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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
874/881

腐敗

 ***


 レシュリーたちが原点草原レベル8と9の境にある結界に至るまでの道中には死骸が転がっていた。

 すべてディエゴがひきつけ、倒したモールワーム(先行蛇似土竜)の成れの果てだった。

 そして結界に至るまでそれ以外の魔物は姿を見せなかった。

 原点草原レベル8の穴だらけの草原はモールワーム(先行蛇似土竜)の仕業で、そしてこの草原にはモールワーム(先行蛇似土竜)しか存在していなかったのかもしれない。

 そしてディエゴとモールワーム(先行蛇似土竜)の戦いの音に引き寄せられるように、次々とモールワーム(先行蛇似土竜)が出現し、そして斃れていった。

 山ほどの死骸が、山脈のように長く長く連なり、結界まで続いている。

「遅かったなあ」

 青紫の血で防具と頬を染めたディエゴがレシュリーたちを迎える。

 まるで悪魔のようでもあった。

「そンじゃ行こうぜぇ」

 休むことなくディエゴが告げる。休憩はレシュリーたちが着くまでに済ませておいたというような言いぐさだった。草原に放置はよくないが、料理を包んでいたであろう包み紙が地面に散乱している。

 もう休憩は取った、と教えるためにわざとだろう。

 結界に進む直前に、その包み紙を拾い上げて【収納】に入れる。同じ道具は99個まで、という縛りがあるが、同じ道具でなければ無限に収納できる【収納】はこういうときに役に立つ。

 手元がかさばるからポイ捨てをするという言い訳は冒険者にはできない。【収納】されている道具は死亡時に自動的に闇市に流れるため、【収納】に自分の癖や、ゴミなどを溜めこんでしまうと、死亡時にそういう人だったと見られがちになるため、【収納】内の断捨離は意外と必須だったりする。

 ディエゴが早々に結界に入ってしまったのでトワイライト、シャアナ、サスガ、レストア、ディレイソルもそれぞれレシュリーたちに挨拶して結界に入っていく。

 もっともレシュリーたちも結界の前でその戦いを見守るため、その結界に佇むボス――ラインスロット・レッサー・ドゥラグーン、通称キングの姿を見ることができた。

 なんというか肌が青白い。遠くでその顔を見たとき、少し感じた違和はそれだったのかもしれない。

 他の黒騎士になぞらえるように黒衣にその身を包んでいる――キングの場合は黒鎧だった。胴体を覆うのは黒鎧、小手も黒く、膝したまでの鉄鋼靴も黒い、黒布の長裾丈に長袖なのは動きやすさを重視してのこと。

