒術会を呼びに行こうと立ち上がる。
「イロスエーサ、ユリエステに連絡」
「もうしてるである」
「ちょ、これどういうこと? なんでこの子が、えっ?」
事情を知らないシャアナが驚き
「なるほど。これが代償か。大した技能だ」
ディエゴがなんとなく察して感心する。
「ユリエステどのが減った分は、拙者が応援を」
「いや、お前ら、明日組は休んどけよ。行くぞ」
「ここの魔物討伐はどうする?」
「慌てた様子もないから対応できてるだろ。まあ、道すがらのやつは倒してやる。ユリエステがこっちに来るタイミングで原点草原レベル7のやつらも退避したっていい」
「なんかよくわかんないけど、この子にありがとうって伝えといて、ボクも手伝ってくる」
ディエゴ、トワイライト、サスガが外に出ていくのに釣られてシャアナも続く。
ディレイソルもそうしようと思ったが予想外の疲れが出て立ち上がれない。
「すごいなあ(?)」
それがレベルが高くてもランクが低い自分とディエゴたちの差なのかもしれなかった。
「ぼくは料理をもらってきますよ。道中襲われても〔休憩室〕なら安全ですし、でもできるだけ早く帰ってきます」
全員が全員、デデビビを救うために動き出す。
それでもデデビビのお陰で魔王レシュリーとっては想定外の、安全な夜が過ぎていく。




