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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
871/873

後々


***

 

 気絶したチバルは野営地に寝かせておくとして

 ソハヤはとあるレシピを書き記してそれをコーエンハイムに渡した。

「これはなんなんだなあ?」

「お礼太郎」

 簡単にそう告げたソハヤはそれ以上は言わずに、机に広げていた材料を片付けていく。

「これ、たぶんヤセ薬の解毒剤ですね」

 レシピを見たジョバンニはそう告げる。

「簡単に手に入る材料だけで、こうも簡単に作れるとは脱帽ですね」

「バカ兄太郎はいつも雑に作る。だから嫌い次郎」

 嫌悪する理由をさらりと吐露して、解毒剤を作って褒められたことが照れ臭かったのか、いそいそと野営の奥へと消えていく。

「あとで褒めてやらねえとなあ」

 コーエンハイムが頬を掻きながら手渡された解毒剤をユリエステに投げ渡す。

「危ないですわよ」

 投げるとは思っていなかったユリエステが慌てて受け取る。

「それで足りるかい?」

「レシピもあるので大丈夫ですわよ」

「これで一件落着になればいいなあ」

「ええ、まったくです。とはいえヤセ薬が根絶できるわけもなく……」

「一番いいのはソハヤが副作用のないヤセ薬を作るのがベストなんだろうが……」

「副作用のない薬なんてありませんよ。回復錠剤(タブレット)だって飲みすぎはダメですし……」

「ソハヤもたぶん作りませんよ。作りたいものだけを作る。あのこはそんな子だろうし」

「まあそうだろうなあ。じゃあこの件は、この戦いが終わっても経過観察ってことで……ついでに解決したら良いんだがなあ」

 ところどころから聞こえてくる魔物の吠える声と断末魔が野営地に届き、ここが街ではなく戦いの最前線であると、現実に戻される。

「チバルと来た商人たちはイロスエーサたちに事情を話して帰らせるとして、いよいよ、コジロウから連絡が入ったみたいだなあ」

 集配員がコーエンハイムへコジロウから連絡がきたことを【電波(レパシー)】で伝えてきた。

 集配員しか使えない【電波(レパシー)】だが、コジロウも使用を許可されていた。もちろんコジロウとコーエンハイムも【電波(レパシー)】で通話可能だが、チバルの一件が終わるまでコーエンハイムは一方的に通話を遮断していたため、コジロウは別の集配員に伝言を頼んでいた。

「さて、誰が行くかなあ」

 参戦できる冒険者も数少なくなっている。

 原点草原レベル7に、次のレベル8、そして9はレシュリーとアリー以外が対応しなければならない。イロスエーサも今は調整に走り回っているが、10に同伴して全てを撮影する役目を担っている。

「そう考えるとそろそろ出番かなあ……」

 とはいえコーエンハイムは集配社の長として、そして十本指であるという体で参加している。

 ユリエステもそうだろう。イロスエーサは野営地をすべてのレベルに設置する予定に変更していたものの、魔物の強さを考えるとこのあたりが癒術会的にも限界。

 コーエンハイムの考えを読むようにユリエステもそう思ったのだろう、自然と目が合う。

「ふたりは決まりだな。とはいえ戦力的に考えると……最小限で行きたいんだなあ」

「ジャア、俺ガ行こウ」

 野営地の周囲から聞こえていた魔物の声はいつの間にか治まっていた。

 そしてふたりの野営の天幕へと顔を覗かせたジジガバッドがそんなことを告げる。

「きゃあ」

 口周りにどっぷりと血を付けたウェアウルフの姿で。

「ああ済まなイ。すっかリ人間に戻るのを忘れていタ」

「忘れていたって物騒な……」

「野蛮ですわよ。ジジガバッドさん」

 悲鳴を上げたことを取り繕って、ユリエステは怒鳴る。

「まあまあ、けどそれだけ頼もしいんじゃないかなあ。一体、今までどこに隠れていたんだろうなあ」

 クルシェーダと肩を並べる逸材だが、クルシェーダと違って風の噂すら聞かなかった。

 コーエンハイムたちにとっては長い間行方不明になっていたランク7の怪獣師以外の情報を持っていない。

「そリゃ、俺は言っていいかわからないガ、異端ノ島にずっといタんだ」

「はは。そりゃ嘘でも面白いなあ。あそこは瘴気があるせいで、冒険者も正気じゃいられないって話なんだよなあ」

「何セ俺ハ特別だからなァ」

 コーエンハイムやユリエステのランクでは〔自動変身(オートリプライ)〕の説明をしても理解できないのは分かっているため、そういうものだと認識してもらう他なかった。

「なるほどなあ。これは世界の仕組みを知る意味でもランク7になる必要があるなあ」

 察したコーエンハイムが理解できないことを理解して、そしてそういう理解できないものがあることも理解していてそう告げる。

「最終決戦みたいな雰囲気あるのに、このあとも高みを目指すってのは世間は面白いんだよなあ」

 常に好奇心が生まれ続ける世界にコーエンハイムは感心しながらも、

「で、三人目も決定として、他に欲しい人材はいるかい?」

「いや、いらなイ。正直、俺ひとりでもいいぐらいダ」

「傲慢じゃあないかなあ?」

「そうでモない。結界のボスは見てきタ。あれはできれば人数は少なければ少ないほどいイ」

「こっちにも事情があるんだけどなあ」

「あア。だから三人デいイ。いや、あー、またクルシェーダに怒られそうだガ、俺ハあまり喋り慣れてなイ」

「三人で行こう、でいいんじゃない?」

 思わずレシュリーが助け舟を出す。天幕に入ろうと思っていて話し声が聞こえたから入れずにいた。

「そうソウそれだ。ふたりは援護してくれれば助かル。俺ガなんとカする、してみせル」

「ちょっとは戦わないと留守番させているアギレラに怒られそうなんだけどなあ」

「ですが心強さは折り紙付きですわよ。ちょっと野蛮ですが……」

 ユリエステも何回か驚かされた仕返しに皮肉を込めたがその力は認めていた。

 何せ、野営地の周囲にいた魔物を全滅させたのはジジガバッドで、野営地の護衛役だった冒険者が手を出す暇なく殲滅させていたのだ。

「けどよろしくお願いしますわよ」

 ユリエステが手を差し伸べる。

 ジジガバッドは握手しようとして、少し汚れているのに気づく。

 申し訳なさそうに裾で手を拭いてから

「こちらこソ」

 握手をした。

「よろしく頼むんだなあ」

 コーエンハイムもジジガバッドの肩を叩き、天幕の外へと出ていく。自分の準備と集配員たちへの調整があるのだろう。

 ユリエステも握手をし終えて一礼。コーエンハイムに続く。こちらも癒術会の指示がある。 

 どちらもこの戦いの後のことも考えて動かなければならない責任があった。

「すまなイ。助かっタ。こういうことは慣れてなくてナ」

 レシュリーの助け舟にジジガバッドは心底感謝する。

「いいんですよ。仲間ですから」

 レシュリーの少し青臭いセリフに

「くっ……ははは」

 ジジガバッドは笑い、そして中てられたようにこう告げる。

「いいもンだナ。仲間ってのは」

 その後も笑って野営地の天幕を去ったジジガバッドは、ユリエステとコーエンハイムと合流。

 原点草原レベル7と8の境にある結界へと突入した。

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