邁進
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結界が破れた途端、腰が抜けたようにジョレスとユテロが倒れこむ。ジェニファーの近くにいたからかクレインは体を支えられなんとか立っていられた。アテシアは肩に乗るムィにエサを放り投げ、ムィは肩に乗ったまま餌を食べてみせる。
ハエトリグサの消滅とともに周囲にあった土管は消滅。
ただ結界がそこにはあったと言わんばかりに紅葉に違和感を残す緑の草原があった。
ハエトリグサの全身が緑だったので、周囲の景色もその姿に合わせていたのかもしれない。
そんな戦闘を終えた冒険者たちのもとに真っ先に駆け寄るのはデデビビだった。
「すごい、すごい。やっぱりみんなはすごい」
ジェニファーに支えられていたクレインに抱き着くように飛び込んで、デデビビは戦いに参加した仲間たちを絶賛する。
デデビビだけは唯一人数制限で入れなかったが、仲間たちの勝利に悔しさはなかった。
「抱き着きすぎだよ」
「ダイスキスギマスネ」
いつまでも抱き着いていたデデビビにクレインとジェニファーがそれぞれ違う感想を描く。
慌てて離れたデデビビと抱き着かれていたクレインはジェニファーの感想で赤面。
「次はデビの番だね」
照れ隠しのようにクレインがデデビビにそう告げる。クレインたちは結界を破壊した制約で先に進めないが、デビはこの先に進むことができる。
「いや、僕もここに残ろうと思うんだけど」
「ダメだよ。デビならまだこの先、きっと役に立つと思うよ」
「立つかなあ。この先って原点草原レベル7だから僕ひとりじゃ進めないの分かってる?」
「そうだけどさ。でも……」
「ありがとう。クレイン。そうだね、僕は進むよ」
きっとクレインはデビが活躍するところを期待したうえで先に進めと言っているのだろう。
「ZDSW!」
聞き耳を立てていたのかアテシアが話に割り込んでくる。
「ASSなんて!」
「そうは言ってもさ……」
「ZDSW! ZDSW!」
そう連呼して、意外と本気で叩いてくる。
「痛いってっ! でも、ハエトリグサはアテシアの、あの能力がなかったら勝てなかったんだから……意外と功労者だ、よ」
叩かれながらデデビビはアテシアを褒める。、
ちなみにあの能力というのはデデビビたちには特典の力がきちんと認識できず、名称も分からないためそう言っていた。
「Sですの?」
まんざらでもないのか、アテシアの叩いた手が次第に止まる。
「それを言ったらジェニファーもだろう?」
「だべさ」
ジョレスとユテロも自然に集まり、あたかも勝利の余韻に浸る感想戦のような会話が始まる。
「あの音はやばかったっべ」
「確かに」
「ノイズキャンセラーだっけ? そんなものいつのまに持っていたの?」
「アラユルコトヲソウテイシテ、アラユルソウビヲジサンシテイマス」
「どこにそんなに物が入るの?」
「スクロール・ポケトノシヨウニヨリ、アラユルモノハジサンデキマス」
「今流行ってるらしいけど、そんなものまで取り入れているのか?」
「どういうこと?」
「【収納】の魔巻物がふたつあれば、商人でも馬車などなしで輸送費が運搬できるから、今流行らしい」
「それ今は逆に【収納】の魔巻物は転売されるぐらいに値段高騰していて、馬車のほうが安いらしいよ」
「なんだそれ」
「とにかくジェニファーは【収納】の魔巻物を利用して換装の装備を出し入れしたんだね」
クレインも魔力を使用しない【収納】は使用できるが、魔巻物に取り込まれた時点で、使用には魔力を多少は使用するため、クレインは魔巻物全般を使用できない。だから使用できるジェニファーが少し羨ましくもあった。
***
会話が弾んでいるうちに、レシュリーがアリーやソハヤを引き連れてやってきた。
「みんな。よくやったね」
「すごかったわよ」
「でもなんでデデビビはいなかったの? 人数制限だった?」
「そうです」
「あー、やっぱりそうか……」
「でどうする?」
「行きます」
アリーの問いかけに大声で即答するものだから、レシュリーの肩が驚きでビクッと動いた。
「もしかしてもう決めてた? ここで待つ選択肢はもう消去したんだね」
デデビビが力強く頷くのを見てレシュリーが笑い返す。
反対の言葉はなかった。
「ここからは拙者が先行するでござるよ」
原点草原レベル7はランク7以上の冒険者が先に進む必要がある。
そうなるともう先行できる冒険者の数が限られていく。
ランク8からはレシュリーやアリーが先行しなければならない。
「できるだけ、大勢で進もう。離れすぎるとランク6以下は入れないかもしれない」
「コジロウは偵察をお願い。僕たちはまずは野営の設営と、襲いかかってくる魔物の対処を優先する。護衛の冒険者の人が対処できなそうなら、野営地は撤退しよう」
ぞろぞろとやってくる冒険者たちに号令してレシュリーたちは進んでいく。
「いってらっしゃい」
クレインが原点草原レベル7へ向かう冒険者たちへと手を振る。
けれどその言葉は、レシュリーたちにくっついて進んでいくデデビビへと向けられた言葉のようにも思えた。