 重装備というより軽装備。頭上に浮く四つの黒穴は【収納】使用時に出現するものにそっくりだった。

「覇気がねえ」

「というより尊厳がない」

 目はとろんとしていて虚ろで焦点は合わない。口は半開き。見える歯は抜けているか欠けていて望遠では確認できなかったが左耳朶は欠け、右耳はなかった。

「つか、ゾンビ臭ぇ」

 ディエゴが鼻を摘まむ。結界があったおかげで、原点草原レベル8にその臭いは届いてなかった。

 けれど結界があったせいで、結界内はその臭いで充満している。本来、ゾンビは外に多く他の魔物と出現することも多いため、その臭さは紛れていることが多い。

 しかし目の前の――さしずめ腐敗の黒騎士キングは結界内という臭いが籠る場所で、冒険者たちが来るのを待っていた。

 その臭いも一入だった。何日も風呂に入らない人間の衣服にこびりついた汗の臭いと、腐った生卵と牛乳が入り混じったような猛烈な臭さだった。

「聖水は試してみるでするか?」

 サスガが問いかける。

「効かねぇだろ。というかあるなら、おれたちに振りまけ。ゾンビ臭がまだましになる」

 言われてサスガが聖水を振りまく。何時間効くかどうか不明だが振りまかれた香水の匂いによって、我慢できる程度の臭いに変わる。

 とはいえ、匂いを消そうとして強烈に香水を振りまいた結果、臭いというようなぐらいのマシさだった。

「最終手段としてぼくの〔休憩室(レストルーム)〕があります。ディレイソルさんは入れませんが」

「ならぁ、残ってる聖水はディレソルに渡せ」

 言われるがままサスガが聖水をディレイソルに渡す。

「それじゃあいつも通りに。がトドメはディレイソル、お前だ。見せてみろよォ。成長したお前の強さをよォ」

「はい(?)」

 期待に応える返事だったのか、それとも動揺の返事だったのか、相変わらず疑問形でそれは分からなかった。それでもその返事は力強い。

 トワイライトが走り出し、サスガが並走。

 サスガは特典〔七天罰刀(セブンディザスター)〕を抜いている。

 トワイライトが聖剣〔隕鉄のルバルトハウアー〕を握りしめ、癒術を詠唱。全剣師たるトワイライトは癒術も階級4まで詠唱可能だった。

 【魔壁守鎧(マジカルソリッド)】を全員へと張り巡らせ、突撃の態勢を整える。

 並走していたサスガが効力の発揮とともに加速。

 侍師という特別職(スペシャル)のサスガは刀による一振り、一振りが奥義技能と化す。

 鞘から振り抜いた一振り目【寒星(かんせい)歩兵(ふひょう)】が黒騎士キングの鎧へと当たる。

「意外と硬いでするな」

 傷すらついてないその外装に思わず感嘆する。

「状態異常は期待できないかもでするなっ!」

 特典〔七天罰刀(セブンディザスター)〕は奇数回の攻撃で状態異常が高確率で付与するのだが、黒騎士キングがゾンビということを鑑みても状態異常は期待できないだろう。

「続けろっ!」

 ディエゴがサスガと黒騎士キングを飛び越え背後に回る。頭上を飛び越える際に【弱火】を連続で詠唱。初回突入特典〔詠唱が必要がない幸せ(トリガー・ハッピー)〕によって階級3の魔法は無詠唱での発動が可能だった。

 黒騎士キングの頭上に浮かんでいた四つの【収納】が忙しなく動き、放った【弱火】を飲みこんでいく。

「てめっ、面倒っ!」

 てっきり武器を取り出しやすくするだけと思っていた四つの【収納】の予想外の動きに毒づきたいのも理解はできた。本来、【収納】は魔法や癒術は収納することはできないからだ。

 いらつきついでに【弱火】を連射して、四つの【収納】の動きをディエゴ側に集中させる。

 サスガの攻撃も九振り目、【明星(みょうじょう)右車(うしゃ)】へ到達していた。

 鎧への攻撃は止め、肘や膝など黒布で覆われた部分を斬りつけたものの強度は同じ。

 鎧を着ている、というよりも鎧も含めて黒騎士という魔物というべきなのだろう。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛う゛うう゛う゛ううう゛ううう゛うう゛」

 そこまで攻撃を加えて、黒騎士キングが唸り声をあげる。

 空中の【収納】に振り上げた両手を突っ込み、武器を取り出す。【収納】から取り出す向きは関係ない。表側で【弱火】を【収納】していても、裏側で中のものを取り出すことができる。

 右手で斬首剣〔悲願のトネイリー〕を取り出し、前へと一振り。左手でディエゴの放った【弱火】を取り出す。

 しかも左肘が本来とは逆に曲がる。腐っているからだ。軌道がディエゴへと向く。

「おいおいそりゃあ……」

 連射していた【弱火】の軌道を変えて自らに向かってきた【弱火】をぶつけて相殺。

 斬首剣〔悲願のトネイリー〕はそのまま振り下ろされ、サスガを狙う。

 がぢんっ!

 聖剣〔隕鉄のルバルトハウアー〕でトワイライトが防御。防御の任せてサスガがさらに十三振り目の【残月(ざんげつ)猫匁(みょうじん)】を打ちつける。

「おい、忘れてないだろうな」

 ディエゴが黒騎士キングに問いかける。

 猛攻を仕掛けるのは三人だけじゃない。シャアナの詠唱が終わっていた。さらにディレイソルも三人に少し遅れて黒騎士キングに迫る。

 そんなさなか、変移する――


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