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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
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消音

***


「これ、どうにかなんないの!」

 クレインが耳を抑えて、怒鳴る。

 雑音の中、どうしても仲間に言葉を伝えようとすると大声になるのは仕方がなかった。

「ドゥダダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダッ!」

 そんな騒音が一瞬止まり、標準がジョレスに合わさる。

「オレかよ」

 立ち止まって赤外線を目で追っていたジョレスは自分に照準が合わさったと悟り、慌てて動き出す。

 けれど一度定まった照準はジョレスを逃がさない。

 砲弾が発射され、

「ドゥダダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダッ!」

 雑音も再開する。

 砲弾は幸い、通常の弾丸と比べればそんなに速くはない。さらにいえば大きいゆえに視認もしやすい。

 ただその砲弾はひとつひとつが時間差で飛んでくるため、避けるのが難しい。

「なんとかする!! せめて音だけでもなんとかしてくれ!!」

 それでもジョレスは周囲に聞こえるように大声で叫んだ。

 ジョレスは大声を出すような人間ではないが、雑音のせいで聞こえないことを懸念した。

 ううんっ、と咳払いして砲弾に備える。

「なんとかって、いったいどうすりゃいいの?」

「ジェニファーはなにかできないべか」

「デキマスヨ」

「そっか。……ってできるの?」

「デスガ、カンソウガヒツヨウデス」

「じゃあ、お願い」

「デハ、2フンホド、ジカンカセギヲ。カンソウチュウハ、ムボウビニナリマス」

「分かった」

「アテシア、ユテロ、ここはボクたちで守ろう」

(了解)KR(かく乱)しますわ」

 ムィをクレインの肩に預けて、アテシアは走り出す。

 いつもはムィとともに戦場を空を飛び回っていたアテシアにとって、久しぶりの感覚だった。

 もちろん、街中では走り回ったり歩き回ったりするが、戦場と街中は違う。

 戦場ではいつもムィがいたが、雑音のせいで今はいない。

 それでも、アテシアは戦場を駆け抜けていく。

 ハエトリグサが何かを察して、ジェニファーへと自身の狙いを定める。

YM(やらせません)わ」

 長弓〔威厳ある淑女アージェイル〕で矢を放ち、ハエトリグサの注意を引こうとするものの、向いたのは葉だけ。

 二つの葉だけがまるで別の意志があるかのようにアテシアのほうへと向かってくる。

 先端だけが尖るように葉を丸めて、まるで槍のように突き刺す。二連撃。

 どちらともアテシアは回避したが、地面を穿つその威力は肝が冷えるほどだった。

「|S《そっち」IKWY(行きましたわよ)!」

 ハエトリグサの本体はジェニファーから狙いを変えなかったことを矢継ぎ早に伝えて、依然、アテシアはふたつの葉を相手取り、立ち回っていく。駆け回りながら長弓を引き絞り、確実に矢を当てるのは特典の効果ではなく、実力だった。そもそも特典〔目すれば当たるアテンションエコノミー〕は特典所持者が指定した箇所を狙うように全員の攻撃にある意味で追尾機能を付与する特典で、もし発動していれば、ジョレスもその対象になってしまう。

 そうなると今まさに砲弾をひとつひとつ剣で捌いているジョレスはハエトリグサを狙おうとしてしまうことで、砲弾を捌けずに致命傷を受けかねない。

 ただアテシアの頭の中では、とある打開策を思いついていた。

「ドゥダダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダッ! ドゥダダダダダダダダッ! ドゥダダダ――! ――――――――――――! ――――――――――――!」

 アテシアにも聞こえていた騒音が突然、聞こえなくなる。

 ジェニファーのほうを見れば、クレインとユテロがふたりしてジェニファーを担ぎ、逃げ回る姿があった。

「オロシテクダサイ! モウ"ノイズキャンセラー"ハ、ハツドウシテイマス!」

 ジェニファーの換装に気づかなかったふたりにそう訴えながらも、ジェニファーのいうところのノイズキャンセラーは発動しており、不快な雑音が一切消えていた。

「捌き切ったっ!」

 同じく気づいていなかったジョレスの大声が無音のなかに響く。

「えっ、あっ、ごめん」

 気づいて恥ずかしくて謝ると

「ふふっ」

 とクレインとユテロも笑う。自分の行動もなかなか笑えるものだった。

 デデビビが戦いに参加できなかったことで、自分たちにやれることを必死でやる、をした結果だった。

 自然と全員が近くへと集まる。

「さて、音はどうにかなったけど、次の砲弾は防げないぞ。さすがに疲れた」

「手はあるだべか……?」

「カエンホウシャハツカエマセンヨ。ノイズキャンセラーニカンソウシタノデ」

「ムィイ!」

 騒音がなくなった結果、ムィもアテシアの上を滞空している。

「アテシアは自信ありげだね」

 もう勝ち確定のような顔をアテシアはしていたのをクレインに見られて少し恥ずかしかったが、それでも

EE(ええ)MSSN(もう照準も心配はない)ですわ」

 自信満々に言った。

 小さなハエトリグサの赤外線による照準は、あろうことかハエトリグサを選ぶ。

 本来はハエトリグサを選ばないはずだったのだろう。小さなハエトリグサたちもなぜそうなったのかわからないような表情をしているように見える。

 それでも照準は覆せない。ハエトリグサへと砲弾が飛ぶ。

SAIDW(さあ、今ですわ)

 単純な話だった。特典〔目すれば当たるアテンションエコノミー〕でハエトリグサを狙うように設定すれば、その場にいる全ての攻撃がハエトリグサへと向く。

 最初からこうすれば勝てたが相手の攻撃を理解してからでなければ使いにくい特典でもあった。指定はそう簡単に変えれないので容易に不慮の事故が起こる可能性がある。

ZK(全力攻撃)!」

 アテシアの言葉で全員がハエトリグサに向かっていった。

 数の暴力がハエトリグサを蹂躙していく。倒すのにもう時間はかからない。

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