鈍感
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唐突にディレイソルは自分ひとりになって、一瞬唖然とする。
目の前には黒騎士キング。他の仲間たちはどこかへと消えた。
けれどなんとなく察する。
「ああ(?)これが言ってた理由かぁ(?)」
特典という正式名称は知らないけれど、なんとなく未知の力がランク7以上の冒険者には備わっていて、6以下の冒険者は認知できない。
その未知の力を使ってディエゴたちはどこかへと消えたのだ、と。
「じゃあ、時間稼ぎしなきゃ(?)いや、自分の力を試してみるのもありかも(?)」
ディエゴたちにもその鍛えた力は期待されていた。
ならひとりでも応えたっていい。
それになんとなくディエゴたちが姿を消した。いや身を隠した理由も分かる。
ランクが上がるにつれ、五感はどんどん鋭くなっていく。
つまり危機管理能力がランクアップとともに上がっているというのがディレイソルの見解だった。
「確かにこの臭いは耐えれないよなあ(?)」
ディレイソルはもらった聖水を振りかけて、臭いを多少和らげる。それでも臭い。
その臭いはランク7以上の冒険者にはもっと鋭敏に感じるのだろう。
ディレイソルが耐えきれている理由はふたつ。
ひとつは旧火山の近くに住んでいること。旧火山の近くには硫黄の臭いが常に漂っていることもあり臭いに耐性があった。
もうひとつはランク1であること。五感が他の冒険者より、鋭敏ではなくむしろそれに比べれば鈍感。
もちろん、商人たちと比べれば冒険者であることで多少は五感が鋭敏になっているが、ランク2以上と比べて、個人差があれど劣っている。
実はランクアップはそういう数値にできないものの向上も存在していた。
ディレイソルはその知識を持っていたがあまり興味もなく今までレベルアップに勤しんできた。
五感が鋭敏になったところでどう役に立つのか本人もぴんとこなかったのもある。
ただその結果が今につながる。
鈍感さがディレイソルに腕試しの場を提供した。
「よし、やろう(?)」
〈上限突破〉の才覚を持つディレイソルはランクごとに制定されたレベル上限を無視してレベルアップができる。
ディエゴと出会う前も出会った後も、変わらずひとつの技能だけで戦い続けレベルアップしてきたディレイソルの現在のレベルは3200。
ランク10のレベル上限が1750と言われるなかで、それをゆうに超えたレベル。
このままランクを上げていったらどうなるのか、密かにそれを楽しみにする冒険者がいるがディレイソルは気にもしていない。
だからこそ飽きもせずにランク1のままでレベルアップができただろう。
黒騎士キングがたったひとり残るディレイソルに気づいて、少しだけ加速。ゾンビの足では加速してもなお遅いが、確実に向かってくるのは分かる。
歩みの力強さは伝わってくる。
ディレイソルはそんな黒騎士キングに立ち向かっていく。
自らも歩を進め、徐々に加速、真正面からぶつかり合う。
黒騎士キングが斬首剣〔悲願のトネイリー〕を振り上げた瞬間だった。
さらに歩む速度を上げてディレイソルは両手で握った長剣〔揺蕩うエーゲ〕を黒鎧へと突き刺す。
長剣〔揺蕩うエーゲ〕には闘気。
ディレイソルが唯一使うのは、使い続けてきた【鎧通】。
いわば縛りプレイ。他の剣技も覚えてはいるがしっくりこなかった。
自分に合っていたという理由だけで使い続け、その熟練度はおそらく原点草原に集まった冒険者の誰よりも高い。
そんな高水準の【鎧通】が、衝突。
ぴきっ。
まずはそんな音。
刹那、鎧がひび割れる。
勢いのまま、
「うおおおおおおおおおおっ(?)」
ディレイソルは押し込むとディエゴやサスガですら傷をつけることが難しかった黒鎧が一瞬にして瓦解していく。
さらに、そのまま黒騎士キングの腐った肉体を貫通して、破裂させた。
「倒、した(?)」
しばらく待っても黒騎士キングの体は再生されない。
けれど季節は夏から秋へと移り変わり、結界内の景色も様変わりしていく。
「終わったのか……」
様子を窺っていたディエゴたちが〔休憩室〕から出てくる。
ディレイソルをひとりにしたことに気づいてすぐに出ようとしたディエゴたちだったが、ディレイソルが立ち向かっていく様子を見て、少しだけ見守ることに決めていた。
そして季節が移り変わったことで外に出たのだ。
「けど、結界は壊れてないでするな」
「でも、死体はここにある」
指さす先に黒騎士キングの下半身だけの死体が残っていた。
近づいて確かめようとした矢先、
「待って」
シャアナが止める。
「なんか肉片集まってない?」
言われて気づく。ディレイソルの長剣〔揺蕩うエーゲ〕についていたはずの肉もきれいになくなり、そして集まっていた。
「さすがに無限復活じゃあないよなぁ?」
ディエゴが疑問を呈するとともに黒騎士キングが復活。
黒鎧こそ壊されたため着てはいないが、そこにはゾンビではない、きちんとした肉体が存在していた。




